5-10 性分
食堂へ着いた俺は、裏切者を始末しにきた
「──うおぅっ!?」
なんと真横に潜んでいた! まさか暗殺対象も忍者だったとは――ってか居たなら声くらいかけろよな。
「テメェ――」
「さーせんっした!!!」
さっそく文句をぶつけようとしたが、先手必勝とばかりに謝ってきた。しかも
「見捨てるのは本当に忍びなかったんだけど、僕じゃ足手まといにしかならない気がして……だから僕はその場に居るより先に行った方が、大地が逃げる口実になって助けになるんじゃないかと……」
「お、おお……まぁな」
確かにその通りなのだ。ヤスは意外にも、
「と言いつつも、普通にブルったのもあるけどさ……」
ヤクザにも立ち向かえるのにどんだけだよ、と普通は思うところだが……あぁその気持ち、わかるぞ! それにこうして正直に白状したことからも、反省の色を感じる。
「逃げてくるのに結構時間かかってたみたいけど……大丈夫、だったか?」
「はぁぁ、わぁったよ! もう許す。結局ヤスの有無は関係な――くはないんだが、居たら余計ややこしかっただろうし。それとお前が言うように、こうして逃げ出す口実にはなった……とは言っても、ボコボコにされた後だけどな!?」
「そ、そうか。そいつは何ともご愁傷さまなことで」
ヤスは申し訳なさそうにそう言って、手を合わせてくる。
「そうなると……何があったかは聞かない方がよさそうだね」
「まぁな。ぶっちゃけ俺の問題だ」
「それって……なーこちゃんまでも関わってきたってこと? いやぁ、お前も大変だなぁ」
ヤスはこの件の詳細な事情を知っているので、これだけで察してくれる。
「ま、そんなことは飯食って忘れようぜ!」
先ほど
多少のありがたみを感じつつ後に続くと、
「おいおい大地、見てみろよ! 面白い新メニューがあるぞ?」
ヤスが券売機の前でこちらへ振り返り、大きく手招きしてきた。
「お前が言う面白いは、総じてろくでもないが……ええと、どれだ?」
「これこれ、『シェフの気まぐれランチ』だってさ、どうよ?」
ヤスが指差したボタンには、普通の学食にはまず無いような、場違い過ぎるメニューが書かれていた。
「いやいや、どうよと言われても。あとシェフて……この食堂にはおばちゃんしか居ないのでは? どっからどう見ても怪しさ満載だし、こんなん注文するヤツいるのかよ?」
食堂のおばちゃんを馬鹿にするつもりは決してないが、「シェフ」といった
「まぁまぁまぁ、値段もお手頃だし、試しに食べてみようぜ?」
値段は五百円とあり、もし本当にシェフが作ってくれるのなら、とんでもない安さだ。
「なぜそんな正体不明のものを、喜び勇んでオーダーせにゃならんのだ。バカなん?」
「いやいや、アタリかハズレか想像もつかないところがいいんじゃんか。自販機のハテナ缶みたいに、それ自体がエンタメって感じでさ? ほら、ハズレでもそれはそれで面白いだろ、笑い話のネタに使えるし?」
なんだその、転んでもタダでは起きない関西人みたいな発想は。
「悪いな、俺は正体が
「うーん……大地ってほんと無難というか、リスク負わないよなぁ。ノリ悪いぞ? もっと人生楽しもうぜ」
「ほっとけ。そういう性分なんだ。……ん?」
もしや……さっきの呟きは、そういう意味なのか?
「どした? やっぱ注文する気になったか?」
「それはない」
「ちぇ。一人じゃつまんないし、僕もまた今度にするかー」
そう言って飽きもせず天丼を選ぶヤスに続き、俺は安定と信頼のB定食のボタンを押した。
そう、こういう普通のでいいんだよ。世の中万事、普通が一番だ。
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