5-09 同士
抵抗も
それで一色の顔色を
「おっとと~、ヤスくんが先に~食堂行ってるんだったよねぇ~? 追いかけなくて~、だいじょぶぅ~? ヤスくん
一色は細めた目をこちらに向けて、同意を求めている。これはやはり、俺が小澄を見捨てて立ち去ったことを非難しているのだろう。
「そ、そうだな。まあ、アイツにも理由があるんだろうさ」
ただの醜い自己弁護だ。本当に情けない。
「へえ、同じこと言うんだ」
そう呟いた一色は、これまでと少し雰囲気が違い、怒りに加えて
それともう一点気になるのは、「同じ」が意味することだ。ここまでの流れからすると、小澄が話した内容と「同じ」、ということだろうか。二人がどのような会話をしたかは不明だが、こうして一色がわざわざ確認しにきたことからすると、小澄は俺について直接は触れていないはずだ。それにも関わらず、小澄は俺をかばうような発言をしたと……相変わらず謎すぎる子。目の前の一色も、俺と似た不可解さを感じて苛立っているのだろうか。
「同じってのは――」
「あっ、なーこさん」
ダメ元で問いかける途中で、背後から一色を呼ぶ声がし、振り返れば件の小澄。
「っ……大地、くん」
小澄は振り返った俺を見るなり、気まずそうに顔を伏せる。こちらも合わせる顔などなく、逃げるように目をそらした。
「おお? ひ~ちゃん、よ~っす! あ・とぉ、
普段のノリに戻った一色は、小澄をピシッと指さす。
「あっそうでした、ごめんなさい。こんにちは、なーこちゃん」
「よろしですし~♪ う~ん、ひなちゃん
一色が小澄にピトッとくっ付いてナデナデすると、小澄は照れながらも
それと一色は妙に「は」を強調してきたが、その比較対象は恐らく俺で、先ほどの怒りと苛立ちの腹いせなのだろう。前回といい今回といい、俺なりにさんざん無駄な抵抗をしているからな……ま、素直じゃないと言えば、お前がナンバーワンだけどな。
「ところで……そのぉ、なーこちゃんは大地君と仲良いんですね」
おいおい、悪い冗談はやめてくれよ。どっからどう見ても、いじめっ子といじめられっ子だろ?
「いや、別に――」
「そうだよ~っ! なっかよし~♪」
一色はそう言って俺の腕を取ると、意味深にこちらを見てきた。
これは……先生に見つかったいじめっ子がドスを効かせて言う、「おい、俺達友達だよな? 分かってるよな?」的なやつね、知ってる知ってる。
「アァ、ソウダナ」
弱みがより取り見取りの
「さっきも~、世間話でぇ~盛り上がってたよねぇ~?」
「アァ、ソウダナ」
表面上はな、とでも付け加えたら何をされるやら。
「あっ、ひ~ちゃんってばぁ~、やっきもち~かなかな~? う~いうい~だぞぉ~っ♪」
そこで一色は小澄の腕も取り、一色を中心に三人が
「わ、わわ! そ、そんなヤキモチなんて、ないです、よ?」
えっ、
「おおお~? どっちに~、やきやき~?」
昨日の件で俺への好感度はマイナス無限大だ、どっちもこっちもない。それで小澄の方は、当然友達として好きなのだろうけど……一色の目は割と本気で、友達以上の何かを――えっ、ちょ、そういうことなのか!? あああ、それでさっきの様子や手芸部のことも、全部スッキリ説明がついてしまうのでは!?
いやぁ、冷酷無比な
「ですから、そんなんじゃありませんってば!」
小澄は腕を振りほどくと、
「ごめんってぇ~、あたしはひ~ちゃん大好きだよぉ~?」
「も~、調子いいんですから」
「えへへぇ~」
このやり取りだけを聞くと、女子同士の軽いノリのようだが……うん、考えるのはよそう。世の中には知らない方が良いことも多々あるのだ。
「ヤスが食べ終わっちまうから、俺はもう行くぞ」
そう一方的に告げて歩き出したところ、
「(案外似たもの同士かもね、はは)」
すれ違いざまに一色が
俺と一色が似たもの同士、か……何一つ似てるところは無い気がするんだが。そうだなぁ、ひとつあるとすれば、ひねくれてるところは似てるかもな?
そして食堂へ向かう途中、マメが歩いているのを見つけた俺は、ひとり頭を抱えるのであった。
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