第5話 さすがに懲りましたわ
目が覚めると朝だった。そして、おちんちんがムズムズしていた。見てみると美人の女性看護士二名が、私におしめをはかせていた。彼女たちは、私の方を見て微笑んだ。一人は、アメリカ人と日本人のハーフだった。この病院の救われるところは、看護士が患者を人間扱いするところだ。二言三言会話を交わして、彼女たちはナース・ステーションに帰って行った。
そして、私はまた眠ってしまった。次に起きると夕方だった。すると、男性の看護士とハーフの女性看護士が私のところに来て、男性の方が「昼食の時に、彼女に右手の拘束が外せれるんやったら、全身はずせや、コラって言った?」と聞いた。
「え?」
「おぼえてない?」
「え、いや、私は女性にそんなことは…」
「うん、おぼえてないんだね」
ハーフの女性看護士は、怯えた表情で私を見ていた。そして、彼らはまたナース・ステーションに帰って行った。私は、ついに目が覚めてしまった。両手、両足、腹を拘束されての時間。一体、俺は何をやっているんだ。いやいや、イカン。考えれば考えるほど、辛くなってくる。ここは、何も考えないことだ。無念無想。しかし、高名なお坊さんじゃあるまいし。そんなことできるわけない。
そのうちおしっこがしたくなった。まいったなこの年でおしめかよ。しかし、赤ちゃんの時のような童心に戻れられるかもしれんなと思ってやったら、海の中で海パンはいたままションベンやるのと同じ感覚で、あーなんじゃつまらんと思った。私は、身長があって腕が長いのでおしめは外して地面に捨てた。
夜になって、夕食を持って男性看護士が来た。私は、まだヴィーガンをやっていたから、ヴィーガンの持つ四つのメリット、環境保護、動物への福祉、健康、食糧飢饉の解消について説明した。食後、彼は「そっか。ええこと教えてもらったわ。ありがと」と言ってナース・ステーションに帰って行った。
夜寝るときに身体拘束を受けていると、寝返りが打てない。これも辛かった。早く時間よ過ぎてくれとばかり思っていた。懸念された大便だったが、これは便秘していた。結局、一週間で身体拘束は取れた。確か、その後、シャワーを浴びたと思うのだがこれは気持ち良かった。
また、食事も隔離室外にある専用の共同テーブルでほかの人たちと食事をとった。徐々に開放感が生まれてきた。部屋では、小説を書いていた。何書いてんの?と岩崎さんという美人女性看護師に問われ、「自伝的小説です」と答えた。名前出して良いか?と聞くと、出して良いよとの事であった。
二か月の閉鎖病棟での生活を経て、開放病棟へと移った。この病棟では男女が別室で入院しており、和気あいあいと療養生活を送っていた。ちょっとカッコいい年上の女性がいて、彼女にジュースを買って来てほしいと頼まれて使いっぱしりをやっていた。そんな中、すごいことがあった。
研修で来ていた臨床心理士の卵の女性が、目が覚めるほどの美人だったのである。女優の石田ゆり子さんと長澤まさみさんを足して二で割った感じ。「悪い事のあとには、良いことがあるものだ」このことわざは、私の韓国旅行記に登場する菩提樹氏に教えてもらったのだが、まさしくそうであった。
彼女は、この解放病棟のテーブルに一人だけ腰かけていた。それで、話をしに行った。先生、私の先祖は海賊なんです。笑っちゃうでしょ?と言うと、私の先祖も水上水軍ですよと答えた。水上水軍は義賊だが、私の先祖は…。トホホ。負けたと思って席を離れた。年上の女性には、あんな美人と何話しとったん?と聞かれた。まあ、それはともかく、今回の入院の総括としましては、身体拘束にはさすがに懲りましたわ。もう、二度と御免だ。普通に入院するんやったら、まあかまへんけど。と、いうのも結構友達とかできて楽しいからね。そんじゃ、この話はここまでで。バイビー。
問題小説 最後の入院にしたい(-_-;)in 2016 加福 博 @Donnieforeverlasvegas
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