いまさら告白してももう遅いのよ。だって、世界はあと10分で終わるのだから

青水

いまさら告白してももう遅いのよ。だって、世界はあと10分で終わるのだから

「あのさ……」

「何よ?」


 俺は学校の屋上に彼女を呼び出した。

 学校には俺と彼女のほかには誰もいない。みんな今頃どこで何をやっているのだろう? 自ら命を絶った人もいるのかもしれない。


「来てくれてありがとう」


 俺は言った。


「別に……」

「最後は、家族と一緒にいたいとかそういうのは――」

「父も母も愛人のところへ出かけたわ。最後は愛する人と一緒にいたいんでしょうね」


 どうやら、彼女の家庭は複雑なようだった。まあ、俺の家庭も似たようなものだが。


「……すまん」

「父も母も私のことを愛してはくれなかったわ」


 彼女はどうでもよさそうに言った。


「それで? 何の用かしら?」

「好きだ。俺と付き合ってくれ」

「……」


 俺が率直に言うと、彼女は沈黙ののちにため息をついた。


「ごめん。俺に告白されても嬉しくなんてない、か……」

「違うの。違うのよ……」


 彼女は首を振った。目から涙が流れている。


「告白してくれたこと自体は嬉しいの。私もあなたのことが好きだったから……。でもね、どうして今なの? どうして今、告白するの?」

「死ぬ前に、俺のこの気持ちをお前に伝えておきたかったから」

「私があなたの告白を受け入れたとしても、後10分で世界は終わるのよ?」

「たとえ、10分という短い時間だとしても、俺はお前と付き合いたいんだ」

「……わかった」


 彼女は涙を拭うと頷いた。


「10分間、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」


 俺が言った瞬間、彼女は抱きついてきた。


「10分で、できるだけのことをして、ともに死にましょう」


 そう言うと、彼女はキスをしてきた。

 ハグもキスもしたことがなかったので、かなりどきどきした。彼女を抱きしめるのもおずおずと、キスもどうすればいいのかわからなかった。


「ごめん。ハグとかキスとか初めてなんだ」

「私もよ。気にしないで」


 抱き合ってキスをした後、彼女は服を脱ぎだした。季節的に風邪をひくことはないし、周囲に人は誰もいないので、脱ぐこと自体は問題ないのだが……。


「セックスしましょう」


 彼女は言った。


「いや、そういうことはもっと関係を深めてからだな――」

「そんな時間はないのよ。あなた、童貞のままで死にたいの?」


 尋ねられ、俺は首を振った。

 俺と彼女は服を脱ぐと、生まれたままの姿で抱き合った。学校の屋上でセックスをするなんて、どう考えてもおかしい。しかし、その行為を咎める者はいないし、それにもうすぐ世界は終わるのだ。


「愛してる」

「私もよ」


 俺たちは空を見た。

 空から巨大な隕石が降ってきた。あれらが地球という星を粉々に破壊し、人間を含めたあらゆる生命体を滅ぼすのだ。地球滅亡の危機に、さすがにいがみ合っていた人類も一致団結せざるを得なかった。なんとかして、隕石の軌道を変えられないものか、隕石が地球に降ってくる前に破壊できないものか、様々な案が練られたが、結局、運命を変えることはできなかった。

 隕石が降り注ぐ中、俺と彼女は最後のキスをする。破壊神の姿は、絶望的に美しかった。人生の終わりにうってつけの、素晴らしい光景。


「来世ではあなたと一緒になれたらいいな」

「ああ。そのときはよろしく」


 そして、俺と彼女は死んだ。

 地球は滅亡し、世界は終わりを迎えた。

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いまさら告白してももう遅いのよ。だって、世界はあと10分で終わるのだから 青水 @Aomizu

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