第9話 帰省
「そうか、それは驚いたね」
相変わらずヘラヘラしているサトル。タモツからの報告を受けると、楽しそうにそう言い放つ。
「でも、そうかシナコ分離させたんだ。それはお疲れ様」
「分離ですか?」
俺の質問にサトルが答える。
「ああ、言っていなかったっけ?僕たちはカリヤドに菌を移植させる事によって仲間を増やしているんだよ。まぁ、人間って免疫能力とかも結構強いから失敗する事も多いんだけどね」
「失敗したらどうなるんですか?」
俺はご飯を掻き込みながら話を聞く。
「イヌコマみたいになっちゃうんだよね。今回みたいに途中からああなるのは珍しいけど。」
なるほど、もしかしたら突然発症した拒絶反応みたいなものなのかもしらない。あれからシナコの元気がない。もしかしたら大分体力がいることなのだろう。
今日は静かな気がする。
クイを除いて
「タイチ、今日楽しかったねー!また行こうね!」
「あ、うん」
呑気なクイに俺は空返事をする。それでもクイは素直に喜ぶ。
「わーい、やったー!」
ふと、駐車場のバイクの事を思い出す。あれが動かせるようになれば逃げるのに役立つかもしれないし、何より普通に乗ってみたい。
「すいません、あの駐車場にあったバイクなんですが」
「ん、バイク?」
「はい、あのエンジンにタイヤが二つ付いたやつなんですけど」
恐る恐るきいてみる。
「ああ、あのガラクタか。気になるかね?」
「はい、でもやはり動かないのですか?」
「いや、動くんだがな。いまいまち二輪で動かすのが嫌いな人が多いんだよ」
言われてみれば自転車を漕いでいる人も見たことがなかった。元々この村人達は黙々と働く人が多いので気にならなかったが、二輪車に乗れなかったのか。
「じゃあ、ちょっと乗ってみても良いですか」
「ああ、乗れるようだったら、ぜひその乗り方でも教えておくれ」
「分かりました」
よし、とりあえずバイクに触れるチャンスをゲットした。地下コロニーにいるときは、たまに乗っていたから懐かしい。
俺は飯を食べた後、早速バイクに跨ってみる。
アメリカンなバイクは、けっこういかつい。
ガラクタと言っていた割には綺麗にされている。どれだけ整備されているかわからないが、見た目は問題なさそうだ。
エンジンをかけると、すぐにかかった。もしかしたら誰かしっかりと整備していたのかもしれない。
「ちょっと走らせてみていいですか?」
「村の中を少し走らせるくらいなら構わないよ」
サトルがそう言うと
「私も行く」
少し眠そうなクイが手を上げる。
もしかしたら、このまま逃げてらことができるかも、と少しだけ考えていたけど、この瞬間にその可能性は完全に絶たれた気がする。
「じゃぁ、後ろにのるか?」
「うん」
サトルの方を伺うと
「いってらっしゃい」
と手をひらひらとさせる。
俺は駐車場から路の方へとバイクの頭を回し跨るとクイが後ろに飛び乗った。
シナコ達もバイクの発進に興味があるらしく見に来ている。
いつまでも後ろの方で座らないクイ声をかける。
「クイ、ちょっと落ち着かないから座って俺に捕まってくれ」
「そうか、分かった」
クイがそう言って腰に手を回す。
「じゃあ、行ってきます」
どこかへ行くわけでもないけど、皆が見ている中、俺はそう言ってアクセルを踏む。
ブォンひとつふかせてから、ギアを入れて発進させる。
「おお」
サトル達が感嘆な漏らす声が聞こえる。
路に出てすぐにスピードを上げると、風が全身に当たり景色が流れた。
「すごい!すごいねー」
クイもはしゃいで楽しそうだ。
俺も久々に乗るバイクで気持ち良い。
地下都市に比べてやはり開放感がある。
あっという間に一周して戻ると、サトルがこえをかけてきた。
「おかえり、次からの鬼ごっこでは、それを使っても良いよ」
まじか?
最初はそう思ったが、次の日に実際クイをバイクで追いかけてみても、なかなかクイには追いつかなかった。クイはそれほどまでに早かったし、小回りではどうやっても向こうの方が上だった。
直線の最高時速では勝てるだろうけれど、短い距離ではクイの方が速く小回りも効いた。
おそらく、結局彼らからしたら村にいる分には走った方が早いし、遠くに行くなら車で行けば良いというのもバイクに興味を持たなかった理由なのかもしれない。
とはいえ気分転換にもなったし、いつでも乗って良いのはありがたかった。
俺はその日からバイクに乗る日が増えた。
もちろんほとんどクイが付いてくるのだが。
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