第10話 奇襲
その日の夜、俺は突然目が覚めた。
外からは鈴虫の音が聞こえる。月の光が障子から漏れて、部屋を朧げに照らす。その障子を眺めるように、クイは座っていた。
「どうした?クイ、寝られないのか?」
クイは俺の声に反応しない。
いつもは元気に反応してくれるクイの様子がどこかおかしい。
そこへ、足音が聞こえたかと思うと、シナコが入ってきた。
「やはり、ここにいたのか、クイ」
俺はいつも通りシナコの一撃に備えたが、それはなかった。シナコもいつもの無愛想ではなく、どこか慌てて焦燥しているようだ。
「タイチ、ちょっときてくれ」
そう言われて、囲炉裏のある部屋にいくと、何人かの村人も集まっていた。少しざわついている。ただ、そこにサトルとシズカはいない。代わりにいつもサトルが座ってい場所にはシナコが座ると、口を開いた。
皆一瞬にして静かになる。
「どうやら我々は包囲されているようだ。サトルがいない時に緊急事態だが、何とかこの村を守らねばならない、みんな宜しくたのむ」
-うおおおおおっっっ!!
雄叫びのような声を上げると皆それぞれ家から飛び出して行く。その後をタモツがゆっくりと追う。俺も戦うべきなのか?いや、相手が何者か分からないが、これは逃げ出すチャンスだろう。
俺はいつでも逃げられるようにゼンを稼働させる。前まであった頭を締め付けるような感覚は、使っているうちになれ、すでに感じなくなっていた。
「タイチ」
そんな俺にシナコが声をかける
「お前はいざとなったらクイを抱えてここから逃げ出してくれないか?」
「え?逃げろと言ったのか?」
予想外の言葉につい聞き返す。
「そうだ、正直私たちにとって村よりもクイの方が重要なんだ。クイは強いが、相手はおそらく同類の他の村の奴らだ、なぜこの村を襲うのか分からないが、ここまでの事をするのは相当の勝算があってのことだろう。もし村を守れなさそうだったらクイを連れて逃げ延びてくれ」
「お前はどうするんだ?お前が一緒に逃げれば良いんじゃないか?」
今まで見たことのないシナコの緊迫した表情に、状況のヤバさを感じる。
「残念ながら私にはそれができない。可能かどうか分からんが出来るだけこの村をを守らなければならないしな。それに私は村での生き方しか知らない」
そう言って今度はクイの方へ向ける
「クイ、いいな必ず生き延びるんだぞ」
クイが黙って頷くと、外がにわかに騒がしかなってきた。
-うおおおっ!
雄叫びと、犬の叫び声が聞こえる。
シナコに続いて外に出ると、多くの犬が村人に襲いかかり、それを何とか一匹ずつ撃退している。隙をつかれた村人は襲われ、噛みつかれている。
「まあ、それはいざっていう時だ。とりあえずあの犬達を何とかするか。分かっていると思うが、クイは出来るだけ力を温存しておけよ」
そう言ってかかってきた犬を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた犬は30メートルほど吹き飛ばされ、痙攣したように動きそのまま横たわる。
周りを見回すと、意識的にかクイを円状に守るような布陣を組んでおり、村人からもれた犬をタモツが倒し、さらにこぼれた犬をシナコが倒していた。
みるみる犬は減って行くが、何人もの村人もダメージを負っている。
かつては見えなかった暗闇の中も、ここでの暗さの中で、ゼンを起動すれば月や星の光である程度見えるようになっていた。
村人達の力で犬をほとんど駆逐し、一息つくところで、村の入り口から大型バスが二台突っ込んできた。
二台とも家の前に止まると、一台目のバスから開いた扉からぞろぞろと人が出てきた。皆俯き加減で何も喋らない。まるでゾンビのなように身体をふらつかせている。
二台目の扉も開いたかと思ったら、中からはサトルが出てきた。
「いやぁ、意外にみんな死んでないね」
いつものようにヘラヘラした顔に、いつもの口調は逆に恐怖を感じさせる。
「サトル、あんた一体何しているのよ!シズコはどうしたのよ」
「ああ、シズコね、ちょっと厄介だから向こうで殺しちゃった」
サトルが乗って来たバスからも人が出てくるが、こちらから出てくる人は、シナコ達同様普通の人間のように見える。
「あんた。何言っているか分かっているの?」
「くくく、分かっている……。分かっているんだよシナコ。くっくく、分かっていないのシナコだよ?ねえ、この村は終わりなんだよ。失敗したんだ。残念ながらね。あまりこちらに被害を出したくないんだ。分かるだろ?大人しく死んでくれないか?」
サトルの後ろから、シナコと同じくらいの歳と女性が現れる。アルビノだろうか、肌は透き通るように白く、髪の毛も白い。その白い髪の毛を抑えるように紅いヘアバンドが付いている。
その女がシナコに語りかける。
「久しぶりね、シナコ。残念ながら、サトルはこっちについてもらったわ」
「ふざけないでよトキコ、何のためにこんなことを。私たちは協力して汚染された世界を変えるはず」
汚染された世界?どう言う意味だろうか。汚染とはガルネののことだろうか。俺は二人のやりとりを見ながら頭を巡らせる。
向こうの方が圧倒的に数も多いしサトルも向こう側だ。これはどうやっても勝てないなではないだろう。
シナコのクイを連れて逃げ出すように言われたことを思い出す。しかし、同時にどうやっても逃げ出せない気がした。
トキコと呼ばれた女性の後ろからさらに男の人が出て来た。サトルによく似ている。
「残念ねだったなシナコ。サトルはこちら側にもらった。お前たちに勝ち目はない。諦めて大人しく死ぬんだな」
「キズキ、お前サトルを汚染したな」
「だったらどうした?話はもう良い、後は頼んだよサトル、トキコ」
そう言ってキズキはバスに戻って行く。
これは本格的にまずいことになったかもしれない。
AIが支配する世界で地上調査に来たら訳の分からん連中に拉致られたんだが マシンマン @machineman
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