第33話 親睦会開始

 ああ、最悪だ。

 きっと今年は厄年か何かだな。

 そして今日は厄日なんだ。


「大丈夫ですか、十六夜さん?」

「大丈夫じゃない。今すぐ帰りたい」

「仕方ありませんよ。頑張りましょう」

「兄さんは大げさなのよ。ただの親睦会でしょ」

「はあ、最悪な親睦会だ」


 夏休み明けの二学期から生徒会に入る高橋さんと仲良くなるための親睦会。

 親睦会の会場として龍桜が近くのキャンプ場を確保した。


「キャンプ楽しそうだし、いいじゃない」

「楽しければ、こんなに落ち込んでない」

「楽しくない前提なんですね」


 輝夜は呆れてため息をついているし、黒羽は苦笑している。

 この二人は俺が少しでも気軽に過ごせるようにと、龍桜が声を掛けたようだ。

 後は、京谷と優香も現地で合流する予定らしい。

 生徒会組の龍桜と澪、高橋さんも現地で合流の予定だ。

 むしろ、行きから一緒だと俺は死んでいる。


「そんなに高橋さんと関わりたくないんですか?」

「前に京谷が言ってた通りだ」

「関わると人に囲まれるからですよね」

「ああ」


 チート能力を使わなくても言いきれてしまうほどに分かり切った結果だ。

 高橋さんの態度次第で、状況がさらに変化する。

 これ以上の最悪何て考えたくもない。


「あ、着きましたね」

「はあ、帰りたい」

「ほら、うじうじしてないで、行くよ」


 輝夜に手を引っ張られながらキャンプ場の中に連れていかれる。

 キャンプ場に入るとすでに龍桜達は到着していた。


「お!ちゃんと来たか」

「来なくて良かったんですか?なら、今からでも帰りますね」

「誰が、来なくて良いと言った、ええ?」


 龍桜にアイアンクローされる。

 細い腕してなんて握力してるんだ、この化け物!?

 これだから天然のチートは嫌になる。


「痛いです、会長。会長のせいで頭痛がするので帰ります」

「帰ろうとするな!?」


 俺の軽口に対してさらに力を込める、龍桜。

 こ、この化け物め!?

 さっきまでのが全力じゃないのか?


「この馬鹿力!会長は化け物ですか?」

「ほー、お前と加奈を二人きりにしてもいいんだぞ?」

「会長は私に死ねと言ってるのが、分かってるんですか?」

「加奈と二人きりにしたくらいで死ぬものか」

「引きこもりニートでコミュ障の陰キャはの陽キャが放つオーラを受けると死ぬんですよ。いい勉強になりましたね」

「自分のことをそこまで言うか」


 龍桜は私の言葉に苦笑しているが、本当のことだ。

 高橋さんみたいな陽キャを相手に私は何も出来ずに消えるだろう。


「えっと、そもそも本人の前で言うことかなぁ」


 声のした方に視線を向けると、どう反応したらいいのか分からず苦笑している高橋さんがいた。

 まあ、確かに本人の前でする話ではないな。

 けど、仕方ないんだ。

 高橋さんがいることに気づかなかったから。


「この馬鹿は加奈が居ることに気づいてなかっただけだと思うぞ」

「え?そうなの?」

「……」

「あ、そうなんだ」


 高橋さんに話しかけるなんて出来ないので、取り合えず視線を逸らす。

 それで龍桜の言っていることが正しいと分かったようだ。


「初めまして、蓮見黒羽です。よろしくお願いします」

「夜桜輝夜です。よろしくお願いします」

「初めまして、高橋加奈です。話は会長から聞いてるよ」


 黒羽と輝夜の二人が高橋さんに挨拶する。

 高橋さんも龍桜から話を聞いたらしく、関係のない二人がいることに何の疑問もないようだ。

 その光景を横目で見ていると、背中を龍桜に叩かれた。


「いたっ!?何するんですか?」

「お前も自己紹介くらいしたらどうだ?」

「同じクラスですよ?自己紹介なんていらないでしょう」

「一言も話したことないんだろう?」

「ないですね」


 龍桜の言葉に即答してやると、龍桜は頭を抱える。

 高橋さんに話しかけるわけないだろうに。

 そもそも高橋さんと関わりたくないと、前に言ったじゃないか。


「もしかして、私嫌われてる?」

「高橋さん、そいつはクラスの大半の奴と話したことが無いんで気にしなくていいですよ」

「そうそう、十六夜は人と関わるのが嫌いなだけだから、気にしなくて大丈夫」

「それは、それでどうなの」


 仕方ないじゃないか。

 人と関わるのが苦手なんだよ。


「質が悪いことに、十六夜は人と関わらなくても生活に一切の問題がないからなぁ」

「流石に人と関わらないで生活するのは無理なんじゃ?」


 そうだそうだ。

 俺だって多少は人と関わってるんだぞ。


「まあ、全く関わらないわけじゃないけど、レジの店員や郵便の配達員とかくらいかな」

「十六夜はどうしても関わらないといけない時以外、ほぼ自分から人と関わることがないわ」

「それ本当に大丈夫なの?」

「大丈夫ではないから、こうやって親睦会を開いているんだ」


 高橋さん達の会話に龍桜が入っていく。

 別に心配しなくても、チート能力があるから生きていくのに何の問題もない。

 というか、問題があるわけがない。


「ああ、そうだった。よろしくね、十六夜君」

「……よろしく」


 高橋さんが満面の笑みで手を差し出していたので、手を握って返す。

 そしてすぐに手を放して龍桜に視線を向ける。


「それで、これからどうするんですか?」

「そうだな。まずはテントを張ろうか」

「分かりました。テントはどこですか?」

「あっちだ」


 龍桜の指さした方に移動すると、京谷もついて来る。

 テントは大きいものと小さいものが一つずつあった。

 おそらく、男女別だろうから小さいものを持って移動する。

 京谷とテントを張る場所を適当に決め、さっさとテントを張る。

 五分程度でテントを張り終えたので、龍桜達の元に戻る。

 龍桜達は女性陣のテントを張っているところだった。


「会長、張り終わりましたが、次は何しますか?」

「もう、張り終わったのか?」

「まあ、二人が寝れる小さいテントですからね」

「それもそうか。じゃあ、昼食を作る準備をしててくれ」

「分かりました」


 龍桜に昼食を作る準備を整えていると、女性陣もテントを立て終えて参加して来た。


「それで、昼食は誰が作るんですか?」

「私達生徒会組で作る」

「分かりました」

「私達手伝う必要あるんですか?会長と十六夜の二人で十分だと思うのですが?」

「えっと、澪ちゃん。一応、生徒会の親睦会だよ」

「そういうことだ。今回は能力面は考慮せずに、出来るだけ全員で協力してやっていくぞ」


 うわー、面倒くさそうだなぁ。

 出来れば今すぐに帰りたい。

 そもそも男俺だけなんだが?

 はあ、帰りたい。


「それで、何を作るんですか?」

「ん?そんなの決まってるだろう。キャンプと言ったらカレーだろう」


 龍桜が楽しそうに笑いながらカレーのルーが入った箱を見せる。

 俺はジト目で龍桜が持っている箱を見る。

 澪は俺と同じような反応をしているが、高橋さんは龍桜と似たような反応をしてるから、龍桜側だな。

 まあ、言われたことだけやればいいか。

 龍桜達に頼まれたことだけを淡々とこなしていくと、残りは煮込むだけになった。


「さて、後は煮込むだけだ。私が見ておくからお前達は適当に散歩でもして来い」

「……」

「そんな顔をするな、十六夜。今回で多少話せるくらいにはなっておけ」

「……分かりました」


 無意識だったが、明らかに嫌な顔をしていたのだろう。

 高橋さんには悪いが、本当に高橋さんとは関わりたくないのだ。

 高橋さんが悪いわけではない。

 というか、絶対的に俺が悪いのだが、それでも嫌なものは嫌だ。

 本当に二学期からやっていけるのか今から不安でしかない。


「黒羽達も連れて行っていいから、そんな嫌そうな顔をするな、加奈に失礼だろ」

「……分かってます。けど、どうしても嫌なことってあるじゃないですか」

「失礼って分かってるなら少しは隠せ」

「無意識なので諦めてください。それに、高橋さんが嫌というより、仲良い相手以外と話すのが嫌なだけですから」

「なら、私は仲の良い相手ということか?」

「そんなわけないじゃないですか。嫌々ながら話してるだけですよ」


 全く、龍桜は何を言ってるのだろう。

 俺達が仲良いわけないじゃないか。

 俺の言葉に龍桜はため息をついて呆れたような顔を向けて来る。


「まあ、私のことはいい。だが、加奈とは仲良くなって来いよ」

「……分かってますよ」

「分かってるようには見えないんだが?」

「分かってるから、文句を言いながらも逃げてないんですよ」

「はあ、分かったから、さっさと行ってこい」


 俺の言葉に完全に呆れた龍桜は、俺を追い払うように手を振る。

 俺が振り返ると、高橋さんは困った様子で苦笑していた。

 黒羽を含めた他のメンバーは、俺に対して呆れた顔でジト目を向けて来る。

 まあ、そういう反応になるのは分かっていた。

 呆れる気持ちも分かるが、言わせて欲しい。

 本当に人と関わるのは苦手なんだ。

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転生者は朴念仁 水龍園白夜 @byakuya132

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