いつかの少年

今がいつ、なのかわからない 

私は手回しオルガンを回している

石畳の広場 蜜色の街灯の下で


取り巻く子どもたちの中で

たったひとり 君だけには

どこかで会ったことがある

それがいつ、なのかわからない

ずっと昔だったか

もしくは昨日だったか


白い足 

その目を知っている

君の目を知っている


 舞台袖では

 次はどの幕を下ろそうかと

 支配人が思案している

 幕は数多ある 例えば

 ためいきに揺らぐ色とりどりの紗幕

 どこまでも沈んでゆく漆黒の緞帳

 その中から

 人の影はうつさない

 輪郭のみが透ける薄明の一枚が選ばれ

 ゆっくりと幕は下ろされる

 

私は手回しオルガンを回す

君を知っている

名前は知らない

名前は必要ない

だけどその目を知っているから

君にひとつ 飴玉をあげるね


ふっくらとした手が伸びてくる

君の白い手首に 印、を見つける

私は覚えている

だれか、の なにか、になれたの?

君は覚えていない

私は回すことをやめない


君の手から飴玉が滑り落ちる

はじめからそう決められていたかのように

砕けた破片は

いくつかの点を結びながら幕の裾を飾る

石畳の広場 街灯の下

あ、と見開かれた君の目を

もう少しだけ 見ていたかった

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0・廻 理柚 @yukinoshita

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