データ化した観賞用の「夢」を生み出すため、幻覚作用のある薬物を投与され続ける〝眠り姫〟の、いくつかの夢を綴った物語。
退廃的なSFのような世界設定のお話です。とはいえ、作品の大部分を占めるのは夢ですので(その夢の世界観が微妙に現実とはズレていることもあり)、SF作品であることの比重はそこまで大きくはないのですけれど。
タイトルの通り、有名な文学作品のオマージュであり、なにか重厚な迫力のようなものを感じるお話でした。
章題の頭に「夜」と付いている章、すなわち現実パートの物語にやはり惹かれます。夢が主体の物語といってもそこはそれ、まずその土台となるべき現実の、その揺るぎないが故にどうにもならない無常さ。彼女の見る夢はいずれもどこかしら悲壮なのですが、もし「悪夢」と呼ぶならそれはむしろ現実の方だと、そう言い切れてしまう境遇が胸に刺さります。
夢の内容は千差万別、内容はおろかそのリアリティラインもバラバラなのですが、中には妙に現実的なものある……というか七話目の『夢 楽しい』がもう本当に大好き。このクラクラ目眩がするくらいの悍ましさ! 強烈な悪夢の風景の詰まった作品でした。最後の終わり方が好きです。