まくあい ひーろー
※このエピソードは、「幕間03 ソウダン(4)」でヤスが語った昔話の続きになります。そんなもんスッカリ忘れたよ!という方は、こちらを先にどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220140659092/episodes/16816452220320071718
―――――――――――――――――――――――――――――――
おれは川の中にすわりこんで、たった今落ちてきた橋の上を見上げる。そこには、さっきまでたたかっていたイジメっ子が、心配そうにこっちを見下ろしていた。
すぐに立ち上がって、自分の体をかくにんしてみる。落ちてる時には死ぬかと思ったけど、意外とだいじょうぶみたいだ。しゅぎょーの成果が出たのかなー?
それでおれは、ビショビショの体で橋の上までダッシュでもどると、かけよってきたイジメっ子に指をつきつけて言ってやった。
「おいおまえ、かしひとつだ。これにこりたらもう悪さするなよ」
うん、うまく言えたぞ。えい画のはーどぼいるどなおじさんが言ってた、チョーカッコイイセリフだ。
「ごめん、あとありがとう」
そいつははんせいしてそう言い残すと、子分をつれて走っていった。
よーし、イジメっこから女の子を助けて、ヒーローっぽいことができた!
おれもかぜをひく前にさっさと帰ろう、そう思ったんだけど……
「……っぐ……えっぐ……」
助けたはずのメガネの女の子が泣いていた。
「どっ、どうしたの? イジメっ子はもういないぞ?」
「ふえぇ……かみどめ、なくしちゃった……」
女の子はそう言って、橋の下の川を指さしている。イジメっ子にかみを引っぱられていたし、そのときに飛んでいったのかな。
「うう……またママにおこられちゃう……っぐ、ひっく……」
「そうなんだ……んー、こまったなぁ」
ヒーローらしくなんとかしてあげたいけど……もうとっくに流されててひろえないよなぁ。
「うーん…………――あっそうだ! ちょっとまってて!」
良いあんをひらめいたおれは、橋の近くにある店に向かって走っていった。
その店の前には、ガシャガシャの箱がいっぱいならんでいて、おれはその中で一番目立つキラキラしたヤツの前に立つ。箱には、「ちょ~きゅ~となアニマルヘアピンよ! これで気になるアイツもメロメロだぞっ!」とアニメキャラが言ってピースしている絵がかいてある。
メロメロってなんだろ……メロンがふたつ? でもこれもかみにつけるヤツみたいだし、あげたら泣きやんでくれるかも? 女の子がどんなのでよろこぶのか良くわかんないけど、この前クラスの子たちがカワイーってうわさしてたから、きっとだいじょうぶ。
さっそくビショビショのポケットに右手をつっこんで、中のお金をにぎって取りだす。その中から百円玉をつまんで入り口に入れて、箱のハンドルを回してみると…………えっ、回らない? なんで!?
こわれてるのかな、と思って箱をよく見ると……なんと「一回四百円」と書いてあった!
「うええっ、これ百円じゃないの!? こんなスッゲー高いのもあるんだ……」
もう一度右手を開くと、のこりは三百五十円くらい。ギリギリ足りるけど……おこづかいがほとんど無くなってしまう。明日は楽しみにしてたマンガの発売日だから、すごくこまるぞ。
「ぐむむむ……」
でも……ここであの子をほっておくのは……ヒーローらしくないよな!
そう決心したおれは、ほぼ全ざいさんの三百円をほうりこんでハンドルを回す。
今度はゴロゴロと音がして、中から出口へカプセルが落ちてきた。
「うわ、でっか」
それを手に取ってみると、ふつうの百円のヤツよりもすごく大きい。高級なカプセルをドキドキしながら開けてみると、中からかわいいウサギのヘアピンが出てきた。……よしっ、これならよろこんでくれそうだぞ!
◆◆◆
おれがダッシュで橋にもどってくると、待ってくれていた女の子もこっちに走ってきて……
「あ」
なんと目の前で転んでしまった。この子、何もないとこでコケたんだけど……すっごくドジなのかっ!?
「だ、だいじょぶ?」
前に飛んできたメガネをひろって、起き上がった女の子にわたしてあげると、
「ううぅ……ありがとぉ……」
はずかしそうに顔を赤くしてそう言ってきた。
「……あと、これ! はいっ!」
続いておれは、ゲットしてきたウサギのヘアピンを前に出して見せる。
「ふぇ? あのぉ、これは……?」
「どうぞ!」
「えとぉ、ひょっとして、わたしに……くれるの?」
「うん!」
くびをかしげる女の子の手をつかんで乗せてあげると、
「ふわぁ~かわいい」
それを見て少しだけ笑ってくれた。よかった、気に入ってくれたみたいだ。
「あ……でも……こんなのもらっちゃいけないんだよぉ……」
でもすぐに暗い顔になってしまった。……そうだよなぁ、知らない人から物をもらっちゃダメって、おれも父さんから言われてるし。
「それに、お金も……」
「んーと……だいじょうぶ! おこづかいはいっぱいあるから、こんくらいへいきだ!」
りっぱなヒーローになるには、やせがまんもひつようなのだ。
「それに、おれがつけてもしかたないから、もらってくれないとこまるぞ!」
「それでもだめだよぉ……」
女の子はえんりょして返そうとしてきたので、
「はいっ」
おれはそれを手に取って、まえがみにつけてあげた。
「かわいい」
「!?」
思ったことを言ったら、なんでか分からないけど、女の子の顔がりんごみたいにまっ赤になった。……もしかして、かぜでもひいてるのかな?
「どうしたの?」
「………………なんでも、ないよぉ……」
「ん~?」
女の子はむつかしい。クラスの子らも、すぐおこったり泣いたりするしさ?
「……あのさ、言いたいことは言わないとダメなんだぞ? ほら、さっきみたいなイジメっ子には、イヤってちゃんと言ってやらないと!」
「そ、そんなこと言ったら……もっといじめられちゃうよぉ……」
「むー、おまえ弱そうだもんなぁ…………だけど力がなくても、わざがあれば強いヤツにも勝てるんだぞ?」
そう言ってた父さんに、じゃぁもし向こうもわざを持ってたらどうしたらいいのって聞いたら、「もっとわざをみがけ!」と言われた。ぶじゅつはおくが深い。
「そう、なの?」
「うん。――ヨシ! じゃあおれが手本を見せてあげる! ……………………こうだっ!」
こしを深く落として、父さんに習ったせいけんづきを見せる。ブンと風の音がして、ぬれた体から水が飛びちった。
「おおお~すごいすごい! ふわぁ、かっこいいなぁ」
女の子はすごくおどろいて、パチパチとはくしゅしてきた。なんだかてれる。
「はい、次はおまえな」
「えっ、えええ? わたしも……やるの?」
女の子は一歩後ろにさがって、ゆびをチョンチョンしている。
「あのなー、おまえのために見せたんだから、やってくれないと意味ないじゃんか。ほら、どーんといけー!」
「う、ううぅ、わかったよぉ………………えっ、えいっ!」
女の子がひょろひょろのパンチを出す。……うーん、これじゃ当たってもいたくないし、イジメっ子をやっつけるのはむりそうだ。
「ぜんぜんダメだなぁ」
「そんなぁ……」
おれがダメ出ししたせいで、すごくガッカリしてしまった。
「あー、でも、気持ちがだいじだからな? ぜったい負けないって気持ち! それがあれば相手もぜったいビビるから!」
「う、うん。わかったよぉ」
女の子は両手をにぎって、きあいを入れている。よいこころがけだ。
「そうだ、おまえもぶどーを習うといいぞ! 『男はまずにくたいが強くなくてはならん』って父さんも言ってたしな? ――あっ、でもおまえは女の子だったかぁ……べつに強くなくてもいいの、かな?」
前に父さんが、「じつは母さんには勝てなかったんだぞ? ガハハ」って言ってたし、強い女の子もいるのかもしれないけど?
「――ぶえっくし!」
「きゃっ」
「ごめんごめん。ちょっと寒くなってきたかも……」
このくらいのことでくしゃみが出るとは、おれもまだまだしゅぎょーがたりんなー。
「帰るかー」
「うん。そのぉ、ヘアピン……ありがとう。だいじにするね♪」
そう言って笑った女の子が、すっごくかわいらしかったので、
「へへっ、いいってことよー」
おれはむずがゆくなって、ちがう方をむいて鼻の下をこする。
「あと、お名――」
「んじゃな!」
女の子が何かを言いかけていた気がしたけど、おれはてれくさかったので、全力で走って帰っていった。ヒーローはさりぎわもカッコよく、風のようになのだ。
……そうしてその後おれは、ねつが出て三日もねこんでしまった。まったく、こんなことじゃヒーローへの道は遠いぜ。もっとしゅぎょーしないとな!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
幼少期の陽の立ち絵です。
https://kakuyomu.jp/users/mochimochinomochiR/news/16817139554600931957
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます