第3話

 ヴィア。

 学校、という組織、学徒が集いそれを教導技能を有する教師陣が教え導く事を目的とする集団、及び付帯機能並びに施設。

 リヴィア・ファズ・ホリッシュロートン嬢は、そうした環境で必ず発生する処である人的阻害因子つまりは問題児。

 札付きの、超が付く、大問題児であった。

 

 まず何より、無駄に美形、美人。

 美人という認識はその人種、民族での外観の数値平均であるとかいう、主観とされるものの客観評価基準があるらしいが、まあそうした御託が無効になる様な存在。

 ビジュアルは無論、内からの輝きが彼女に接する万人を圧する。

 くるくると笑い、或いは口を尖らせ、しょんぼりもし、物想いに沈みもする。

 性格は明朗闊達、偶に毒舌、しかし誰を謗るという事はせず陰口は大キライだし、しかし自らは語らずその内心は誰にもわからない。

 頭脳明晰身体抜群、学業的にも非の打ち所のない最優等生。

 では、何の問題が。


 気まぐれ。


 その、僅かに、一点。


 そのイベントが発生したが最後、スクールカーストの頂点に、自ら何の政治力も駆使する事無く自然権の如くに君臨するヴィアを誰が。


 つまりそれはこんなカンジ。

 某日の講義で。


 その日の「六元素、火」の枠。

 板書を終え生徒に向き直った講師にヴィアがすっ挙手。

「何かな、ホリッシュロートン君」

 にこやかに尋ねる講師にヴィアは、素朴な疑問ですけどと前置き曰く。

「結局、魔導、術道とはなんなのでしょう」

 教室の全員が固まるなか、悠然と続けた。

「近年、巧業こうぎょうの発展には著しいものがあります、例えば」

 と。

 高速詠唱も要せず僅かな想念凝結、つまりウィンクひとつで掲げた右手に小ぶりな焔球を灯し、見つめながら続ける。

「別にこんな事をせずとも燐棒で付ければ火を扱うのは、今や誰にでも可能です、対して、私たち魔導兵団は年々後継者に悩まされ、儀仗観閲機会も年1回の総会から、卒業年次のセレモニー、三年に一回、端的に衰退、衰亡の一途にあり……」

 誰一人とて、抗弁どころか口を開く事すらためらわれる中、勇を奮って念伝したのは、そのスクカ頂点、双璧の相方。


《ヴィア、ヴィア、空気よめ、今演説しても仕方ないだろ?? 》

《演説? いや私別に》


 振り向いた先に学究委員長、メクレル・マーストン、平民出ながらその卓越した素養から特例奨学入校を果たした偉才の、端正なマスクが困惑に歪むさまに遭遇し、次いで初めて教室を見渡し、さいごに講師に眼を戻し、不規則発言たいへん失礼致しました~と消え入るような声を発ししおしおと着座。

「いえ、相変わらずの率直、柔軟な発想と立論、学究としては理想的です、たいへん宜しい」

 こっちもどこか社会性に課題を持つおおらか鈍感講師であったので、その場は平穏に収束したのであるが。

 月一あるか無きかの無断休校、野外演習での稀に行方不明、そして講義阻害行動。

 何れも軽微、しかし。

 既に伝説、或いは伝承に云う大魔導に比肩するのではないかと評される、余人を隔絶した魔才、時に講師をも翻弄する智才、そして意思。

 いつかなにか仕出かしはしないか、しかしそれが何か、或いは何時かは誰にも予見も対策も出来ない。


 上から下まで。

 ただただその平穏無事な卒業を祈る他ないのであった。


 

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千の使命と万の栄誉 ウェンスノーセ正伝 大橋博倖 @Engu

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