第3話 助かった?

何もない静かなところで、ただ心臓の鼓動を感じている。

そして、今回は自分に手足があるような感覚がある。

いよいよ実は、まだ私は生きているような気がしてきた。


けれど、手足を失った人は【幻肢痛】というものを感じると聞く。

すでに失われた手足が、まるで今もあるかのように感じ、痛むそうだ。

幸い自分は手足があるようには感じても、痛みは無い。


むしろ心地良い。

まるで、ふわふわのベットで寝ているよう。


もしかして天国なのかな?

想像していたものと違うけれど、

何もない空間でただ心地良さだけを感じればいいというのも、

神の祝福なのかもしれない。


!!

突然右手に人の手が触れる!

間違いなく空想や幻肢痛ではない。

あまりにリアルな感触。

その相手は左手で私の手を取り、右手で私の手の平をなぞる。

私は慌てて手を動かそうとするが、動かない。

私は何もできず、ただ手の平をなぞられる。


もしかすると私は植物人間の状態で病院にいるのかもしれない。

いや、もしかすると目と耳をつぶされて、

何かの実験や儀式に使われているのかもしれない…

全く状況がわからない!

恐い!!


その相手は十秒ほど私の手の平をなぞり、布団の中に戻した。

そしてまた何も無い時間が始まる。


落ち着いて状況を整理しよう。

私は死んだと思ったけど、実は生きていて、

目も耳も不自由で体も動かせない状況でベッドで寝ている。

やはり一番ありえるのは、病院に運ばれて一命をとりとめたが、

植物人間状態になってしまったということかな。

さっきの相手も、私の手の平をなぞるだけだったし。


しばらくして、今度は布団の感触が無くなる。

そして服を脱がされる!


いや、落ち着こう。

もし病院なのであれば不潔にするのはダメだし、

定期的に看護師が体を拭くこともあるだろう。

変なことをされるわけではない、はず。

だって変なことをするつもりであれば、最初から服を着せる必要なんてないし。

いや世の中には想像を超える変態もいるみたいだし、あるいは…?


その相手は私の体を優しい手つきで拭いていく。

やはりここは病院で、この人は看護師だ。

なんだかとても大切にされているような気分になる。


どうやらここは無でも天国でもなく病院で、私は植物人間状態だったみたいだけど、

そんなに悪い感じはしない。


一通り体を拭かれた後、また服を着せてもらう。

そして今度は口を開かれ、生暖かいものが流し込まれる。

これはスープだろう。

私の体は動かないけれど、スープを飲むくらいはできるのかな?

生暖かいものが口から入って、そのままお腹のほうに流れ込んでいく。

へぇ、これくらいはでき……


ゴホッゴホッ


むせてしまった。

お腹に温かい液体と硬いものが落ちたことを感じる。

どうやら看護師さんが驚いてスープを落としたらしい。

熱い。

むせたことにそこまで驚く?

なんだか初々しい看護師だ。


それより、今の動きで急激に眠くなってしまった。

かなり体力が落ちているようだ。


少し、寝よう……

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