夜空に思いを

「ほら、浩太! 花火終わっちまうぞ!」

 お盆に開催される花火大会に、俺は洸一と遊びに来ていた。

「待てよ! 病み上がりなんだから、少しはおとなしくしてろって……」

 漁港で行われる小さなお祭りだが、町内外から多くの人が訪れる。そんな人込みも物ともせずに洸一は目当ての屋台へと駆けていく。

「何言ってんだ! 病院にいた分、夏休みを取り返さなきゃいけねーだろ?」

 張り切る洸一に呆れてはいたが、俺も楽しんでいた。なんとか人込みの間をぬって洸一の後を追った。

 花火が打ちあがるたびに、洸一は歓声を上げた。

「たまやーっ! なんてな」

 俺たちは一通り屋台を巡った後に、人気の少ない魚市場のシャッターの前に座り込んだ。海に面したシャッターの前は絶好の花火スポットだった。

「……なぁ、洸一。お前、ここに来ても大丈夫なのか?」

「何だよ、突然」

 そう言って洸一は困ったようにこめかみを掻いた。

「……あんな事はあったけど、俺は海が好きだぜ? 祭りも好きだし、だから、気にすんな」

 洸一は屈託のない笑顔を見せた。入院しているときには想像もできなかったのに。

 しかし、その笑顔は次第に消えていった。いつもは元気で明るい洸一がめったに見せることのない、真剣な表情だった。

「俺さ、意識が無かった時に、お前の母ちゃんに会ったんだ」

 俺は息を呑んだ。言わなきゃいけないなとは思ったけど、タイミングがなかった。そう、洸一は付け足した。

「……何か、言ってたか? 母さん」

「浩太と仲良くしてくれって、後、海のこと嫌いにならないでくれてありがとうって」

「そうか……」

 この日一番の大輪の花火が俺たちを優しく照らしていた。

「浩太のたこ焼きもーらい!」

「あ、ちょ、おい!」

「油断してる方がダメなんだよーだ」

 そう言った洸一は愉快そうに笑っている。俺もそれにつられて笑ってしまって、結局、二人して大きな声で笑い合った。

 夜空を彩る花火は、艶やかな海面にも大輪の花を咲かせていた。



 海は全てを奪い、全てを壊しもする。けど、俺達はきっと、海から離れては生きていけないのだとも思うーーそう思う。

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海に願い事 月輪雫 @tukinowaguma

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