第22話 幼馴染の危機

「宗太郎!」

「あ、そうちゃん!」

「どうしたの、じいちゃん、ばあちゃん!」

 俺は、じいちゃんとばあちゃんの前に立っていた人物を見て驚いた。

「あれ、おばさん?」

「ああ、宗太郎くん! あなたに聞こうと思って慌ててここに来たのよ!」

 清水さんは、お隣に住んでいる冬華の母親だ。

 彼女は切羽詰まった表情で俺の両肩をつかむと、

「ねぇ宗太郎くん! うちの冬華を知らない⁉」

と尋ねてきた。

「え? えっと、何かあったんですか?」

 俺は何がなんだかさっぱりわからず、おばさんにそう聞き返した。

「嘘っ、宗太郎くんも知らないの? ああ~! どうしよう、もしうちの冬華に何かあったら…」

 おばさんはすっかりパニック状態らしく、玄関先を忙しなくうろつき始めた。

「清水さん、落ち着いて」

 ばあちゃんがそう言ってなだめようとするが、おばさんの顔から不安の影は晴れない。むしろ、どんどん深刻そうな表情へと変わっていく。

「何があったの?」

 俺が近くにいたじいちゃんに聞くと、じいちゃんは困った顔でこう答えた。

「それが、冬華ちゃんがまだ家に帰って来とらんらしい。しかも、彼女の携帯電話に連絡しても、返事が全くないそうなんじゃ」

 すると、それを聞いていたおばさんが俺とじいちゃんの間に割り込んでこう言った。

「そ~なのよ! それで私、心配になったからついさっき学校にも連絡したんだけどね?

 そしたら学校は、冬華さんはとっくに家に帰りましたよって…」

「え……」

 それって、結構まずくないか?

 冬華はスマホでの連絡は割とマメな方だし、それに真面目だから、帰りが遅くなる時は必ず家に連絡を入れるタイプだ。だから、この時間まで親に何も言わず、どこかに遊びにいっている可能性は少ない。

 俺は一応持っておいた、自分のスマホを開けて確認した。時刻は現在、午後十一時十五分。さすがにこの時間まで家に帰ってこないのは、冬華の性格から考えてあり得ない。

「ねぇ、宗太郎くん。あなたのスマホにも、冬華から連絡は来てない?」

「はい、今確認したんですけど…俺のところにも何も連絡がありません」

「そんな…」

 おばさんは絶望の色を浮かべると、今にも泣き出しそうな顔をした。

「なんで私、もっと早くに学校に確認しなかったのかしら…。いつもより帰りが遅い時点で、おかしいって思えば良かったんだわ…! でも私、もしかしたらあの子がただ部活の居残り練習で遅くなっているだけだと思ってて…」

「清水さん、まずは落ち着いて! とにかく、今はうちに上がってください。それで、旦那さんと武くんは? 今は家にいるのかい?」

「こんな時に限って、旦那は出張で家にいないんです。武は、私の代わりにさっき警察に電話をしてくれました。今はそれで家にいてくれています」

 おばさんはばあちゃんにそう説明しながら、何度か深呼吸を繰り返した。

『おい、そーたろー。なんか、まずいことになってるな』

 さっきまで俺の隣で一連の流れを見守っていた燐牙は、珍しく神妙な顔で俺にそう尋ねた。

 こいつの言う通り、俺の想像以上に事態は深刻だ。それに俺自身、幼馴染の彼女のことが心配でたまらなかった。

 くそっ、冬華! お前、今どこで何してるんだよ!

 俺は冬華に立て続けにメッセージを送ったが、それに既読がつく気配はまるでない。

 いつもなら五分後くらいにきっかり返してくるのに、それがないってことは、もしかしたあいつは本当にやばい状況に置かれているのかもしれない。

『燐牙、とりあえず一度御白様のところに行ってみよう! そうすれば、もしかしたら何かわかるかもしれない!』

『お、おう! わかった!』

 俺は燐牙にそう伝えると、「ごめん! 俺、冬華を探してくる!」と言って、玄関を飛び出した。

「こらっ! 宗太郎っ!」

「大丈夫、ちょっと近所を見てくるだけだから!」

 俺はじいちゃんに走りながらそう返事をすると、すぐに神社へと向かった。


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