幕間03 ソウダン(1)

【作者よりご注意!】

 これは大地視点以外のストーリーとなります。まずは大地視点のみで物語を進めたい方は、ブラウザバックいただき、「5-12 https://kakuyomu.jp/works/16816452220140659092/episodes/16816452220417925604」からお読みください。

 






























 放課後の銀丘高校の校門前で、私はとある人を待っていた。ポケットから懐中時計を取り出し、何度目になるか分からない確認をすると……すでに二十分オーバー。時計を仕舞ったところで、大きなため息が漏れ出る。


「もう、レディをこんなに待たせるなんて、ほんと困った人だわ……」


 色々と急いでいることもあるし、それにこうして手持ち無沙汰になると、つい色々と考えてしまう。思い出すのは、もちろん今朝のこと。


「……ああ、本当に、仲直りできて、良かった」


 思わず涙が出てしまったほどに、うれしかった。もし今日がダメだったとしても、それこそ何度だってチャレンジし続けるけど、その度に傷付き続けるのは凄く辛い。昨晩も仲直りする方法を悩みに悩んだ末、真っ直ぐな人には小細工無しに誠意をもって謝るのが一番、そう思ったのだけど、やはり正解だった。そもそも、私自身それが一番しょうに合っている……うふふ、大地に似ちゃったのかも。

 それにしても、私の方も結構酷いことを言ったのに、謝っただけですんなり許してくれて……あぁ、やっぱりすごく優しいなぁ。もちろん全部好きなんだけど、特にそういうところが、本当に大好き。

 それで最後に大見栄切っては来たものの、次のステップはなかなか難しい。本人はどうやっても口を割りそうにない――ってぇそれよっ! アレが全然効かないとか、どういうことなのよ? いつもの大地ならイチゲキコロリの必殺技なのに! むぅ、ちょっと自信無くしそうになっちゃうけど……うん、そんなに言いたくないほどの事情ってことなのね。

 こうして私は、今朝の大きな成果と課題を反芻はんすうして時間をつぶしつつ、それを打開するための協力者を待っているのだった。周りを見れば、金曜放課後からの連休だと言わんばかりに校門から早足で出て来る生徒や、逆に熱心にもロードワークへ向かう運動部の姿が目に入る。そう、当然のごとく高校生しか居ないので、小学生の私は浮きに浮いてしまう。


「声掛けられたりすると嫌だし、早く来て欲しいんだけどなぁ……他で待ち合わせるべきだったかしら──あっ!」


 そうして忍耐が限界に達していたところで、ついに待ち人の姿が視界に入った。その金髪の片側をヘアピンで留めた童顔の生徒は、遅れたことを多少気にしているのか、着崩した制服をなびかせながら早足でこちらに向かってくる。

 よーし、ずいぶん待たされたし、驚かしちゃおっと♪

 ギリギリまで隠れておいて、彼が門から出たところを見計らい、すかさず目の前に飛び出して声を掛けた。


靖之やすゆきさんっ!!!」

「うわっ、電柱の君! ――に化けた夕ちゃんだったか。いやぁデジャブだね」

「またその変な呼び名!? しかもそれものか何かなんです!?」


 ほんと失礼しちゃうわ。コンクリみたいに硬くて、しかも寸胴ってことじゃないの……そりゃほぼ寸胴だけどさ! 今に見てなさいよ!


「もぉー、私だって好きで電柱に潜んでるんじゃありませんよぉ。校門の前に小学生が一人で立ってたら怪しまれるし、ここ全然隠れるところないしで、仕方なくなのですっ!」

「いやぁーごめんよ、ちょっと抜け出すのに手間取っちゃって」

「あ、そうですよね。その、部活があったのにすみません。しかも部長さんですもんね」


 うん、こうして来てくれただけでありがたいんだし、ちょっとくらい遅れても文句言っちゃダメ。贅沢は敵よ。


「夕ちゃんの頼みだし、お安い御用さ――ってここじゃアレだし、歩こっか?」

「あっ、はい。用事はちょっと先のとこです」


 色々な意味でこの場を早く離れたかったので、早速と靖之さんを連れて目的地付近に向かうことにした。



   ◇◆◆



 少し歩いて繁華街まで来たところで、頃合いと見て話しかける。


「あの、靖之さん。その用事と言うのは……もし良かったら、ちょっとお茶に付き合ってくれませんか? 呼び出してから聞くのも、なんですけど……」


 近くのチェーン喫茶店を指さして、そう訪ねてみる。私単体では入れないけれど、高校生の靖之さん同伴なら、恐らく問題ないはず。


「むっひょほー! マイエンジェル夕ちゃんからお茶のお誘いだなんて、今日はなんて素晴らしい日、なん、だっ! やっぱり部活なんかやってる場合じゃなかったね!」

「え、ええぇ……」


 申し出を受けてくれた事はありがたいけれど、ここまではしゃがれるのは想定外で、少し引いてしまう。


「あ、もしかして、大地から僕に乗り換えたりとかしちゃったり? なぁん――」

「さて、お茶する前に、昨日のヤクザ達を探しに行きましょうか。私なんかよりもっと愛してくれる人たちがいーっぱい待ってますよ? それこそ両手とは言わず、四肢に五臓に六腑ろっぷと語呂良くくまなくで赤い華をもらえますね、やったぁ♪」

「ごめんっなさいぃ! あと冗談だから最後まで聞いてくださいね!? 無邪気な冗談みたいな気軽さで、言ってることガチでえげつないわこの子……」

「まったくも~私はパパ一筋なんですぅ。他の人とか、あ・り・え・ま・せんっ!」


 ほんと調子乗りすぎよ。まぁ、ちょっと可愛いかなって思ったりなんかも……ないなぁ。


「あ、いや、うん。さすがの僕でもそのくらいは分かるからさ? 冗談だからね?」

「ええ、知ってますよ」


 承知の上で、やっぱり解ってないから言ってるのに。

 だって……私は大地しか愛せないから、絶対に他の人を愛しちゃいけないの。

 なので、それがこんな言葉だけの軽い冗談であっても、看過なんてできない。神様は信じてないけど、言霊は信じてるから。


「例え冗談でも、本当にやめてください」

「はっ、はい……」


 この警告で真剣さが伝わったのか、靖之さんは少し驚いた顔をして改まる。


「そこまで怒ると思わなくて……ご、ごめんね?」

「――っとと、大丈夫ですよ。別に怒ってなんかいませんってば、ふふっ」


 そもそも私の勝手な事情であって、彼に悪気は無いのだから、これはやりすぎだった。……あーもうっ、大地のことになると冷静さがなくなるの、ほんと気を付けなきゃ。こんなんじゃ、いつか痛い目見ちゃうわ。


「もぉ~そんな顔しないでくださいよ」

「あ、うん……それで、勘弁して下さる感じで、ございまして?」 


 そんなみっともない顔で懇願しなくても、ひなさんを救った英雄にそんなことする訳がないのに。ほんと、おバカさんねぇ。


「うふふ。じゃぁ、喫茶店に行ってくれますね?」


 でもその顔を見ていると、何だか楽しくなってきて、ついからかってしまった。大地の気持ちが、少し分かったかもしれない。


「なんだろ、元々断る理由なんて無いけどさ、この手玉に取られてる感じ……イイ」

「気持ち悪いですね」


 じとーっと半目で睨んではみたものの……これも喜んでしまうんじゃ? ど、どうしたらいいの!?


「もはや隠そうともしなくなったよこの子!」

「ほらほら、早く行きますよ~」


 彼の手をつかんで引っ張ると、それで昨日必死に追いかけて掴んだ手を思い出してしまい、胸にズキリと痛みが走る。


「そんな急がなくても喫茶店も僕も逃げは――って、顔色悪いけど大丈夫?」

「……あ、平気です」


 そこで顔が強張っていたことに気付き、慌てて平静を装う。今朝で仲直りはできたのだから、思い出し落ち込みしている場合ではない。


「ええと、突然呼び出して、お茶しようなんて言い出したってのは、アレだろ……大地のこと聞きたい、でいいよね?」

「えっ……はい」


 本当に人をよく見ていて、察しも良い。おバカなのか賢いのか、よく分からなくなる不思議な人だ。


「それで、ダメでしょうか?」


 今朝の対大地の時とは違い、必殺技抜きでごく普通に尋ねる。いくら目的のためとは言っても、大地以外にアレを使うなんて、絶対にありえないもの。


「そうだなぁ、夕ちゃんになら……話してもいいかな」

「ほんとですか!?」

「んー、本当は本人に直接聞いて欲しい――ってか試しにそう言ってみたんだけどさ? あの様子じゃ、だいぶ難しいなぁと。あいつクッソ頑固だし」

「え、えええ!」


 まさか私に話すように大地へ言ってくれてたなんて……靖之さんってば、グッジョブ過ぎるんですけどっ! それにこれは、大地のことに関して、靖之さんから信頼されてるってこと、だよね? うわぁ、なんだか嬉しくなっちゃう。


「ありがとうございます。あと、すみません、靖之さん。その、絶対、言い辛い話だと思うんですけど、どうかお願いします」


 ここで得る情報を足掛かりに、何としてでも大地の心に入り込まないと、次へは進めない。


「ん、まぁ、ね。じゃぁとりあえず、中で」


 そう言って一旦話を打ち切り、二人で喫茶店へと入って行った。

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