第6話[終] 作戦決行

「今日で調査は終了の予定だ。問題が無ければな。」


 大人が数人、連れだって林へ向かう。入って間もなく、全員が異変に気付いた。足が止まる。

「なんか……変な匂いがしないか?」

「前はこんな匂いしなかったぞ……」

 匂いのもとを調査しなければ、と一人が呟く。全員で林の奥に進もうと一歩踏み出すと、匂いは数倍強くなった。

「ヴッ!! おい! トイレの匂いじゃないか!?」

「林にトイレはありませんよ!」

 じゃあなんなんだ! と慌てだす。大の大人が困惑するくらいの匂いだ。何十年も掃除されていないトイレの匂いレベルを越えるほど。

 全員、鼻をおおって「誰か確認してこい」とパニック状態。すると、ずっと黙りこくっていた調査員の一人が口を開いた。


「あの……」


「なんだ!? どうした!?」


 真っ青な顔をしてポツリと呟く。



「俺には……死体が腐ったみたいな匂いがします……」



 パニックで口論していた調査員達は息をのむ。突然静寂がおとずれる。

 すると突然ひとりの調査員が何かを見つけたように悲鳴をあげ、走って逃げ出した。その悲鳴を契機に調査員全員が林の外へ向かって全速力で逃げていった。

 



 

 

 瑞希と隼人は調査員が完全に走り去って行ったことを確認し、草むらから顔を出した。

「まじかよ……」

「う~~~……上手くいった~~~!!」

 驚愕している隼人の横で瑞希は跳びはねる。

「俺らには全然匂いしないのに、ほんとにあいつらだけに効いたんだな。」

「そう。幻だからね。」





 調査員達がやってくる数時間前、林にスタンバイしていた二人のもとにアヤメの葉が風にのって戻ってきた。数日前に作戦を頼みこんだ時に飛んでいった葉だ。


 アヤメは花言葉どおり、葉にのせてメッセージを送り、さらにメッセージを受け取って戻ってきたのだ。

 はるばる海をこえて外国の”ラフレシア”のもとへ。

 アヤメがラフレシアに状況を伝え協力を願い出たところ、快諾してくれたらしい。

 そしてラフレシアから”匂い”というメッセージを受け取って帰ってきた。


 しかし、林に匂いそのものを放出するとゴルフ場建設阻止どころか子ども達も誰一人として入れなくなる。

 そのために協力してもらったのが”ダイモンジソウ”。

 ダイモンジソウの花言葉である”幻”で匂いを幻化し、ターゲットにだけ効くようにした。




「あーでも、ラフレシアの匂いちょっと嗅いでみたかったなー」

 勝利を確信した隼人はさっそく余裕しゃくしゃくで仁王立ちだ。


「だってよ。ダイモンジソウさん。」

 「え?」という顔をする隼人とダイモンジソウが「よ~し!」と気合いを入れるのが同時だった。


「うわっ!? ちょっ!! くっ……」


 さっきの余裕はどこへやら、背中を丸めて鼻をおさえている。「ごめんなさい! 勘弁して!」と懇願すると匂いは消えたようだ。

「俺の……俺の地獄の匂いよりヤバい……」

「ラフレシアの匂い嗅げるなんて貴重な経験だよー。感謝しなー。」

 ジロリと睨む隼人を無視して疑問を投げかける。


「さっきの人、お化けでも見たみたいに逃げていったけど」

「だから、この林にはお化けいるって。俺小さい頃見たことあるし」


 瑞希はダイモンジソウをちらりと見ると愉快そうにゆらゆら揺れていた。


「……ま、いいや。アヤメさんにもお礼して帰るよー。」

「おう!」





 二人は一緒に歩きだす。





 林には風が吹き、澄んだ空気が流れていた。

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花言葉を武器にして 麦野 夕陽 @mugino

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