第4話 悲しい事実

胸を触られる感覚で目を覚ます。

ここは病院。

だからこの相手は医者か看護師だ。

そうわかっていてもドキドキしてしまう。

そういえば今回の手は少しごつごつしている気がする。

きっとこの前の看護師さんは女性で、この医者は男性なのだろう。


もちろん病院というのは間違いで、本当はどこかの無法地帯である可能性もある。

本当は線の細いホスト男やゴツいヤクザ達に囲まれていたこともありえる。

やっぱり怖い!


口に熱いものが当てられる。

またスープを飲まされるのだろうか?


今はわからないことを考えていても仕方ない。

今度はむせないように、飲むことに集中しよう。


スープを一口、二口としっかりと飲み込んでいく。

自分で飲むのと人に飲まされるのでこんなに違うとは思わなかった。

しかし心の準備さえできていれば問題はなさそうだ。


今度は布団を払いのけられ、上着をはだけさせられる。


もしここがチンピラの吹き溜まりだったら、この後大変なことになる!


けれど考えてみれば、仮にそうだとしても、今の私に抵抗はできない。

であれば、変えられないことについて考えていても、恐怖が増すだけ。

心の準備をしよう。

着替えでも、いやらしいことでも、ただ受け入れよう……


熱いッ!!

お腹に直接熱いものが当てられる!

なぜ!?

私は身をよじってそれから逃れることができない!!


お腹から熱いものが取り除かれる。

今のは何だったのか?

しばらくして、服と布団が戻される。


そしてごつごつした手が私の目を開ける。

しかし私には何も見えない。

ただ、皮膚の感触で目を開けられたことだけを感じる。

そして今度は耳元に振動を感じる。


もしかして、診察されているのだろうか?

触ったり熱いものを当てたりして痛覚を確かめ、

目が光に反応するかで視覚を確かめ、

耳元で声をかけることで聴覚を確かめているのかもしれない。

そして私はそれらを皮膚の感触でしか感じなかった。


つまり、今の私は盲目で難聴。

それがこの無の世界の正体。


なんとなく、そんな予感はしていた。

つらい。

なんでこんなことになってしまったのだろう。

いっそのこと病院に担ぎ込まれずに、そのまま死んだほうが良かったかもしれない。


どれくらい時間がたったのか。

ふと右手を取られ、握手される。

そしてまた別の手が私に握手をする。

誰かが見舞いに来てくれているのかもしれない。

けれど、それが誰なのかはわからない。

きっともう、記憶の中の誰とも会えたと感じることはない。


最後の手は握手した後、手の平に何かをなぞっていった。

それは最初の看護師さんの感触だった。


誰かはわからないけど、大切にされている。

絶望の中、それだけは救いだった。

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