第298話 上級監察官・雨宮順平VSアトミルカ7番ロン・ウーチェン
「すごいよ、川端さん! ナイスファイト! 人形も残り1体まで減らしたじゃないの! これならもうアレだね! メタルクウラが大量に出て来た光景も想起できないね! よくて双子だよ! お疲れ様!! はい、『
「……待ってください! 私はまだ戦えぽんっ」
川端一真監察官、雨宮上級監察官のスキルによって強制退場させられる。
実際、コンディションが完調ではないにもかかわらず、7番のコピー人形を4体も倒した奮戦は彼の歴史の1ページを彩る奮闘である。
だが、このページは川端監察官が破り捨てる。
「川端さん! 本当におっぱいコールで強くなれるんですね!! 自分、感動しました!!」
「……水戸くん。君はまだ若い。だが、その曲解は若さを言い訳にして欲しくない」
雨宮が創り出した回復液の球体に包まれた川端は目を閉じた。
恐らく、涙を流していると思われる。
液体の中なので、おっぱいにまみれた苦い涙は誰にも気取られない。
これは果たしてせめてもの慈悲なのだろうか。
「これは参った。オレは貴官らの実力を計算し違えていたようだ。まさか、川端1人に『
7番はパチパチと手を叩く。
その表情にはどういう訳か、まだ余裕の色が残っていた。
「お前の狼藉もここまでだ! 若い兵士を恐怖させ、川端さんとコンラルフ基地司令を操り、川端さんには深いトラウマを植え付けたお前の罪は重い!! 覚悟しろ!!」
「いや……。川端のトラウマは貴官らのせいだろう? まあ、良い。若い監察官よ。『
そう言うと、7番は背中の装置からさらに『
その数、実に11体。
川端が命と精神力を削って倒したコピー体がそのおおよそ3倍に増えたのだ。
「ちょっと、見て水戸くん! やっぱりメタルクウラだよ! この人、絶対に劇場版のドラゴンボールZ見てるって! いやぁ、クールジャパンは海を越えるねぇ!」
「自分もその映画知ってるから反応に困りますけど、さっきから雨宮さん、ドラゴンボールのネタ多すぎませんか!? と言うか、戦って下さい!!」
既に勝利条件は明らかだった。
この狭い動力室にわらわらと湧いて来た7番のコピー人形たち。
下手をすると、まだストックがあるかもしれない。
ならば、本体を叩くしかない。
水戸監察官は己の未熟さを素直に認められる稀有な資質を持っている。
その役は自分には荷が重すぎる事をよく理解していた。
「雨宮さん! この人形たちは自分がどうにか引き受けます! ですが、そう長くはもちません!! その間に、あなたは7番を倒してください!!」
「えー。私のスキル、再生専門だよ? 戦うのはちょっとなー。終わったあとにキャシーのおっぱいのとこ戻って良い? それなら頑張れる! あ、違う、ジェシーだ!!」
「ジェシーでもキャシーでも好きなとこに行ってください!!」
「ホント!? 事後処理も全部水戸くんがやってくれるの!? じゃあ戦うよ!!」
こいつら、おっぱいの話しかしてないな。
そう思われた諸君は正常である。
どうか、今しばらくのお付き合いを願いたい。
多分、雨宮上級監察官が何とかしてくれる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いいだろう。相手をしようか、上級監察官。オレの名はロン・ウーチェンと言」
「よいっしょー!! 『
普通、ボス戦の前には何か洒落の利いた舌戦を繰り広げるものだと思いきや、いきなり不意を突いていく雨宮順平。
7番ばギリギリ名乗ったところで、凄まじい勢いで伸びた棒の直撃を喰らう。
「な、7番様ぁぁぁ!!」
「がっは……! こいつ、常識はないのか!?」
日本探索員協会の双璧と呼ばれる雨宮順平。
だが、事務的な部分も常識的な部分も権威的な部分もだいたい五楼京華が引き受けているので、こっちの壁はずいぶんと薄い。
しかし、薄いだけに切れ味は抜群である。
「キャシーがね、待ってるんだよ! 君の罠に利用された、キャシーがね!!」
「ジェシーだろうが!! 『ボルテッククロー』!!」
7番の繰り出した雷の爪は、そのまま雨宮に向かって飛来する。
「危ない! これは受けるとピリッとするヤツだね! 『
「……オレのスキルはどこに行った?」
「えー。説明するの面倒だよねー。水戸くん、シクヨロ!!」
「頭おかしいんですか、雨宮さん! 自分、今そいつのコピーを11相手してるんですよ!?」
説明しよう。
『
このスキルの良いところは、無効化スキルと違い、相手の
つまり、7番の放った雷属性のスキルはそのまま
「はい、いっくわよー! なんつって! 『
「……ちぃ!? オレのスキルはこんなに強力だったか!? おい、22番!!」
「よく見ると違います! 雨宮が創り出した、とんでもない
「そうか、良かった。オレはまだ正気だったようだ! 雷属性ならば威力が大きかろうと、対処の方法はいくつも知っている!! 『エボナイトウォール』!!」
雨宮順平は戦いのセオリーを無視する男。
このように、スキルの撃ち合いに持ち込まれるなら更に追撃をするのがマナー。
だが、この上級監察官はひと味違う。
「隙あり!! 『
「げぇあっ!? こ、こいつ!? げぇふっ! しかも何発も!? げぇぇぇぎぃっ!!」
相手の隙を見つけると、とりあえず物理でぶん殴る。
特に
六駆や木原監察官が普段からやっているので忘れがちになるが、
想定外の遭遇戦に巻き込まれた7番には、その余裕がない。
「まだまだ! ここからが本番よ、チャン・ウーロン!! 『
「こいつぅ!! 使わないのかと思ってたら、結局オレの
ロン・ウーチェンは思った。
「上級監察官とはここまで強いのか」と。
「日本のトップがこいつって、人材育成の面では絶対にアトミルカが勝ってるわ」と。
だが、戦いに勝てなければ意味がない。
「ぐぇあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! く、くく、雨宮……どうやらこの勝負おま」
「隙あり! 『
7番。本名をロン・ウーチェン。イドクロアの壁に叩きつけられて気を失った。
同時に、『
水戸監察官も無事であり、数分間とは言え11にも及ぶ強大な敵を抑えきった活躍は素晴らしかった。
「はーい。これでおしまいね! アトミルカの残党のみんな! 投降する人ー!!」
「22番です! 小官が代表で返答いたします! 無条件降伏いたします!!」
「いい子だねー。チェン・ウーロンくんもこういう素直さが欲しかったよねー。ねー、水戸くん」
「雨宮さん。ロン・ウーチェンです。あなたの報告書、いつも修正してるの自分なんですよ。どうしてちゃんと名前を覚えられないんですか」
雨宮は答えない。
既に、地上に向かって走り始めていたからだ。
彼はこれから、キャシーだかジェシーだかの元へと急がなければならない。
水戸信介監察官は考えた。
「本当に配置換えをしてもらおう。今度こそ」と。
後日、その上申書は五楼の元へと届き「すまんな」と却下されるのだが、彼はまだそれを知らない。
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お知らせのコーナー!
本日よりカクヨムコンがスタートしました。
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また、同じく本日より新連載もスタートいたしました。
カクヨムコンは読者様の応援が非常に重要なコンテストでございます。
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・『家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~』
しょうもない異世界ファンタジーです。
1話https://kakuyomu.jp/works/16816700429275294141/episodes/16816700429275402552
・『高校の頃後輩だった年下女上司の小岩井さんは会社だと(本人は)完璧(のつもり)なのに1人になると途端にコミュ症』
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1話https://kakuyomu.jp/works/16816700429275657511/episodes/16816700429275739013
以上、いやらしい宣伝コーナーでした。
読者様におかれましては、引き続き拙作をお楽しみくださいませ。
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