第8話 宗教
「そうなんだ、だから今の人工知能ガルネは人類の敵で、世の中を元に戻さなければならないんだ」
「ふむふむ、どうやって戻すの?」
「それはガルネのホストをダウンさせて、シーブ様をメインAIにするんだよ」
「へーすごいね」
部屋の中からはしゃぐクイの声が聞こえ、少し前の自分を猛省する。俺もきっとあんな感じだったのだろうか。
「どう思う?」
タモツが小さな声で聞いてくる。
「宗教だな、分かるか?」
「宗教とは神への崇拝ということか?」
「う〜ん、ちょっと違う気もするけど、まぁそんなもんかな」
「そうか、崇拝か。それは厄介だな」
俺は意外な反応に少し驚いた。彼らにも信仰というのがあったのか。いや、彼らこそ信仰があるのかもしれない。
「じゃあ、行くぞ」
そして
「なんだ、お前」
そんな声が聞こえた。
タモツに追いつくと、部屋の中には三人の男がいた。それぞれ10代後半から20代前半くらいだろうか。皆剃髪をしておりゆったりとしたTシャツにデニムのパンツを履いている。
三人で一つのちゃぶ台を囲みそのちゃぶ台の上にはそれぞれノートPCとコップが置いてあり、茶色い液体が見え、そのコップは汗をかいている。
ブンッと扇風機の回る音が部屋の中に響く。すでに部屋の中にクイはいない。窓から外出て行ったようだ。
タモツはゆっくりと三人の方へと近づく。
「な、なんだよ、おっさん警備呼ぶぞ」
タモツはその言葉を無視して一人の男の後ろに回ると首を絞めてあっという間に気絶させた。
「お前、何やっ……」
言い終わる前にその男の首もしめ、三人目の男も同様に手際良く気絶させた。
そのまま三人の男を担いで廊下に出ていくと、そのままバスへと向かう。俺は急いで開いているノートPCを閉じるとそのまま叩き壊した。
PCの中も気になったが、ノートPCにはカメラが付いているため、自分達の情報が漏れるのを恐れた。
何よりも自分がこの犯罪集団と仲間だと思われることを恐れた。ただ、やっている事はやはり協力ということになるのだろうか。
このアパートには八部屋あり。そのうち二階の三部屋が先程の三人で、もう一部屋は空き部屋だった。一階の方はすでにシナコ達が行動を起こしていたので、俺がノートPCを壊してトラックに戻ると全てが終わっていた。
タモツが荷台に乗っていたので、俺も荷台に乗ろうとすると、警備ロボットがやってきた。
おそらく三人組の誰かが非常ボタンを押したのだろう。一輪型のロボットがこちらにやってくる。
「キーーーーック!!」
グヮシャン!!
二十メートル程先でクイがロボットにドロップキックをかますと、ロボットは勢いよく吹っ飛び壁にぶつかりめり込んだ。
そのままクイはこちらに戻ってくると、軽トラの荷台に乗り込んだ。
「ただいま、タイチ、タモツ」
クイは楽しそうにそうに言う。
「ああ」
タモツがそう言い
「おかえり」
俺もそう言うと、軽トラは動き出した。
しばら走らせていると、遠くから声が聞こえてきた。
最初はよく聞き取れなかったが、その声はどんどん近づいてくる。
そしてその姿がはっきりと見えると、相手は最初に洗濯機にいたおっさんイヌコマだった。
「ま、マテェェえぇ」
顔は半笑いで目は充血している。よだれを垂らしながら、時折奇声を上げ、犬のように四足で走りながらこちらへと向かってくる。
そのまま窓の空いていたマイクロバスへと乗り込むと、マイクロバスは蛇行しながら急ブレーキを踏む。それを見るとタモツは荷台から飛び降り急停車したマイクロバスへ向かう。
俺もゼンを稼働させクイとと共にバスの方へ向かう。その異変にシナコも気が付がつき、軽トラを止めた。
マイクロバスの中では悲鳴が聞こえる。悲鳴というより叫び声だろうか。
「ぐわぁぁぁ」
「な、何なんだよ」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
タモツによって破壊されたドアから中を中を見ると、タモツがそのイヌコマと対峙している。イヌコマはちぎった腕を持って食い出している。
「なあ、何だか腹が減ってよぉ」
口の周りは血で汚れている。
「お前、飯食ってないのか?」
「いやぁ、食っていたんだけどヨォ〜、うん、確かに、アハ、くく、食ってたんだぜ〜?けど、とにかく腹が減るんだよ」
そう言うと、狭いマイクロバスの横に素早く飛んだかと思うと天井へ飛び、そのままタモツへ遅いかかる。
タモツはそれを待っていたかのようにイヌコマの顔面を蹴飛ばす。
ブンッ!
と音がしたかと思うと頭だけ吹っ飛び窓ガラスを割って外に飛び出す。
身体はまだ動いていているが先程の敏捷性はない。タモツはその身体を掴むと、外へ放り投げた。
そのままマイクロバスから予備用のガソリンを取り出すとコマイヌにかけて火をつける。
「ふ、ふ、ふふふふ、ふざふふざけん…」
そこまで言ってコマイヌは炎に包まれた。
「戻るぞ」
「お、おう」
言われるがままマイクロバスに戻ると、シナコが腕をもがれた青年を診ている。
「どうだ?」
「危ないわね」
タモツの質問にシナコが答える。
青年は、シーブ教の一人だった。ぐったりとしているが胸の辺りが上下している所を見ると、まだ息はあるらしい。他の人も傷はあるが大した傷では無さそうだ。
「どうする」
「仕方ないわね」
そう言ってシナコはその青年に口付けをした。
俺は横でその姿をただ眺めていた。
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