零章 仲間

1

 夏前の長雨が降る森の中。

 俺は斜面の少し上を歩く影に狙いを定める。雨に霞んだ影は、足音を忍ばせ、そろりそろりと歩いているが、俺からは姿が丸見えなので全く意味がない。その人物はどうやら、斜面上方に意識を向けているようだ。

 引っ掛かったな。

 俺はひっそりとほくそ笑む。そこにはさっき俺があえて放置した、もう片方の刀を隠してある。茂みからほんの少しだけ、鞘のえんじ色が覗いているのだ。

 隊長なら絶対に気づくだろう。そう思ってわずかに色が見えるように置いた。隊長は警戒してはいるが、完全にこちらに背を向けている。

 俺はごく浅い呼吸を、さらに少なく、ゆっくりにしていく。雨水に溶け込むように、周囲と気配を同化させる。

 鞘に手をかける。滑らかに足を踏み出す。わずかな空気の揺らぎさえも起こさない。

 鞘から刀身が覗くのは、ほんのわずかな時間。誰にも見切ることはできないその一閃で、隊長の首を捉え――

 ふっと、隊長の姿が視界から消える。足に鈍い痛みが走るとともに、視界がぐるりと回転する。

 脊髄反射で受身を取り、斜面を少し転がって態勢を立て直す。が、背が地面から離れたのは束の間、後ろに引きずり倒され、気がつけば俺は空を見上げて大の字になっていた。

「えへ、今回も僕の勝ち」

 隊長がにっこり笑って、俺の顔を覗きこんでくる。無性にムカついたので張り手を食らわそうかと思ったが、隊長の小動物みたいな顔立ちのせいですぐに気が失せた。

「……はぁ、お前ほんと、どうやったら勝てんだよ」

 ぼやきながら体を起こし、貼りついた葉や土を手で払う。濡れているせいで、細かい葉がまるで磁石のように引っ付いてくる。

 俺はそれなりにちゃんと修行した剣士だし、一年もあれば余裕でこの龍人から一本取れるだろうなんて思っていた。だが現実は厳しかった。どうしても隊長に勝てないのだ。隊長の行動は隙だらけに見えるのに、なぜか攻撃が当たらない。雲と戦っているのかのような手応えの無さ。

「さすがは隊長と言うべきか……」

「えっへへもっと褒めて!」

「身長と脳みそがミジンコサイズ」

「ひどい」

 そのとき、何かが雨の幕を切り裂いて飛んできた。俺と隊長は別方向に跳びすさる。飛んできたものは、一枚の布だ。

黒狐くろぎつねか……!」

 俺が呟くと同時に、隊長の背後に黒狐が現れる。体勢が整っていない隊長に対し、黒狐が容赦なくサーベルを振るう。しかし隊長は、ガクンと膝を折るように後ろに仰け反ってそれをかわし、ついでにサーベルを蹴り上げる。黒狐はサーベルを手放してしまい、すぐさま別の武器に手をかけるが間に合わない。隊長は逆立ちの状態から体をひねって、黒狐の横腹にかかとから蹴りを入れる。

「ぐはっ……」

 黒狐は重い一撃を食らって横によろめく。隊長はその一瞬を逃さず、黒狐の肩を掴んで完璧な背負い投げを決めた。

「……参りました」

「むふ」

 ニマニマする隊長の足元に、さっきの布が落ちている。俺は土だらけになったその布を拾い上げ、大の字に寝っ転がっている黒狐の顔の上に落とした。

「汚ねぇ! 顔に乗せんな!」

「お前のだろ」

 この布は、訓練用の特殊なものである。訓練で人に向けて魔術を使うのは危険なので、その代わりに魔力で動かすことができる布や網を使っているのだ。魔導体まどうたい金属で作られた繊維が編み込まれているらしい。魔導体で作られたものはたいがい高価なのだと黒狐自身が言っていた。拾ってあげたのだから感謝してほしい。

 俺はついでに、ダミーとして茂みに隠していた刀も拾う。これも訓練用の武器の一つである。本物の刀をモデルに作ったおもちゃのようなものだ。刀身には、ナマクラどころか刃にすらなっていないただの金属板が使われていて、さらにそれを布で包んで全く切れないようになっている。それでも強く打ち付けると普通に痛い。


 俺たちがわざわざ降りしきる雨の中で訓練しているのは、戦闘任務のためではない。〈秋桜あきざくら〉を抜けるためだ。



 「黒龍の日」から一ヶ月ほど経ったある日のこと。

 隊長が「一ヶ月に一回、十五番隊会議をする」というルールを作ったのだ。記念すべき第一回会議のテーマは、「隊長が〈秋桜〉を抜けると言った理由」であった。


 「僕は〈秋桜〉に裏切られた」

 会議の始まりに、隊長が発したこの一言で、十五番隊は衝撃に包まれた。隊長は訥々とつとつと、自分が〈桜〉に連れ去られる直前のことを話した。会長が妙に強引な形で隊長を一人で戦いに行かせ、さらに隊長を見捨てたという。俺たちはただ黙るしかなかった。

「会長は僕を気に入ってくれていたはずだったんだ。僕も会長は好きだった。会長には色々と良くしてもらったし、何より信頼していた」

「じゃあ、なんで」

 俺は机の上に身を乗り出した。隊長は頷く。

「僕もそう思って、どうして会長が僕を見捨てたのか考えた。黒狐さんにも相談してみた。そしたら、会長と龍神が手を組んでいるんじゃないかって結論になった」

「会長と龍神が? なんでまた」

「僕は知らなかったけど、黒狐さんとイツキくんは、〈秋桜〉本部で龍神にばったり出会ったんだってね。しかもその龍神は、会長の部屋がある、地下に繋がる扉から出てきたとか」

 俺はあっと声をあげた。そういえばそんなこともあった。今だからわかることだが、あの時、龍神は会長と話をしていたのかもしれない。

「ここからは黒狐さんの推測だけど、会長は龍神に相当なお金を貰っているんじゃないのかな。龍神の言うとおりにする見返りにね」

 そこで涼子りょうこがポンと手を打った。

「そういえば、最近の〈秋桜〉は赤字経営なのよね。なんでも、色んなところで〈桜《さくら》〉に仕事を取られているみたいで。だから〈桜〉との戦闘も多くなってる」

「じゃあやっぱり、龍神から金貰ってんだろうな。それか資金源を龍神が持ってて、それを渡す代わりに隊長を差し出せって取引したか」

 ウルフに継いで、副隊長となった黒狐が頷きながら言う。俺がふむふむと聞いていると、からすが「それっておかしくないですか?」と言い出した。

「おかしいって、何が?」

「隊長が〈桜〉に連れ去られそうだったのに、会長はそれを止めなかった。それが『裏切り』ってことですよね? でも、龍神に隊長を引き渡したいなら、むしろ〈秋桜〉に留めておかなければならないんじゃ?」

「あ……」

 確かにそうだ。隊長が〈桜〉に捕まってしまうと、そもそも取引ができなくなってしまう。しかし隊長は、「いい質問」と言わんばかりに目を輝かせた。

「そう、それを今から言おうとしてたの。実はね、僕が〈桜〉にいたとき、龍神は僕に接触してきたんだよ。物理的にじゃなくて、僕の意識にね」

 俺は思わず「えっ」と声を漏らした。意識に接触?

「たぶん、僕が〈秋桜〉にいたら、黒狐さんが邪魔で僕と二人きりになれないんだろうね。だから龍神が僕の精神に直接語りかけられるよう、黒狐さんの目の届かない場所へ僕を連れ出したかったのかな。ついでに……邪魔者を排除するためにも」

 烏が一人心得たように「ああ」と呟き、シニカルな笑みを浮かべた。邪魔者とはいったい、と思ってから寒気がした。

 ウルフだ。

「龍神は、〈マザー〉がウルフさんを……殺してくれるだろうって見込んでたんだと思う。……たぶんだけど、〈桜〉には僕を捕まえる計画が前からあったんだ。マザーは〈死神〉くんから、『〈秋桜〉に〈龍〉という、翼のない黒龍がいる』って聞いてるはず。でもその黒龍が自分の息子だって確信が無かったから、一度僕の顔を見て、確認してから計画を実行に移した」

「……そうか、それでわざわざ俺たちの前に姿を表したのか」

「たぶんね。……その計画を、龍神はどこかで聞いて知ったんだ。ちょうどいい機会だから利用したんだろうね。

 推測だけど、龍神の計画はこう。……まず会長に、『○日にマザーがフーマを奪いに来るから、それとなく引き渡すように』と命じる。無事にマザーが僕を捕まえたら、隙を見て僕の精神に語りかける。……余談だけど、僕はろくに眠れなかったから、ここで無駄な時間を食ってるんじゃないかな。僕も正気じゃなかったし」

 隊長は辛いはずの記憶を、無表情に淡々と語る。それが痛々しくてつい目を逸らすと、斜め前にいる白鷺しらさぎが、見たこともないような凄まじい顔つきで隊長を睨んでいた。……いや、これは隊長ではなく、記憶の中のマザーを睨んでいるのだ。彼もまた、拷問の被害者だ。

「龍神はおそらく、僕の苦しみや怒りを利用して国を破壊させようとしていた。僕を唆そうとしたんだと思う。でもそれは、僕が龍神に『龍神の使』のことを訊いたから失敗に終わった。でも失敗に終わったのが、結果的にいい方向へ働いた。僕はそこで自分の運命を知って絶望したから」

「自分の人生はハナから龍神のものだったんだ、ってか」

 黒狐がため息混じりに言った。隊長はやはり淡々とした調子で頷く。

「そういうこと。さらにマザーがウルフさんを殺して、僕の感情に追い討ちをかけた。……ウルフさんは僕の唯一の希望。僕がもう一度王を殺しに行かない唯一の理由だった。龍神はそれをわかっていたから、マザーに殺す機会を与えた。龍神は自分の手は使わないから」

「まさかとは思うが、死神しにがみもグルか?」

 黒狐が問うと、隊長は唸った。

「そう見たほうが自然かなあ。でもちょっと微妙。グルだとしても、嫌々やってるという感じじゃないかな……」

「脅されたか。テメエを殺すとか」

「いや、それはないと思う。……うーん、脅されて困るようなものが彼にあるかなぁ……。やっぱり死神くんはただ単に僕が〈桜〉にいたら面白くないからだと思うなあ。疑いたくはないかな……」

「……お前と死神の間にある謎の絆は何なんだ?」

 俺がぼそりと言うと、黒狐がはっと目を見開き、犯人の名前がわかった探偵みたいな顔で「まさかお前ら、デキてんのか……!?」とふざけたことを言い出す。烏と涼子が黒狐にげんこつを食らわせてくれた。当の隊長はきょとんとしている。

「でき……って何が? よくわかんないけど、お互い色々あって」

「色々の内容を詳しく」

「うーん、任務ぜんぶさぼって一時間ぐらいずっとお喋りしてたりー、持ってきたお菓子食べたりー、殺し合いしたり」

「温度差がスゲエ」

「戦場でお菓子食べないで」

「何喋ってるの?」

「やっぱお前ら何かあるな?」

「……あるのかなあ。今度訊いてみないとわからないけど、あるかも」

「は?」

「あ、アレか? 『付き合ってんの?』って訊いたら『わかんない、告白とかしてないし』とか言い返してくる実質リア充。ウゼぇ死ね」

「え、ちょっと待って、なんで黒狐さんは恋愛の話してるの?」

「隊長、わからなくていいのよ」

「黒狐は何を想像してるんだ」

「黒狐さんはそういう趣味があるらしいですよ」

「おい烏盛大な嘘をつくな殴るぞ」

「ちょっと! 僕を置いて違う話しないで!」

 隊長が机を叩く。派手な音にビクッとして一同は静まり返る。隊長はそれを見て、誤魔化すように咳払いをする。

「……と、ともかく。……〈秋桜〉も〈桜〉も、みんな龍神に利用されていたんだ。全ては龍神の計画の上。あのマザーまでもが、龍神の手のひらの上で踊らされてたんだ。だけど、最後の最後で、龍神の計画は破綻した。……僕が死ななかったから。しかも龍神との"契約"を断ったうえで。それがどのくらいの痛手なのかはわからないけど」

 隊長はそこで一旦話を切って、お茶をすすった。

「そこまでして龍神はこの国を潰したかったのか」

 俺が言うと、隊長はなんとも言えない顔をした。

「……どうも王って、北のミーリスに戦いをしかけようとしてたみたいで。とんでもない法律で国民を縛り上げて搾取しようとか考えてたらしいけど、僕がおじゃんにしちゃった」

「そこは神話通り、ってわけか……」

「そゆこと。どっちかと言うと、龍神が、じゃなくて王が国を潰そうとしてたんだ。だから黒龍が民の代わりに王を殺して、政治にリセットをかける。龍神の作ったシステム通りに」

「……こうなってくると、誰が悪いとか誰のせいだとか言えなくなってくるわね」

 涼子がしんみりと呟く。同感だ。龍神が全ての原因なんて思っていたが、国を荒廃させたのは他ならぬ龍王自身だ。龍神はシステム通り動いたに過ぎない。ただ、そのシステムは人一人の人生を代償にするもの。……言ってしまえば、関わった全員が悪い。

 隊長はうっすら苦笑いを浮かべた。

「かと言って、僕は国民を代表して……みたいなことは思ってないよ。そもそも神話を知ったのが事を起こした後だし……大義じゃなくて感情で動いてただけ」

「あくまでもお前は悪人か。可哀想なこった」

 黒狐が皮肉に言って笑う隣で、烏がだるそうに言った。

「隊長がそう思ってても、世間の一部じゃ隊長は英雄扱いされてるよ」

「ああ、うん。変な宗教団体とか過激派が僕を祭り上げてるらしいね」

「そう。最近はそれこそ『龍王国神話』の文献をどこからか持ち出して、黒龍は神の使いだって突き止めた研究者が注目を浴びてる。全く無関係な黒鱗の龍人が宗教団体に捕まって崇められていたりね」

「……僕、新聞に顔出した方がいい?」

「まさか。警察が捜査に入って無関係だって証明したから大丈夫」

「……警察、ほどほどに頑張って欲しいなあ」

「言われずともやるでしょ」

 烏はニヤリと含みのある笑顔を見せる。

 烏は〈秋桜〉の会員なのに捜査官をやっている特異な人物だ。ゆえに〈秋桜〉での風当たりは厳しいらしい。ただ、本人曰く〈秋桜〉を警察に密告する気は皆無で、むしろ〈秋桜〉の活動に気づいていない警察を見ているのが面白いらしい。こんな奴を捜査官に採用してしまうあたり、この国の荒廃が伺える。

「でね。こっからが本題なんだけど。……龍神は、どうも僕が邪魔みたいなんだ。僕が自分から死ぬように仕向けてきたり、かと思えば自分の支配下に置こうとしたり。僕が知らないうちに龍神の弱みを握っちゃってるのか、それとも僕自身に何かあるのか……。龍神にとって僕は唯一接触が許されてる人間だから、何かしら利用価値があったとしても邪魔になる理由がわからない。しかも龍神は、あのあと行方不明になっちゃってるんだ」

 俺は首を傾げた。確かに行方不明ではあるが、それ自体に不思議はない。

 隊長は黒狐に目配せした。黒狐は眼鏡を指で上げると、苦い顔をして、ゆっくりと話し始めた。

「……務めの終わった龍神は、まず神界に戻るはずなんだ。そうなれば俺の元へ神界から使者が来る。そういう手はずになっているんだ。だけど今に至るまで来ていない。つまり、龍神は神界には戻っていないか、使者が俺のところに来れないような何かが起こっているかなんだ。どちらにせよ、龍神の言動は俺から見ても色々とおかしい。ほぼ確実に、何かを目論んでる」

「神界からの使者、ねぇ」

 涼子が訝しんだ。

「黒狐は神界を出禁になったって、前に言ってなかったかしら?」

 黒狐は少し困ったような顔をした。

「まあ……それはそうなんだが」

「それなのに、どうして使者が来るのかしら。龍神と何か関係があるってこと?」

「いや……あるとしても龍神の味方じゃねーぞ、俺は。出禁はまた別の話だ。……俺だって何故ここに俺がいるのか、言えるもんなら言ってる」

「いつもそうやって誤魔化して。言えないのは『呪い』のせいだ、って言うんでしょう」

「なんでそんな責めるんだ。しょうがねえだろ、呪いは呪いなんだからよ」

 珍しく黒狐はうなだれている。

「私は知ってるわ。呪いなんて存在しないこと」

「俺もそんなの知ってる。だけど神は……『例外』なんだ。神界の王は何だってできる。俺のこれが実際何なのかはわからんが、俺が自分のことを語れないのは事実だ。言おうとすれば俺は死ぬんだよ。灰になって消える。ほのめかすだけでもダメだ。これを呪い以外に何だって言うんだ」

「とにかく」

 隊長が口論を見かねたのか、涼子が何か言う前に口を開いた。

「黒狐さんが言ってることはたぶん本当。黒狐さんが何者なのかは僕は訊かないけど――。まあでも、わかってるのは、黒狐さんは龍神の敵ってことと、黒狐さんは今まで龍神を監視していたってこと。神界から迎えが来ないから、黒狐さんは監視を続けなきゃいけないんだよね」

 黒狐は何とも言えない顔で黙りこくっている。

「龍神の目的がわからない以上、僕は下手なことはできない。たぶん会長も買収されたままだしね。敵の敵は味方ってことで、黒狐さんは僕らについていてくれるってわけ。怪しむことはあまりないし、まあ、黒狐さんが裏切ったら僕は承知しないから」

 隊長は無慈悲に言い放った。目が本気だ。黒狐がわざとらしくぶるっと身震いする。

「おーこわい。まあ何もしねえけどよ」

「異論はない? 涼子ちゃん」

 隊長は目だけを動かして涼子を見た。涼子は少し戸惑いつつ頷いた。その動揺は俺にもわかる。隊長が隊長らしい仕事をしている……。

「それで、話を戻すけどね。結局神界には戻らなかった龍神が一体何を企んでるのか、僕たちにはまだわからない。だけど、このまま〈秋桜〉にいるのは危険だってことはわかる。だから僕は、〈秋桜〉を抜ける」

 一同は静まり返った。隊長が〈秋桜〉を抜ける理由が、やっとわかった。

 「抜けるといっても、龍王国――もう王国じゃないか――にいても意味がない。さっき言ったみたいに、色んな人が僕を狙っているだろうし。だから僕は、北の大国・ミーリスに行く。さらに言うなら、ミーリスにいる『人王じんおう』に会いに行きたいんだ」

「人王?」

 俺と白鷺の声が被った。隊長は少し笑って頷く。

「人間王。この世界の神様みたいな存在」

「[[rb:魔王 > まおう]]の人間版って言えばわかりやすいわ」

 涼子が補足を入れる。

「魔王って……魔界の王?」

「そ。人間界の王が、人間王」

「……聞いたことねえんだけど」

「うん。普通の生活してたら、存在は知らないはずだよ」

「どっちかっていうと、俺たちの方に近い存在だ」

 黒狐が自分を指して言った。

「で、なんで人王に会いに行くの?」

 烏が先を促す。

「うん。今ね、結局龍神が何考えてるかわかんないし、神界で何が起きてるのかもわからない。だから人王に訊きに行くんだ。人王は神界のことも知ってるから。それであわよくば、龍神に狙われてる僕と、龍神に恨まれちゃった黒狐さんとイツキくんを匿ってもらおう、って。だから二人は僕と一緒に来ることが確定してるんだけど、他のみんなには、できるだけ早いうちにどうするか決めて欲しいんだ」

 涼子と白鷺、烏がそれぞれ返事をする。そこで第一回十五番隊会議はお開きになったのだった。

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