第7話 人攫

「今日は街に行く日だが、君もタモツ達と一緒に行くと良い」


 朝食を食べながら、突然サトルがそう言ってきた。この頃には身体も筋肉が増え、俺も一回の食事で米を二合ほど食べるようになった。


「街に、ですか?」


 食べながら聞き返す。


「ああ、あるアパートで君とはまた違ったような感じの人達が住んでいてな、見てもらって君の意見を聞きたいと思うんだ」


 違った人達と言うことは複数なのか、こちらとしても調査になるから良い話だし、チャンスが有れば逃げられるかもしれない。

 俺は素直に頷くと、サトルはクイに話しかける。


「クイ、村の外ではクイが捕まえる番だから、逃げたらちゃんとタイチ君のこと、捕まえなきゃだめだよ」


「大丈夫、クイ、捕まえる方が得意だから」


 と、クイが笑顔で答える。


 ち、あの糸目のやろうしっかりと釘を刺しやがった。


「心配しなくて良いよ、僕は君が逃げようがどうしようが構わないのだが、情報だけは欲くてな。それになぜかクイのやつも懐いているし」


それは俺から取れる情報がなくなったら用済みでいつでも借宿にできるということなのか?


 どちらにせよこちらから情報が得られると思っている間は無事にいることが出来るのだろう。


 その間に身体を作り、逃げる算段をしなければ。


 朝食が終わり軽く運動すると、タモツ達が集まってきた。


「おい、タイチそろそろ行くぞ」


 シナコの言葉にクイが楽しそうに反応する。


「おー!行こう行こう」


 そして俺の手を取り、軽トラの方へと向かう。


 この可愛い手がどこか鎖のように思えるのは、多分俺だけじゃないだろう。


「行くか」


「何カッコつけてんだ?」


 俺の言葉にシナコが突っ込む


「別にカッコつけてねーよ!」


 まじあいつだけはいつか引っ叩く!

 女だろうが何だろうが、引っ叩くと言ったら引っ叩く!


 俺が心の中で決意表明していると、マイクロバスをガツが運転してきた。中にはひょろ長いナガイの姿も見える。


「じゃあ、いってらっしゃい」


 相変わらずの細い目でサトルが手をヒラヒラとさせている。その横にはいつも通りシズカが立っている。


 きっと役割分担なのだろう。シナコが軽トラを発進させると、直ぐにマイクロバスも付いてきた。


 相変わらずの激しい揺れに喜んでいるのはシナコだけで、よく見るとタモツは運転側の隅の方でしっかりと荷台にしっかりとしがみつき、ケツが浮かないようにしている。


 なるほど。


 俺も真似してタモツと向き合うように座るとケツが離れないようき荷台にしがみついた。


 最近は出来るだけ使っていたゼンも今日だけは能力解放に使用せず、周りの景色をインプットする。


 二十分ほど進むと揺れ無くなり、さらに二十分くらい走って舗装された道に出ると、そこから三時間くらい車を走らせると大分民家も増えできた。


 すると突然クイが立ち上がる。


「じゃあ、先行っているねタイチ」


 クイは素早く荷台から飛び降りると、あっという間に先の方はかけて行った。

 しばらくするとクイの歌声が聞こえた。

 初めてクイと会った時の事を思い出す。


「いつもクイが最初に行くのか?」


「ああ、たいていその必要はないが、最初に子供が行くと色々とスムーズに行くんでな」


 なるほど、みんな子供相手に油断するということか。確かに俺もまさか子供が人拐いヒトサライの仲間だとは思わなかったしな。警備ロボットも、子供には寛大な対応をするというのを聞いたことがある。


 最も今や殆どが人工授精で生まれ、早くからバーチャル世界に入り浸りになるため、外に出る子供も殆ど見かけないのだが。


「よし、まずは先に潜入しているイヌコマが103号室にいるから話を聞きに行こう」


 そう言うタモツの後ろについて部屋の前に立つと、中から洗濯機を回している音がする。それを気にすることなくタモツが扉を開けると、狭い和室のど真ん中に洗濯機があり、その中に背の低いおじさんが服を着たまま入っている。


「ああ、タモツさん、やっぱりお風呂はいいですね」


 ぐぉんぐぉんと廻す洗濯機の水流を楽しむようにすっぽりときれいに納まったままそのおっさんは独り言のように話す。


「そうか、今日も上の奴らは集まっているのか?」


 そんな状態でも構わずタモツは話を進める。

 最も、常にフルダイブ中の人間もこのおっさんも対して変わらないし、外部からアクセス出来ることを考えたら、このおっさんの方がまともなのかもしれない。


「うんうん、集まってる。三、四人かな」


「そうか」


 そう言うとタモツはこちらの方に振り返る。


「じゃあタイチ、行くぞ」


「行くぞって?」


 まさか構わず襲う気なのか?


 俺の心配をよそにスタスタと外に出ると二階へと向かっていく。


 俺も急いでタモツの後を追った。


 二階へ上がると、奥の方から話し声が聞こえる。

 ボソボソと聞こえる声とは別にハッキリとした女の子の声も聞こえる


「へー、そうなんだ」


 明らかにクイの声だ。


 近づくにつれて話の内容も聴こえてくる。


 その内容で、彼らがシーブ教だと言うことが分かった。

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