8-5 暴食令嬢は誓いを味わう
「……陛下。わたくしは美食の地で育った者。食べることを好み、食事を大切なものだと重要視している、ある意味ではあまり令嬢らしくない女です」
これまでも、さまざまな食事の時間を楽しんできた。
ときには、あれが嫌いこれが嫌いなどと口にして空気を悪くする者もいたけれど、経験してきた時間の多くは楽しめるものだった。
その中でも、ヴォルフラムとともに何かを口にする時間は――最初は戸惑ったけれど、非常に楽しかった。これ以上の楽しい食事は経験できないと思うくらいに。
「これまで、食事の際にさまざまな時間を過ごしてきました。その中でも、ヴォルフラム陛下。あなた様とともに食事をとる時間は、特に楽しかったのです」
差し出されたフォークを受け取り、切っ先をケーキへ向ける。見た目だけはホールケーキに似ているけれど、ホールケーキほどの大きさはないケーキだ。一人で食べきることを前提に作られるものなのだろう。
ふわり。周囲を満たす香りと同じ、甘く柔らかな笑みを浮かべる。
「叶うのならば、同じ時間をあなた様と共有したい。これからも、この先も」
直接言葉にしなくてもいい。これを口にすることで、想いの証明となるのなら。
ブランシェの手がフォークを操り、果物とクリームの化粧をしたケーキを崩す。
緊張の面持ちを見せていたヴォルフラムが目を見開き、数拍の間をおいたのち、幸せそうに唇の端を持ち上げた。
「……ああ。これからも、この先も。ともに楽しめる時間を提供すると約束しよう」
「ええ、約束です」
クリームとベリーがのった箇所をフォークで刺し、ブランシェは自身の口へそれを運んだ。
舌の上に広がる甘い幸福の味をじっくり楽しみ、飲み込んだ末に、ヴォルフラムが淹れてくれた紅茶を口にする。
適度な渋みと茶葉から抽出された旨味が甘く染まった口の中をリセットしていく。
もう一口分を口に運ぶ前に、ブランシェは幸福感に満ちた顔で笑った。
「大事にしてくださいませ、ヴォルフラム陛下」
「お前が嫌だと思っても離してやれないくらいに、大事にしてやろう。ブランシェ」
もう一口、ケーキを口に含む。
飾られたイチゴやベリー類の果物は甘酸っぱく、ふわふわに焼き上げられたスポンジを飾るクリームはほどよく甘い。桜色をしたクリームにはほのかな花の香りが溶け込んでおり、シンプルな味わいのある白いクリームとはまた違った味わいを楽しめる。
舌の上に甘く、とろけるその味は。
永遠を信じた幸福の味だ。
暴食令嬢は今日も腹ペコ 神無月もなか @monaka_kannaduki
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