3-12 策士  ※挿絵付

「これは盛り上がってきましたよぉ~? 宇宙こすも君とは~♪ らいく~♪ らぶ~♪ かなかな~♪ はいよいしょぉ~♪」


 ヤスと共に再び部室内を覗き見てみれば、野生児なーこがやんややんやと猛攻を繰り返していた。

 うーむ、確かに情報は欲しいが……もっとやれとは、言い辛いところ……だな。贅沢ぜいたくなお願いで恐縮だが、ほどほどでよろしく頼む。


「さぁさぁひ~ちゃん~、どぉでしょぉかぁ~?」

「全然そんなことはありません!」


 ノリノリなーこの質問対し、小澄はピシャリと完全否定する。うん、そりゃそうだろうとも。


「ふ~ん……………………」


 どう見ても納得していない様子のなーこは、目をつむって何やら考え込んだ末、ニヤリと悪い笑みを浮かべてこう続けた。


「…………そうだよねぇ~。だって宇宙君ってば何考えてるか良くわっかんないし~? いつも無口でぶっきらぼうで~? それに苗字も変だしぃ~?」


 おい待てなーこ、他はともかく、苗字が変なのはどうしようもねぇだろうが! 変えれるもんなら変えてぇわ! お前も宇宙こすもにしてやろうか!?


「あとぉ~友達も少ないし~? なぁんか根暗な冷徹人って――」

「そんなことありません!!! 大地君はっ、大地君は本当はすごく優しくて、いつも周りを気にかけてて……これ以上悪く言うなら……私だって怒りますよ!」


 小澄はなーこの悪口を途中で遮ると、いつものほんわかした様子からは想像もつかない剣幕で、反論をまくし立てた。……ええと、本当に、小澄だよな?

 それでこちらとしては、かばわれた事への感謝よりも、困惑の方が大きい。全然覚えのない人に、裏で必死に擁護されていると知っても、どう反応して良いやら分からない。


「……へえぇ~、ふうぅ~ん?」


 小澄の怒涛どとうの剣幕に、一瞬だけたじろいだなーこだったが、すぐに生温かい目線を送ってニマニマし始めた。――あっ、そういうことか!


「むっふふ~。うんうん、わかってるよぉ~? ごめんねぇひ~ちゃん?」

「ふぇっ?」

「ほんとはそんなこと~全然思ってないからねぇ~? ……あっ、良くわからない人ってのは~、本当かもかも~? 不思議な魅力に包まれた宇宙人なりぃ~、な~んてねっ♪」


 小澄にウインクしながら、だましてめんごなりぃ、と再び謝るなーこ。まさかの知能派野生児だったとは……実はなーこさん最強説なのではなかろうか。


「あ~~~~もぉ~~~~なーこさんのぉ、ばかぁぁ!」

「あぃたたぁ~、ごめんてばぁ~」


 小澄は涙目でなーこをぽかすかと叩いている。誘導尋問にはまった時の気持ち、ああ、分かるぜ……けっ。


「なーこさ、そんくらいにしときーよ。新人いじめは部長として見逃せないよー?」

「いじめじゃないも~ん」


 そう言って、てへぺろっと舌を出すなーこ。反省の色がまったくないご様子。


「せやかて部長、こりゃ逸材やで……こないな純真じゅんしん無垢むくで、じっとしてても、わろてても、ふくれてても可愛ええとか……たまらん! 師匠特権っちゅーことで持って帰ってえぇか?」

「だーめに決まっとーし!」

「ちぇぇ!」

「あーもー、うちの三年部員達はどーしてこー落ち着きがないんよ!? 沙也さやの半分でもいーし、静かになってくれんかなぁ。あ、足して三で割れば丁度良いかも」


 騒がしい部員達を前に、部長殿が毎度のことだと言わんばかりにあきれており、きっと個性派部員達のおかげで日々気苦労が絶えないのだろう。それと状況的に、沙也が寡黙子の名前で間違いなさそうだ。


「はぁぁ……なーこさんにしてやられましたぁ……」

「……夏恋なこは策士……隠し事は不可能……伊達だてに全国模試一桁じゃない」


 しょぼんと項垂れる小澄を前に、沙也がボソリと呟いた。……まじかぁ……最初は頭軽そうな子だなぁとか思ってました、すんません。

 よくよく考えてみれば、高校生で精密機械を作るなど、よほど頭が良くなければできない。そうなると、能あるたかのように野生児のフリした知能犯……いや、あれは単にそういう性格、色恋と騒ぐの大好き陽キャ気質に違いない。それと本名が夏恋で、なーこはあだ名だったようだ。


「大地ぃ、なーこちゃんこえーな。ぼかぁ見た目通りの明るくて優しい子だと思ってたよ……」

「そう、だな」


 万が一にも夏恋と今後関わることがあれば、見た目に騙されないよう、警戒をげんにするとしよう。


「それでぇ~宇宙君への想いわぁ~……う~ん、確かにらぶ~ってのとは違いそ~ね~。な~んだろ~、むむむむ……さっきの言い方からするとぉ~、尊敬ぽい感じがする~、かなかな~?」

「……はい、概ね合ってます。大地君は、そうですね『恩人』が一番近い関係かと思います。はうぁ……それにしても、初めて会った方々に、何故こんな込み入った話することになっちゃったんでしょぉかぁぁ?」

「ほんとごめんってばぁ~。でもでも! 悪乗りしてて言い訳がましいかもぉだけど~、からかおうとか、そういうんじゃ絶対なくて……あたしは純粋に応援したいって、思うよ! さっきのひ~ちゃん本気だったから、ね?」


 和やかな雰囲気で頷く部員達を見て、みんなえぇ子やなぁ〜と感心するヤス。……お前、ついさっきまで「なーこちゃんこえー」って言ってたよな? ある意味マッチポンプだからな? そりゃ確かに、夏恋が言う応援したいって気持ちは本当っぽいし、根はいい子なんだろうけどさ。

 これで無事に一件落着……と思いきや、一つ大きな疑問が残っていた。そう、恩人とはいったい?


「それにしても大地さ、小澄さんに昔何したん? 割と普通じゃないくらいの、訳ありっぽい感じだぞ。ほらー、やっぱフラグ立ててんじゃんかよ。リア爆!」


 ヤスも当然とばかりに、その疑問について口にする。


「いやそれがな、昨日も言った通り、全く覚えてないんだなぁこれが」

「その様子じゃ本当に覚えてなさそうだね」


 もしやこれは、夕の件と同じく、また俺の記憶喪失疑惑なのだろうか。


「それに、恩人が『一番近い』とわざわざ遠回しに言ってたところから察するに……もしかすると直接俺本人ではないのかもしれんぞ? 大地に風吹けば太陽小澄もうかる、ってな感じで?」

「いやいや、それ恩人じゃないでしょ。ただの棚ボタだし」

「だな」


 言っていて俺もそう思った。


「考えても仕方ないし、時間もアレだから戻るとすっか」

「そだね。僕も大地を呼びに行った体で来てるし」


 そう言ってヤスは、窓の隙間すきまを戻そうとするが……


「ぐぬぬ、窓かったっ」


 どうにも上手く閉まらない。窓は常時野ざらしなうえ、山側で落ち葉などがまりやすいせいで、建付けが悪くなっているようだ。


「おいヤス、気をつけ――」


 ギギギ……バンッ!

 

 注意しようとしたが時すでに遅く、勢い良く閉まる音が出てしまった。


「(バカ野郎!)」

「(すまんっ!)」


 小声でやり取りをしながら、そそくさと退散する。


「……バレたか?」

「んや……音は聞こえたかもだけど、顔は見られてないと……思いたいね。積まれた荷物やわきのカーテンもあったし、そう簡単には見つからないとは思うんだけど」


 二人で道場へと戻る道すがら、状況を確認しておく。


「うーむ、不安でしかないな。あの位置関係からだと、俺らの直接正面に居たのは……おいおい、夏恋じゃねぇか……」

「オワタ」

「……おい、この件について、何を聞かれてもシラを切るぞ」


 ヤスにそう言いながら、自分にも言い聞かせる。


「うん、もちろん分かってっけど……正直僕は自信ないなぁ。一瞬で丸裸にされそう」

「……俺もだって。こりゃもう、勘づかれてない事を祈るしかないな」


 先ほどの小澄とのやり取りを見ていた俺達は、策士夏恋から逃げ切るのがいかに難しいかを想像して、大きくため息をつくのであった。




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沙也の立ち絵 https://kakuyomu.jp/users/mochimochinomochiR/news/16817330648342400820


3日目終了時点の登場人物紹介です。情報整理にご活用ください。https://kakuyomu.jp/works/16816452220140659092/episodes/16816452220158035843


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3日目の区切りまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。

一癖も二癖もあるなーこちゃんに寡黙な沙也ちゃん、少しでも可愛いなと思われましたら、ぜひとも【★評価とフォロー】をお願いいたします。


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