そこに鬼はいるか

花染 メイ

第1話 島と呪いの宝

とある島の、名も無き小さな集落の話。

その集落には昔、「呪いの宝」があった。

手に入れた者は必ず億万長者となるが、その末路は揃って悲惨。

ある者は一家皆殺しに、またある者は重い病に侵され、散々苦しみ抜いた末に死んでいった。

一体それが、どこからやって来たのかはわからない。しかしこの哀れな集落はいつの間にか、この呪いの宝の毒牙にかかってしまっていたのである。

その後、何人かの持ち主のもとを転々とし、また同時にそれらすべての人々を不幸に陥れたあと、ついに宝は集落の住人達の手によって島の洞窟の奥深くに葬られた。

それでも尚、宝によってこれまで引き起こされた悪夢の数々を見聞きしてきた住人達にとって、その存在は相変わらず大きく、恐ろしいものだった。

彼らは長い間、宝の復活に怯えて過ごす日々を送っていたのだ。


そんなある日のこと。

状況を一気に覆すような大事件が起きた。

「出てこい、卑劣な『鬼』どもめ!奪った宝を返してもらおう!」

何故か動物数匹を従え、遥々海を越えて島へやって来たのは、やけに威勢のいい正義漢然とした青年だった。

確かにこの集落は古い時代から身分差別を受けてきた人間達によって構成されており、そこで暮らす人々は『鬼』と呼ばれていた。

中には生きるためにはやむなしと考え、盗みを働いた者もいたかもしれない。

もし仮に、この青年の言う「宝」が本当にこの集落の住人に盗まれたとして、その犯人は誰なのか。それは気になるところだが、住人達が犯人を探すことは決してなかった。今まで助け合って生きてきた大切な仲間を疑うことはおろか、ましてやその罪を暴き、吊るし上げて責めたてるつもりなど、彼らには毛頭なかったのである。

集落の人々は団結し、一計を案じた。

彼らはわざと青年に降伏し、望み通りに「宝」を渡したのである。

意気揚々と去っていくその後ろ姿を見送った集落の者達は、揃って歓喜した。

こうして彼らは遂に「呪いの宝」の呪縛から解放されたのだ。

自分の故郷に帰っていった青年、「桃太郎」という名の彼のその後を、島の人々は誰一人として知らない。

いや、知ろうともしなかった。

正直、血も涙もない「鬼」の所業だと非難されても仕方ない。

しかし、この集落の人々、つまり「鬼」達にとって、彼はある意味自分達を救ってくれた英雄だ。彼はその後、集落の人々に末長く感謝され、崇め奉られることとなったのだった。


《完》

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