第27話 力を合わせて
富嶽は何も答えない燐牙は気にせず、話を続けた。
「僕、君のことずぅっと探してたんだよ~? なんてったって、君は僕の中でも最高の道具だったからね~。僕は、君みたいに一度操っただけでたくさんの人を殺せる道具を、と~
っても気に入っていたんだよ? なのに、何度も何度も逃げちゃうんだから、僕、すっごく困ったよ~」
「…お前……! やっぱり燐牙を利用してたのはお前だったのか!」
俺は富嶽に怒りが限界を超えそうになるのがわかった。こいつは、燐牙の気持ちを何も知らないで…!
「だから、今度こそ僕は君を逃がさないよ~? さぁ、これから僕と一緒に、人類破滅の夢を目指してともに歩もう~!」
「ふっ、ふざけるな! 俺様はもう二度と、そんな目にあうのはごめんなんだよ!」
燐牙は声を振り絞るようにしてそう言うと、近くまでやってきた富嶽を引っ掻こうとした。だが、その手はぱっと掴まれてしまった。
「燐牙!」
俺は富嶽の腕を青龍刀で叩こうとしたが、それも空いたほうの手で受け止められてしまう、富嶽は俺の青龍刀を押し返し、刀から手を離した。その間に、浴衣の袂から小刀を取り出し、燐牙の腕を切った。
「うぐっ!」
富嶽はわざと切り傷になるよう燐牙の腕の皮膚を切ると、自分の指もその小刀で傷つけ、自らの血を燐牙の腕に垂らした。
「さぁ、これで君は僕の操り人形だ。いや~、再びこの日を迎えられて、ぼくはとっても嬉しいよ~」
富嶽は満足げに笑った。燐牙は富嶽に腕をつかまれたまま、それから一向に動こうとしない。だが、彼の瞳はだんだん赤くぎらぎらを光始め、尻尾は九つに分かれ始めた。俺はすぐにわかった。燐牙は本来の姿に戻ろうとしているのだ。
「なんだ~? せっかくまた僕のお人形になったっていうのに、今日はやけに九尾本来の姿に戻るのが遅いね~? もしかして、もうすでに限界だった~? まぁでも、僕の妖操術は本人の意思とは関係なしに、無理やり体を動かすことができるからね~。別に問題ないんだけど~」
「お、お前~! 燐牙になんてことを…!」
俺は青龍刀に青い炎をともすと、富嶽に切りかかろうと構えた。
「んん? あれれ~? もしかして君は、東雲家の人間なの~?」
「ああ、そうだよ。だったら悪いかよ!」
「ふ~ん。やっぱりそうか。その青炎を使った陰陽術を使えるのは、東雲家の陰陽師だけだもんね~。陰陽師…。僕にとって、非常に厄介な存在だよ…。僕が裏切ったこと根に持って、何度もひどい目に遭わされかけたからね…。ちょうどいい。九尾の久しぶりの獲物はお前にすることにしよう! さぁ、行けっ、九尾!」
富嶽がそう声をかけた瞬間、燐牙は途端に俺に牙をむき、襲い掛かってきた。
「くっ!」
俺は身をひねり、校庭にある木へと一度跳んだ。そして、すぐに方向を変え、別の木へと跳んで燐牙の爪をかわす。
それから、また校庭へと降りると、今度は青龍刀で燐牙を真正面から迎え入れ、青炎が燃える紙の束で顔面を叩いた。
グウウウ! と燐牙が今まで聞いたことのないような悲鳴を上げる。
俺はその瞬間に悟った。
たしか、この炎には邪気を祓う効果があるんだった。
なら、これで邪気を祓い続ければ、燐牙を正気に戻せるかもしれない!
「燐牙、いい加減早く元に戻れ! お前はもう、二度と人殺しなんかにはなりたくないんだろ⁉」
戦いで体があったまってきたおかげで、俺はずいぶんと自由自在に動けるようになっていた。俺は燐牙の噛みつく攻撃をかわし、前足を青龍刀の木刀部分ではらった。そして、燐牙のが少し態勢を崩している隙に、燐牙の背中に飛び乗り、後頭部に青炎を押し付けた。
「な、なんで~? 僕の術が、押されてる~?」
富嶽は信じられないというように、俺と燐牙の戦いを見てそう言った。
でも、それもそのはず。
俺は燐牙がだんだんと意識を取り戻しつつあるのを感じていた。こいつの目は元の金色に光始め、俺への攻撃もだんだんと弱まってきている。いや、燐牙がわざと弱めてくれているんだ。
「くっそ~、こうなったらもっと血を…!」
すると、富嶽は自分の腕の皮膚を切ると、自分の血を燐牙に流し込もうと俺たちの元へ飛んできた。
だが、それを阻止する人物がいた。
「そうはさせませんっ!」
俺たちの元にやってくる富嶽の脇腹を、目の前に現れた千弦が力いっぱい蹴り上げたのだ。
「ぐっ!」
富嶽はうめき声をあげ、後ろの大きく吹っ飛んだ。
「そーたろー! おい、もうその青い炎を俺様に当てるのはやめろ!」
「うわっ、燐牙⁉ もとに戻ったのか⁉」
「ああ、おかげさまでな」
すっかり富嶽に気を取られていた俺は、いつもの姿に戻った燐牙に気がついていなかった。
「とにかく、あいつにとどめを刺すなら今だ! 一緒に行くぞ、そーたろー!」
「!」
俺は燐牙の意思を察すると、地面に落ちていく富嶽をめがけて走った、そして、隣にいる燐牙と全く同じタイミングで跳んだ。
「いっけえええええええええええええええええ‼」
二人でそう叫びながら、俺は青炎をまとった青龍刀を、燐牙はその鋭い爪を、落ちていく富嶽に振り下ろした。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ‼」
赤い血しぶきと、灰になった富嶽の体が風に乗って飛ばされていく。
富嶽は最後に校庭に響き渡る悲鳴を残して、あっけなく消え去った。
「か、勝った……」
俺は青龍刀を握ったまま茫然としていた。
「ああ、俺様たち、勝ったんだな…!」
だけど、隣で燐牙がそう言って少し寂しそうに笑ったのを見て、俺は青龍刀を持っていた手を離した。そして、燐牙に思いっきり抱きついた。
「燐牙ー‼ お前、ちゃんといつも燐牙に戻れたんだな!」
「わっ、そーたろー! なんだよいきなり!」
燐牙は俺を受け止めると、ちょっと嬉しそうにした。
「とにかく、お前がいつもの姿に戻ってよかった!」
「……ああ、俺様も、今は心からそう思うよ」
燐牙は何かを噛みしめているようにそう言った。
「俺様、ずっと怖がられてばっかりだったけど、今はそーたろーがいるんだな」
「うん。それに、何も俺だけじゃないよ、今は御白様も、それに弓弦も千弦もいる」
「はい、そうですよ」
俺は燐牙から体を離すと、千弦を見た。
千弦は最後に富嶽に蹴りを入れた後、俺たちが富嶽を倒すところを一部始終見守っていてくれたようだ。
「宗太郎、燐牙。よく富嶽を倒してくれました。千弦は今、二人に感謝の気持ちでいっぱいです…!」
千弦はそう言うと、淡い栗色の瞳からぽろぽろと涙をこぼした。
「これでようやく、東雲家の今までの無念が晴らされました…!」
「何言ってんの。千弦のあの蹴りがあいつに入ってなかったら、あんな化け物きっと倒せなかったはずだよ。だからこれは、俺たち三人の勝利だよ」
俺はそんな風に偉そうに言ってしまった後で、ちょっと恥ずかしくなった。
いや俺、なんか自分が一番活躍しましたみたいに言っちゃったけど、そうでもなかったような…。うわ~、なんか俺、ほんとは雑魚なのに強がってる奴みたいでめっちゃかっこ悪い…。
「それに、千弦は燐牙に今までひどい態度をとってしまっていました…
。まさかあなたはあの富嶽に操られていただけだったとは…。燐牙、本当に申し訳ありませんでした。もしあなたの気が晴れないのなら、千弦は喜んであなたの気が済むまで攻撃を受けましょう…」
「な、ななな、今さら何言ってんだよ! 俺様はそんなことしねぇよ!」
燐牙は千弦に謝られたのがよほど衝撃的だったのか、動揺して噛みまくった。
「ですが、それでは千弦の気が晴れません!」
「いや、それは俺様は知ったことじゃねぇよ!」
ああ、なんか、陰陽師になってから怒涛の日々だったけど、まさかこんあに短期間で不思議で危険なことばかり起こるなんてなぁ…。
俺は千弦と燐牙の会話を聞きながら、なんだかおかしくて笑いそうになってしまった。
ずっと、妖が視えない世界に憧れてたけど、視えたら視えたでおもしろいこともあるもんんなんだな。いや、もちろん危険なことも多いけど。
「なぁ、とにかく神社に帰ろう。富嶽を倒したことを、早く御白様に教えてあげようよ」
「はっ! そうでした!」
千弦はぱっとかを輝かせると、
「さぁ、二人とも帰りましょう! 千弦は、兄者にも早くこのことを伝えたいです!」
「そうだな。たしかに、関西弁野郎もこのことを知ったら喜ぶんじゃねぇの?」
「では二人とも、千弦の手を握ってください」
「え? なんで?」
「こうすれば、千弦がすぐに二人を神社に移動させられるからです」
千弦は得意げにそう言うと、勝手に俺たちの手をつかんだ。
「え、でも移動ってどうやって…」
俺が彼女にそう聞き返した時には、俺たちは校庭の真ん中から忽然と姿を消していた。
そして、俺たちが次に瞬間にいたのは、見慣れた陰陽師の間だった。
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