第3話
道場にはどうやら木刀があるらしい。
木なので小回りも効くしこれが手に入ればこれからの戦術が少し楽になる。
しかし道場で待っていたのは、木刀でもゾンビでもなく…
マジモンの刀だった。
もちろん木刀もあった。
しかしこの刀、刃渡り15センチ以上確定。こんなモン適正単位はメートルだ。
鍔は菊の模様。柄はしっかり両手で持てる長さ。
俺は恐る恐る悠希に模造刀の可能性を聞いてみるとやはり模造刀ではないらしい。
ちなみに銃刀法は申請してるはずとのこと。
これから体育の先生は怒らせないようにしよう。(もういないけど)
「よし、次は理科室へGo!」
そう早々と道場を後にしようとした瞬間、後ろから声がかかる。
「いや、あのー、このまま15本の木刀と一本の刀を持っていけと?」
こいつ本当にバカなんじゃねぇかな。
「後から拾えばいいじゃん。拾いやすいところ置いといて」
「天才かよ」
「お前がバカなんだよ」
バカな悠希くんを置き去りに、あいつを連れてきた理由も忘れ前を歩く。
「ぉい!歩!正面!敵影……!距離20!戻ってこい!」
「は?20って何?メートル?ヤード?」
前を見返し、今俺がいる状況を再確認する。
(あっらぁ綺麗な青白いお顔)
「っておいおいマジかよ⁉︎」
俺はものすごい速度で迫るゾンビたちに少し遅れて気づく。
「おい歩!一回退却!この量だと俺だけで片付けられない!武器だけ持って逃げるぞ!」
「おっけ!剣道ポ○モン!俺を守れ!」
そう言うと、俺たちは道場へ引き返し、木刀を15本と真剣を持って中学校まで逃げた。
真柄と悠希は何やら作戦があるらしいが、俺は俺で作戦を考えないといけない。
まずは両陣営の戦力の把握。
「おーい清水〜」
「ぁん?なに?」
高圧的な清水に懐かしみを覚えたところで本題に入る。
「どのくらいの距離なら不規則に動く的に矢を一発で当てれる?」
清水は弓道部副部長。
しかも全国クラスの案外すげぇ奴。
ヒロイン気質なのにペッタンな性癖に刺さる、見た目『は』タイプ。
「うーん風とかにもよるけど…まぁ7〜10mかな」
「すごい距離だな!やっぱりペッタンこだと打ちやすいのか?」
「なに?胸の話?」
「うn…いえいえ…違いますよ?」
「はぁ…でも乱戦状態の中味方を射るかもしれないプレッシャーの中で7m先の動く的に当てるのは無理だよ。あと、Bはあるから」
……まぁそうだよね。
「いや、ありがとう。それだけで戦力になる。大丈夫誰も死なせないし殺させない」
「こんな状況だし仕方ないよ。私も頑張る。」
清水は表情を緩め、ほかの弓道部員の話に移る。
どうやら弓道部はクソ強いらしい。
基本的に7mは射程がある。そして一番の戦力は日向と清水だ。
清水はよほどの風でない限り、20mは当てれるらしい。
一方も日向は、長距離スナイプは得意としないものの、小回りが利き狙いもそこそこだと言う。
生存者の中で弓道部は5人。
現状コイツらは最強だと確信した。
悠希は野球部、剣道部を集めて作戦を伝えている。
俺は目的確認と鼓舞のために全員を一旦招集した。
正午。外の悲鳴とパトカーの音が収まり、火災や事故による爆発が起こっている。
田畑は踏み荒らされ、一部の建物は倒壊を始めた。
校舎は50体程度のゾンビに囲まれ、常に唸り声が聞こえる。
その唸り声の中心には約30名の中学2年生の姿があった。
皆大切な人を失い、14歳の身で武器を持ち、闘う覚悟を決める中。
1人前に立ち。恐怖と緊張でちびりそうになっている者がいる。
ほかの誰でもない。斉藤歩である。
この戦いの参謀を担う俺が人を集める理由は一つしかない。
作戦会議だ。会議というか…発表会に近い。
ようは1人演説である。
「ゴホン!」
「え゛ー どーも↑」
声が裏返り、冷たい視線が集まる。
そこに笑いはなく、強いて言うなら唸り声が響いている。
目は乾き、足は大きく震え、今にも蹲って石になりたい気分だ。
「どうした?何か問題でも起きたか?」
悠希くん!君を待っていた!
一発芸で滑ったみたいなこの氷点下の空気をリセットしてくれた。
これで話せる。
「今回はお前も俺の話を聞いて欲しい」
悠希を席につかせ、話を始める。
「スゥーッ……フゥゥウ」
「えーっと、今こうやって話を聞いてもらっているのは他でもないゾンビのことだ」
声のトーンを落とし、冷静に、正確に作戦を伝える。
作戦はこうだ。
これからの存続のため、情報は命の次に重い。
校舎に籠城しつつゾンビの情報をできる限り集めてから安全地帯へ行く。
まずは学校の裏手にある山に拠点を築き、頃合いを見て自衛隊駐屯地を奪還する。
俺がここまで饒舌に大勢の前で話すことに驚いている人もいるだろう、しかし大半は「自衛隊」と言う単語に驚いている。
自衛隊も全滅しているのか?
国は機能しているのか?
闘志に燃える目に曇りが見える。
「その後は、ここにいる3分の2を山に残し、3分の1は広島へ向かう」
「お前、まさか自衛隊から銃を奪うって言うんじゃないだろうな?」
静寂を崩す身勝手な声が一つ。
我らがもう一人のリーダー、悠希くんの声だ。
「悠希くん発言するときは手を挙げる!」
歩は場を和ませるため謎のキレ芸を挟み質問の答えを話し始める。
「現状、俺たちの今の武装はあまりにも弱い。この中で喧嘩したことあるやつは?」
大半の人の手が挙がる。
「じゃあ…友達同士で殴り合ったことは?」
一気に手が下がり、喧嘩っ早い悠希ですら手を下げている。
「だろ?そして今の武器は木刀と真剣一本。どう考えても足りないだろ」
頷いているのか、絶望しているのか。歩に集まっていた視線が下に落ちる。
「しかもまだゾンビの全貌を把握したわけじゃない。遠距離攻撃するゾンビも居るかもしれないだろ?弓道部に守ってもらうしか出来なくなる。その状況になれば“確実に”誰か死ぬ」
「じゃあなんで広島まで行くんだ?」
またしても悠希君だ。
「キミ……手、挙げようか?」
歩は背後に『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』という文字が見えそうなとんでもない形相で悠希を見つめる。
「まぁちょっとアテがあってな。地下に戦時中のシェルターがあるんだよそこだとちょっと楽なんじゃないかってな」
遅かれ早かれ話さないといけないことを質問されたので今回『は』多少気分がいい歩。
歩の初めての指揮も締めの言葉に入る。
「現在、99%以上の人類がゾンビと化している」
クラス全員の瞳を見て。
「おそらく皆が描いていた夢もこの12時をもって諦めざるを得なくなる」
未だに決心できてない元生徒の言葉にできない不安を断ち。
「当然、死人も出るだろう」
もっと原始的な不安を直視させる。
「しかし、今まで学校で習ってきたことは全て無駄じゃない。国語、数学、理科、社会、英語、これらの知識は後から確実に役に立つ」
そして5秒の静寂の後、
「応用しろ」
と一言。
「俺は司令部としてできる限りの事は尽くすつもりだ。明日の夜にはここを出る。今回の戦いは情報が命だ。どれだけ少ない被害で人類に有益な情報をどれだけ集めれるかが鍵だ。全員、死なずに自分のやるべき事に取り掛かれ!」
歩の『やり切った』という表情とともに会議は終わりを迎えた。
「全員!生きて人類史のエピローグと新たな時代の1ページを作ろうじゃないか!」
悠希も続く。
「じゃあ剣道部は建物の防衛。運動部は武器になりそうな備品の確保。文化部はこれからの作戦を伝える。解散!」
パンデミック 〜学生たちの闘い〜 (歩視点) あおでぶ @aonosimobukure
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。パンデミック 〜学生たちの闘い〜 (歩視点)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます