第45話

「そうとうなんだな?」

 念のためエックに確認。

「そうだ……魔法攻撃が効かない緑竜で、しかも双頭……。本来3級魔窟に出るようなドラゴンじゃない……」

 エックの額に汗が浮かんでいる。

 ピリピリとした緊張感が肌に伝わる。

「ギーメに偉そうなこと言ったくせに……俺も、ちょい、自分の力を過信しすぎてたようだ……こいつは、俺一人じゃたおせねぇ」

 こいつは?

 こいつじゃないドラゴンなら倒せるとでも言うような言い方ですが、学園の同級生たちだったら、束になってもドラゴンは荷が重いと思うんだ。

 エック、もしかして、強いのか?

 あ、私の突撃で無傷なんだから、弱いわけないか。

「守るって言ったからには、何とか、朝まで時間を稼ぐからな」

 朝までって、まだ結構時間がある。

「魔活性の時間が終われば何とかなるかもしれない、それに俺が戻らなければギルドも動くだろう。援軍が来るはずだ……それまでは……」

 エックが私の顔を見た。

「何としても時間は稼ぐ……だが、巻き込んで済まなかった。こんなに綺麗な顔してんのに……」

 は?

 エックが私の頬を指先で撫でた。

「もし、守り切れず、ギーメが跡の残る傷を負ったら、責任取るから」

 いや、ナニイッテンノ?

 エックが私を抱きかかえて、たんたんたんと、地面を3回蹴り、ボス部屋の閉じられた入口付近に移動する。

 そして、私を入口のドアの前に立たせると、私の頭を撫でた。

「今度は、一緒にワルツ踊ってやる」

 いえ、結構です。

「あははは、断るって顔してるな。うん、よし。朝までの辛抱だ!」

 は?嫌そうな顔されて、笑うとか。

 やべぇ。

 こいつも、お父様系だ。間違いない。

 馬鹿じゃない私に向かって、馬鹿だと言うのは、怒らせたいからだ。

 睨まれると嬉しいって思うタイプに違いない……。

 近寄ったらダメなやつだ。

 エックは、今度は2回地面を蹴り、たんたーんと先ほどよりも高く飛び上がって、あっという間にドラゴンの目の前に戻った。

 そして、腰に下げた剣を引き抜きながら、迫りくるドラゴンの頭を避けながら、スパーンと。

 スパーンとドラゴンの首を切り落とした。

「つっ、強い……なんだ、ミスターエックス……二つ名持ちなだけはある……」

 なんだよ。随分大げさなというか弱気なこと言ってたから、そうとう強いドラゴンにはエックは歯が立たないって思ったじゃん。

 すぐに剣先の向きを変えると、再び襲い来る、もう一つのドラゴンの頭もスパッと、見事に切り落とした。

「勝負、ありだ!」

 あっけないもんだ。

 もしかしてドラゴンが弱いのか?

 でも、そうとう強いんだろ?

 と首をかしげる私の目に移ったのは首だ。

 さっき切ったはずの、一つ目のドラゴンの首がエックに襲い掛かる。

 え?

 あれ?

 エックが剣を振り上げた後ろで、二つ目のドラゴンの首もにょんっと生え変わっている。

「再生力えぐっ!」

 なんなんあいつ。

 切っても、切っても、切っても、切っても……にょっきにょきー。

 1つ目切ってる間に2つ目が回復し、2つ目切ってる間に1つ目回復し、また1つ目切ってる間に2つ目が……。

 って、きりがないじゃん!

「業火で一気に焼き払っちゃえ!」

 って、思わず口にしてからハッとなる。

 魔法攻撃効かないって、言ってた。

 え、ちょっと待てよ。

 ……だとすると、あいつ、どうやって倒すの?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

破天荒令嬢は魔窟グルメを堪能したい とまと @ftoma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画