世界が空を見上げている

三枝 優

宇宙を見上げ君を想う

 世界中が、天体観測をするようになった。

 対象は、火星と木星の間のアステロイドベルト。そして、その中のある小惑星。


 ある者は、敵意を持って。

 ある者は、怨嗟をつぶやきながら。

 ある者は、羨望の眼差しで。


 その小惑星。そこには、奴がいる。

 地球人類を遥かに先を行くテクノロジーで宇宙を駆け、小惑星に基地を作り地球を逃げ出した男。


 その男は、ある会社の会長であった。

 ITを駆使し、世界でも有数の企業。

 だが、その裏で人類の持つより遥かに先を行くテクノロジーを開発していた。宇宙を高速に、自由に移動する宇宙船。A.I.で自在に動き回り地底や宇宙を開発することが可能なロボットたち。まるで人間のように思考し会話する人工知能。


 やつは、それらの技術を公開することも共有することもせず独占した。


 人類がそれに気づき、やつを拘束しようとした時、あの真っ白な宇宙船で地球を飛び出し小惑星に去っていった。一つのメッセージを残して。


”火星と木星の間のアステロイドベルトから先は私が占拠する。文句があるなら相手になろう”



 世界中がやつを非難した。テクノロジーは人類に共有すべきだ。人類の発展のために役立てるべきだ。

 それもせず、やつは人類に宣戦布告をしたのだ。


 そしてやつは世界中の敵となった。

 世界は、もはや国家だなんだと言っていられない。

 やつを倒すために技術を集め・発展させ、宇宙船を、兵器を開発していく。


 やつが、あの高みに登ったのだ。人類の英知を結集すれば対応こすることができるはず。

 

 あの小惑星の基地。そこから宇宙船が出てどこか外宇宙に行くことがある。

 やつは、すでに太陽系の外に行くことができるらしい。

 どこに行くのか?どんな速度か?


 やつのすべてを知るため、今日も世界中が宇宙を見上げるのだ。


----


『高弘さま、時田様より連絡が来ております』

「ありがとう、ジム。繋いでもらえる?」

『了解いたしました』


 風間高弘は、端末の前に座った。


『こんにちわ、高弘さん。そちらはどうです?」

「久しぶりだね、まあまあ快適だよ」


 地球にいる何人かの協力者の一人と通話で会話を交わす。


『なにか必要なものはありますか?食料とか』

「今の所、間に合っているよ。ありがとう。そちらはどうだい?」

『高弘さんの目論見通りに、全世界が団結して高弘さんを倒そうとしていますよ。でも良かったんですか、これで?』

「まぁね。第三次世界対戦は回避されたとはいえ国家間の対立は続いているからね。共通の敵が現れることで、その対立は一時的にでも解消するだろう。」

『でも、そのうち本当に攻撃を始めますよ』

「もう無人のミサイルとかは来ているよ。全部、エネルギーシールドを通過できていないけどね」

『そうですか、気をつけてくださいね』

「時田くんも気をつけてくれよ。君の持つテクノロジーこそ、オーバーテクノロジーなんだから

『危なくなったら、そちらにお世話になりますよ』

「あはは、いつでも歓迎するよ」


 通話を終了して、端末に設置されているモニターを風間高弘は見つめる。

 画面には地球のあらゆる場所がが映し出されている。

 宇宙より地球の動向を観察しているのだ。


 もう長い事、人類の科学技術の発展が頭打ちになっていた。月への有人ロケットでさえ何十年も作られていなかった。

 それなのに、どうだ。自分たちより優れた者が現れると、その相手に追いつき追い越そうと努力し始める。


 地球人類というものは、敵がいないと発展できないものなのだろうか?

 あいつより強くなりたい。あいつに勝ちたい。そういう思いでしか向上心が生まれてこないのだろうか?


 ならば自分が人類の敵になろう。

 そうすることで、一時的にでも人類同士の争いが無くなるのであれば。

 そうすることで、人類の科学技術が進歩するのであれば。


 彼は、今日も地球を観察する。それは手のかかる子供を見守るように。

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世界が空を見上げている 三枝 優 @7487sakuya

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