5-11 節介
カウンターで料理を受け取った俺は、ヤスと向かい合って食べつつも、ひとり考え込んでいた。先ほどのヤスの発言「リスクを負わない」から、一色の「似たもの同士」という
それで一色はこれまでに、とてつもない回りくどさで俺へ探りを入れてきており、見方を変えれば病的なまでに慎重──いわば慎重魔王だ。対して俺の方も、一色とのやり取りで無難な選択をし続け、それが一色には筒抜けで完全に読まれていた。そう言った極めて保守的な性格について、一色は「似たもの同士」と言いたかったのかもしれない。
それにもしかすると、小澄を見捨てるに至った俺の行動原理についても……いや、さすがの一色でもそこまでは察していない……そう思いたいな。もしそうなら、もはや絶望でしかない。
「――おーい、大地さーん?」
気付けばヤスが呼んでおり、俺の顔の前で手の平をゆらゆらさせている。
「なんだじゃねーよ。オマエ考え事してっと、ほんと人の話聞かんなー?」
「お、おう、すまんすまん。それで?」
「んー、いやね、今朝の話だけどさ」
「今朝というと……あぁ、夕のことな」
「そそ。夕ちゃんもそうだし、あと小澄さんのこともさ」
今朝の話でもう終わりかと思っていたが、夕絡みだと本当にしつこい。
「特に話す事はない。以上っ」
「まぁまぁ、そう言いなさんなって。んでだ、これからどう接していくよ? 小澄さんは同クラの同部だし、無視ってわけにもいかんだろ。夕ちゃんだって、さっき言った通りお前の気持ちがそんなだし、
「別に無視するつもりもないし、もし向こうから話しかけて来れば
先ほども相当気まずそうにしていたので、嫌われているのは確実だが……それでいてなお、俺を
「うーん、それはまぁ、そうかも……か? にしても、もったいねぇよなぁ。あんな美人でいい子で……何より胸がめっちゃ大きいのに!」
「そういうのとは別、魅力以前の問題だしな。それにそこまで言うならお前が狙えばいいんじゃ。昨日のことで、かなり好印象になってるはずだろ?」
俺の評価が下がった分、ヤスの評価が上がる──つまり好感度保存則が成立。ここテストに出ます。
「そうそう、ちょっとだけ張り切っちゃったかな、あはは――ってなんだよ、夕ちゃんから聞いてたの? そもそもさぁ、お前が昔みたいに……ん、それはまぁいいか」
ヤスは懐かしむような顔をしたかと思えば、残念そうに首を横に振る。ヤスまで、俺らしくないと言いだすのかと思った。
「それと夕の方は……まぁ難しいかもしれんが、気長に追い払ってみるさ。今朝はちょっと失敗だったけど、次こそはな」
気付けば夕のペースに巻き込まれ、いつの間にか仲直りの雰囲気になっていた。一色とは別の意味で、恐ろしい子だ。
「そんな調子じゃ永久に無理だと僕は思うんだけどなぁ……だって、会って話をするほどお互いの好感度上がっていくんだぜ?」
「む……確かに」
追い返すなら今が一番易しいわけで、今すぐできなきゃ今後はもっと無理ってか……ぐぅ、まさにその通りなんだよなぁ。
「あとさ、そのなんだ、夕ちゃんには……話したん?」
「いんや、まさか」
なかなかに強烈であざとい攻撃だったが、首の皮一枚でギリ耐えた。夕の方は、強引ながらに根は素直で引き時を弁えているから、頑張れば何とかなるのだ。宇宙一のひねくれ者な一の字さんは、何をどうあがいても絶望しかないが。
「そうだよなぁ。んー、要らんお節介かとは思うけどさ、話してみたらどうよ? ほら、あの子何かと頼りになるし、お前のためなら何でもしてくれると思うぞ?」
「小澄の奇行についての相談は、確かにそうだったな。だが、今回は立ち位置が全然違うし、逆効果にしかならん」
夕に話したが最後、あれやこれやと熱心に首を突っ込んできて、要らぬお節介を焼きまくってくるのが目に見えている。この件については百害しかなく、それで夕には絶対に言いたくないのだ。
「当事者の大地がそう言うなら……しゃあないかぁ。あと奇行て、なかなか酷い言い草――ん?」
ブブブ
そこでヤスのあたりから、テーブル経由で振動音が伝わってきた。ヤスが慌ててポケットから携帯を取り出し、画面を確認したところで、驚きの声が上がる。
「お気に入りのアダルトサイトから高額請求のメールでも来たか? すぐに払うんだぞ?」
「そ、そんなの、見てないから、な? あと払っちゃだめだろ――って、いや、あー、母さんからで、ちょいと帰りに買い物頼まれちまったわ。メンドクサッ!」
なるほど、母親が居るとこういうイベントも起きるらしい。俺からすれば少し羨ましいほどだが、ヤスは実にイヤそうな顔をしている。
「つーわけで帰りはバラでよろしく」
「よろしくも何も、いつもお前が勝手に付いて来てるだけだし……むしろ助かるぞ?」
「もうちょっと僕を大切にしましょうね!? いつまで経っても僕の扱いが雑だよ!」
昔からかなり雑に扱ってはいるが、こうして文句は言いつつも相変わらず付いてくる。夕といい、俺の周りにはしつこい連中しか居ないのか。
「気が向いたらな。さて、行くか」
「是非とも気が向いて欲しいもんだよ……」
そうして俺は、不満げなヤスとともに食堂を後にするのだった。
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