第5話 作戦会議

 翌日学校に行くと、やはり林はゴルフ場になるらしいと隼人から聞かされた。親からの情報らしい。

 昼休み、早足で図書室に向かい本を物色する。

「また植物図鑑か?」

「そう。でも花言葉が一覧で載ってるようなものがいい。」

 今日は隼人がいち早く『花言葉図鑑』を見つけた。手渡してくる時の”してやったり顔”を無視して瑞希は本をひろげる。後ろで隼人が口を尖らせている。


「ところで、なんで花言葉なんだ?」

 本のページをめくりながら答える。

「植物は花言葉に関する能力をもってることがあるの。」

 いまいち理解できていない様子で首をかしげている。

「例えば……ほら、隼人の服にくっついてた紫のアネモネの花言葉は”あなたを信じて待つ”。隼人と私に助けを求めて、信じて待ってた。」

 隼人は真剣に話を聞いて、ひらめいたようだ。

「じゃあ、林にある花の力で建設を阻止するってことか?」

 その通り、と頷く。

「でも、この花言葉を全部チェックしてたら日が暮れるな」

 分厚い本を眺めながらため息をついている。

「目星はついてる。」

「ほんとか!?」

「隼人のおかげでね。」

 怪訝な顔をする。そんな覚えはない、と言いたげだ。

 組んだ両腕を机にのせてたずねる。

「”地獄みたいな匂い”の充満するゴルフ場ってどう思う?」

 リアルに想像した隼人は「ヴッ」と声をあげた後、激しく首を横にふった。

「……絶対行きたくない」

「でしょ? そもそもそういう匂いが充満している林にはゴルフ場を建設しようとは思わないはず。」

「でも、そんな匂いを出せる花なんて…………あっ。」

 何かに気付いた様子の隼人にニヤリと笑いかける。

「気付きました? 隼人くん。」

「いやいやいや! ラフレシアは日本に咲いてないって言ったじゃん!?」

「そう、だから」

 本の文面をたどっていた瑞希の指は目的の花を見つけた。

「届けてもらうの」





 放課後、二人は再び林に来ていた。

「まずは”アヤメ”を探そう」

 瑞希が言うと隼人は図書室から借りてきた図鑑をひらき写真を凝視する。

「どっかで見たんだよなあ、この花。どこだったかな……」

「行くよ」

 うなりながら考え込んでいた隼人は突然話しかけられて仰天する。

「え? 場所は?」

「そこの”カタバミ”さんに聞いた」

 歩きだした瑞希の後ろで隼人は半ば呆れたように呟く。

「無双じゃん……」





「あなたがアヤメさん?」

「そうだけど?」

 目的の植物にたどり着いた二人。

「この林がなくなることは知ってる?」

 沈黙が流れた。

「それが何?」

「私達、この林を守りたいの。ねっ?」

 ふりかえって同意を求められた隼人は「お、おう!!」と大きく何回も頷いている。

「……ふーん。それで?」

「あなたの花言葉を本で調べた。”メッセージ”。」

「……」

「協力してほしいの」

「勝算はあるの?」

 言葉に詰まる。この無謀な計画が上手くいくのか全く予想がつかないためだ。すると、後ろで黙っていた隼人が一歩前へ進み出て叫んだ。

「きっ、きょうりょくしてくださああああああい!!」

 あまりの声量に瑞希は腰を抜かしそうになった。

 隼人の声が林中にこだました後、またも沈黙が流れる。

「……フッ、少しでも希望があるなら、そうね。協力してもいいわ。そこの坊っちゃんにも免じてね。」

「あ! ありがとうございます!」

 隼人が心配そうにたずねてくる。

「な、なんて……?」

 そう、隼人には植物の声は聞こえないのだ。

「協力してくれるって!」

 それを聞くと、地面に向かって両手でガッツポーズしている。

 アヤメに詳しく作戦の内容を伝える。



「全く初めてのことね。私も上手くいくかわからないわよ。」

「お願いします。」

 そう言うと突然風が吹き、アヤメの葉が一枚ひらりを空へ飛んでいった。

 二人は葉を見送り、次の植物のもとへ向かった。





 ”ダイモンジソウ”のもとにたどり着き、経緯を説明する。

「へ~、つまり人間に”幻”を見せればいいってこと?」

「ざっくり言うと、そういうことです。」

「面白そ~! 幻を見せるなんて久しぶりだあ。腕がなるねえ!」

 瑞希はひとつ引っ掛かりを覚えてたずねる。

「前にも幻を見せたことが?」

「あ~、ちょっとイタズラでね! 昔ここらへんで遊んでた坊っちゃんにお化けの幻を見せてビビらせたことがあるねえ。そうそう、君の隣にいる男の子に似てたねえ! もっと小さい子だったけど!」

 瑞希はなんとなく察しがついて隼人を振り返る。半笑いで。

「おい。なんだその顔。何聞いたんだ?」

「なんでも~?」




 アネモネによれば三日後にまたあの大人達が調査にやってくる。

「やるしかない」

 二人は決意を固め、うなずいた。

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