第23話 御白様のお告げ

「ほう。夜中にバタバタうるさいと思ったら、そういう理由でここにやって来たわけかえ?」

 御白様は普段と変わらない様子で、俺にそう聞き返した。

 俺と燐牙は、神社に入ると、すぐに御白様を呼び、そして彼に陰陽師の間へと連れてきてもらっていた。弓弦と千弦の姿は見えなかったが、とにかく御白様がいたので俺は救われる思いがした。

 そして今、冬華がいなくなったので助けてほしいと頼んでいる真っ最中だ。

「うん、そうなんだ。なぁ、御白様。どうか俺の幼馴染の居場所を教えてくれないか? 俺、これからの修行、めちゃくちゃ頑張るから! だから頼むよ! ほらっ、この通り!」

 俺は御白様に深く土下座して見せた。それくらい焦っていたんだ。

「修行を頑張るのは当たり前じゃろうが。わかった。わしはこれでも神じゃからの。おぬしの幼馴染の居場所を、すぐに明らかにしてみせよう」

「ほ、ほんとに⁉」

「もちろんじゃ。何度も言うがわしは神じゃ。それくらいのこと、造作もないわい。それに、おぬしはわしの願いをかなえてくれるやもしれぬ、大切な人間じゃ。その大切な人間の願いを聞き入れぬほど、薄情者ではないからのぅ」

 御白様はそう言うと、漆塗りの机の上に、どんと大きな水晶玉を置いた。

「え、なんですかこれ?」

「いいから見ておれ。今からここに、おぬしの友の居場所が浮かび上がるからのぅ」

 御白様はそう言うと、白くて小さな手をその上にかざし始めた。

 すると、水晶玉の中で、水の中に溶けていく絵の具のようなものが泳ぎ始めた。それはお互いに絡み合い、そして色を出現させ、景色を作り上げた。

「え、ここって!」

 そう。水晶玉の中に現れたのは、紛れもないうちの高校の教室の中だった。そして、右側の窓から廊下が見えるってことは……もしかして、西校舎の教室か? しかも窓の外からは木の枝が風に揺れているのが、微かに見えた。この高さは、三階くらいじゃないだろうか。

 その時、水晶玉の中の影がゆらりと動いたので、俺はそれを食い入るように見つめていた。

「この影…もしかして冬華か⁉」

 俺はようやく水晶玉に鮮明に移された映像を見て、全身から血の気が引いていくのがわかった。

 なんと教室には、何者かに手足を縛られた格好の冬華が、制服姿のまま教室に寝転んでいた。冬華はそこから必死に逃げようと試みているのか、体をよじって必死に縄を解こうとしていた。

「冬華! なんであいつがこんな目に…!」

 俺が冬華を傷つけた何者かに怒りで頭を沸騰させていると、燐牙が横でぽつりと呟いた。

「やっぱりか…」

「え」

「そーたろー。この娘を縛ったのは、人間じゃない」

「な、なんだって!」

 俺は燐牙の発言に動揺した。

「ああ、間違いない。俺様は鼻が利くからな。妖のにおいはすぐに嗅ぎ分けることができるんだ」

 燐牙はそう言うと、静かに説明し始めた。

「前に、お前とあの子娘が一緒に話していた時があっただろ。その時、子娘から邪悪なにおいがしたんだ。だからきっと、その時から妖に目をつけられていたのかもしれねぇな」

「じゃあ、なんでその時言ってくれなかったんだよ!」

「なっ! 俺様はちゃんとそーたろーに言おうとしたんだぞ! でも、その後すぐ、そーたろーが俺様のこと無視して行っちゃったから…」

「そんな大事なこと、ちゃんと言ってくれないと困るよ!」

「これこれ。今は争っている場合ではなかろう? 宗太郎、冬華が危険な状態で焦るのはわかる。じゃが、今はおぬしらは協力するべきじゃろう」

 俺は冷静な御白様にそう諭され、はっとした。

 そうだ。今は燐牙と喧嘩なんかしてる場合じゃない。一刻も早く、冬華を助けに行かないと!

「ごめん、燐牙。お前は何にも悪くないのに八つ当たりしちゃって。けど、許してくれ。こんなに取り乱しちゃうくらい、俺にとっては大切な友達なんだよ」

「わ、わかったよ。俺様も、ちゃんと伝えなくて悪かったよ…」

 俺がすぐに燐牙に謝ると、燐牙も気まずそうにそっぽを向いたまま呟いた。

「ほれ。仲直りしたなら、宗太郎はすぐにこれに着替えてくるのじゃ」

 俺たちが少し落ち着いたのを見届けると、御白様は俺に陰陽師装束とお札帳、そして青龍刀を投げてよこした。

「残念ながら、わしはこの神社から動けぬ。じゃから、わしには嬢ちゃんの居場所を明らかにすることはできても、彼女を救い出すことはできんのじゃ。じゃが、宗太郎。おぬしはまだひよっことは言え、陰陽師じゃ。嬢ちゃんをあんなひどい目に合わせた妖を、ばしっと祓ってこい」

 俺は装束たちを受け取ると、御白様に大きく頷いてみせた。

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