世界が後10分で終わると信じた俺は、最後に変態性癖を告白することにした

青水

世界が後10分で終わると信じた俺は、最後に変態性癖を告白することにした

 世界は後10分で終わるらしい。 

 地球に隕石だか流星群だかが降ってくるのだとか。詳しくは、ニュースをきちんと見ていないのでよくわからない。

 俺は高校のクラスメイトを公園に呼び出した。


「どうしたの、こんなときに……?」

「実は、告白したいことがあるんだ」

「え、告白? それって……」

「実は、その……」

「うん……」

「佐藤さん、最近靴下が減っていること気づいてる?」

「うん……、うん?」


 佐藤さんはきょとんとした顔をした。思っていたのとは違う展開って顔だ。


「俺さ、佐藤さんの家に行くたびに、一足ずつ靴下を持って帰ってたんだ」

「え、ど、どうしてそんなことするの?」

「俺は佐藤さんの靴下で、毎日ピーってたんだ」

「ピーってた……?」

「えー、つまり、その、言い方を変えると××××してたんだ」


 俺のシンでギルティな告白を聞いた瞬間、普段は温厚な佐藤さんが一変。


「は? なにそれ? 意味わかんないんだけど。本当に? 冗談じゃなく?」

「本当の話なんだ。すまない」

「キモ。まじキモイ。死ね。死んじまえ、この変態!」


 佐藤さんに罵られた俺は、ぞくぞくと体が震えているのを実感した。ああ、俺はドMでもあるんだ……。なんと、罪深き男。


「最後に、このことをどうしても伝えたかった」

「は? 死ね死ね。キモイわ。こんなクソみたいな告白されるなら、来なきゃよかった」

「ああ、最高だ! もっとだ! もっと、俺を罵ってくれ!」

「キモ。変態性癖だけじゃなくて、罵られて興奮するドMとか。本当、どうしようもない。鈴木くん、やばいよまじで」


 佐藤さんは俺をドMだと知りながらも、8分くらい罵り続けていた。スマートフォンで時刻を確認すると、後10秒で20時。後10秒でこの世界は終わり、俺と佐藤さんの人生も終わる。


「10、9、8、7……佐藤さん。俺のことを罵ってくれてありがとう。俺の変態性癖を受け入れてくれてありがとう」

「受け入れてないし」

「来世でまた会おう」


 泣きそうになるのを、目をつぶって隠した。

 さらば、世界!

 ……。

 …………。

 ………………。


「…………あ、れ?」


 世界は終わらなかった。


「どういうこと?」

「さあ?」


 佐藤さんはスマートフォンのネットニュースを見た。俺もその画面を覗いた。そこには『世紀の大誤報! 隕石衝突は嘘だった!』って……えー。


「……は?」

「ねえ、鈴木くん」

「……はい」

「世界が終わると思って、クラスメイトを呼び出して、変態性癖告白した上に、女の子に罵られまくって興奮したのに、世界が終わらなかったのって、どんな気持ち?」

「ぅぅうううう、殺してくれぃ」

「おい、この靴下××××ドM野郎」

「ごめんなさい。ごめんなさい。このことは他言無用でお願いします」

「んー、どうしよっかなー」

「佐藤様の言うこと、なんでも聞くんで。お願いです」


 俺がそう言うと、佐藤さんは悪魔めいた笑みを浮かべた。


「え? 『なんでも』聞いてくれるの?」

「あ、いや……なんでもって言うのはちょっと語弊があるというかー」

「靴下××××ドM野郎」

「なんでも聞きます。この鈴木になんでもご命令を」

「では、命令です。この私と付き合いなさい、鈴木くん」


 意味がわからず、一瞬首を傾げた。ツキアイナサイ?


「……え?」

「私と付き合ってって言ったの。私の言うこと、聞けない?」

「こんな靴下××××ドM野郎でいいんですか?」

「……どうして、好きになった男の子が、こんな靴下××××ドM野郎だったのかなー」


 佐藤さんはため息をつくと、俺の手を取った。


「世界が終わらなかったから、明日も学校だよ」

「ああ、そっか……」

「これからもよろしくね」

「ああ、よろしく」


 俺たちは公園を出た。

 世界は終わらなかったし、佐藤さんに変態性癖を知られてしまった。けれど、佐藤さんと付き合うことになったので、結果オーライってやつだ。

 俺は明日からの『新世界』『新生活』に思わずにやけた。

 佐藤さんを家まで送る。佐藤さんの家――大きな一軒家の前で、俺は思い出したかのように言った。


「あ、そうだ。盗んだ靴下返すよ」

「××××靴下なんていらねえわ、アホ」


 やれやれ。

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世界が後10分で終わると信じた俺は、最後に変態性癖を告白することにした 青水 @Aomizu

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