第12話無念

 現在時刻午前7時半。電車で2時間で、遊園地は10時開園なので7時45分の電車に乗るつもりだ。


「コウ、電車で食べるお菓子買いましょ!」


 駅内にあるコンビニの方向を指差す光。


「いいね」


「電車来ちゃうし早く行くわよ!」


 俺の手をグンと引っ張る光。


 光との遊園地。楽しみだ。


 ―――



【光視点】



 電車に乗って即寝落ちしてしまったコウ。


 すーすーと寝息を立てて寝ている。コウは昔から車とか乗ると即寝してしまうのだ。


 私の中の悪魔が目覚めるまでさほど時間はかからなかった。


 私の前で無防備になるコウが悪いのだ。


「えい」


 手始めに頬をつんつんする。


「ん……」


 小さく身動みじろぎさせるコウ。


 起こしてしまってはダメなので一旦手を離す。



「……すー……すー……」


 反応が元に戻ったため再開する。


 コウの髪を優しく撫でる。


 羨ましくなる、つやつやとした髪。撫で心地めちゃくちゃいい。


 しばらく髪を撫でた後、頬をさらりと撫でて何となくコウの膝に頭を乗せる。


 ぼーっとしていると、眠くなってきた。昨日の夜楽しみであんまり眠れなかったのと、安心できるからという2つの要素が合わさって物凄く眠くなり、あれこれしようとしていた事は出来ず結局寝てしまうのか。


 ……こんなことなら無理にでも寝ておくべきだった。くっ……



 ―――



「……可愛い……良かった」


 起きてからの第一声。俺の膝で静かに寝ている天使へのリアクションと、降りる予定の時間を過ぎてない事を電車内の電光掲示板で確認できての安心の声。


 電車が発車してからの記憶が美味しそうにじゃがりこを食べる光しかない。


 現在時刻は9時15分。寝る前は30分だけ寝よとか思っていたのだが約1時間寝てしまったようだ。寝過ごさなくてほんとに良かった。


 光がウッキウキで立てていた計画がパーになるところだった。


「ひか……」


 起こそうと声をかけようとしていた俺だったがピタリと止める。


 昔から光に起こされる立場の為、光の寝顔をほとんど見た事が無かったからだ。


「よし」


 さすがに寝ている光を触ったりするのはまずいだろう。うん。


 到着15分前の9時30分に起こすとしてそれまでの15分間光の寝顔を堪能しよう。


「いやガチで天使……」


 起きている時も表情豊かで本当に可愛いが、寝ていると可愛さに神々しさが追加付与される。


「……無念」


「え?」


 落ち武者の亡霊ような寝言だ。一体何が無念なのだろうか。


 ……気になるな。後で聞こ。


ーーー



「光、起きて」


「……コウ!?」


 バッと勢い良く起き上がってくる光に反応できず、がんっとおでこを衝突させてしまった。


「あいたっ!!……ごめんコウ!!」


「……いや、大丈夫」


「わ、私半目になってなかった!?」


「いや、可愛かったよ。それに光なら半目でも可愛い」


「~っ!それ答えになってないわよ!」


 おでこを抑えながら頬が赤くなる光。可愛い。


「……あ、光。なんか寝言で無念って言ってたけど何が無念なの?」


「……へ、変な夢でも見てたんじゃない?」


 目が泳ぎまくっている光。


「ふーん……」


「な、なによ?」


「やましい事があるんだ」


「……やましい事をし損ねたのよ眠たくて」


「あー……なるほど」


 寝ている俺に何かしようとしたものの眠たくなってしまいできなかったという事か。


「許すので、これから寝ている光にやましい事してもいいですか」


「……少しなら」


「よし、言質とった」


「す、少しよ!?」


「少しってどんくらい?」


「……頬にキスくらい?」


「それは……少しなのか?していいならするけど」


「……いいわよ!?かかってきなさい!」


 少しのベクトルが違うが許可をもらったので次の機会に勇気があればする事にした。


 ……背徳感と良心の呵責で結局できない気しかしない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る