夢 マグロ大王
マグロ大王が私の家にやって来て
私とマグロ大王は諸悪の根源当番なので
「豆板醬って使ったことあります?」
「ない。俺、ツナ缶しか食わないから」
「それ共食いっていうんですよ」
「そうなの?」
マグロ大王は死んだ魚のような目を丸くして驚く。
「じゃあ食べちゃ駄目かな、ツナ缶」
「別にいいんじゃないですか。人間だって社会的に
こうして私達がツナ缶工場に行ってみることした。電話で工場見学を申し込むとなんと今日はもう予約で満員らしい。そこで私達は工場前で待ち伏せして工場見学にのこのこやってきた馬鹿二人をツナ缶で撲殺し、予約チケットを入手した。ツナ缶工場のくせに詰めが甘いぜ馬鹿め。
ツナ缶工場の内部は予想よりも古めかしく、けれども照明だけは
「そもそも缶詰の歴史は古く、戦争の保存食として発展していきました。現代でも糞みたいな社会で戦うためツナ缶が愛用されています。ツナ缶は上司の後頭部を滅多打ちするのにジャストフィットなサイズと硬さなのです。かち割った頭蓋の中にツナを入れてかき混ぜて食べるのが最近の流行りみたいですね」
「そうなの?」
「ネットで話題沸騰って感じっすね」
こっそりと訊くマグロ大王にこっそりと答える。
「それでは次に美味しいツナの作り方をご覧いただきます」
海山さんが通路を先導し、実際にツナを作っているところを見せてもらう。そこでは沢山のマグロが拘束され、生きたまま肉を抉られていた。防音性の強化ガラスのため聞こえないが、マグロが絶叫しているのがその形相からわかる。
海山さんがにこやかに説明する。
「美味しいツナ缶は美味しいマグロから。当工場では生きたままマグロから肉を取ることで、新鮮なツナを作っています。また、肉を抉ったマグロには十分な栄養と再生促進剤を与えているので、繰り返し肉を取ることができるんですよー」
「マグロに苦痛を与えてしまうと肉の味が落ちてしまいませんか?」
「いえ、むしろ苦痛で肉が締まった結果、旨味が凝縮されて美味しくなります」
「長い間同じマグロから肉を取ると肉質が悪くなったりしないのですか」
「ツナ用のマグロは年を取れば取るほど味が良くなるのでご安心ください。ただ、
見学者の質問に海山さんが答えて、へーだとかほーだとか感心の声が漏れる。そんな中、マグロ大王は拘束から逃れようとのたうつマグロを見つめながら「可哀想だな」とつぶやく。ちょっと変わったこと言うなと思った。ツナになるまでの間にマグロの待遇がどうであろうとどうでもいいじゃないか。大事なのはちゃんとツナ缶が美味しいか、それだけだ。マグロはおとなしく搾取されていればいいのだ。
と、そこでメスガキがマグロ大王を指さして叫ぶ。
「あー! ここにマグロがいるー! 逃げ出したんだー!」
皆の視線が一斉にマグロ大王に集中する。私も改めてマグロ大王を見る。王冠を頭に乗せ、サンスクリット語で「私はマグロ大王」と書かれたタスキをかけた――マグロだった。
「ま、まさか、答えてくれ。マグロ大王。君は……マグロなのか?」
マグロ大王は大きく息を吐いた後、
「ああ、そうだよ」
そう肯定した。
驚きの余り何もできずにいる私をよそに、マグロ大王は「同胞よ、助けにきたぞ」とどこからともなく巨大なハンマーを取り出す。そうしてハンマーを強化ガラスに叩きつけようかというその時、作務衣を着た爺がマグロ大王に激烈な掌底をくらわす。万象拳の使い手だ。一目見て確信した。マグロ大王は死んだ魚のような目で気を失った。
「皆様お騒がせいたしました。どうやら以前工場から脱走したマグロのようです。お詫びも兼ねて皆様にはこのマグロを使ったツナ缶をお土産にお渡ししますので、どうぞご賞味くださいませ。かなり長生きしていたマグロなので美味しいと思いますよ」
見学者らは歓声を上げ、作務衣の爺に感謝していた。だが私はとても複雑な気分だった。豆板醬を使ってどんな料理を作ればいいのか。
それからはトラブルなく工場見学は進み、お土産にツナ缶を持たされ私は帰宅した。悩んだ末、インターネットで「ツナ 豆板醬」で検索してみると、意外にも沢山のレシピが見つかる。私はツナとにんにくの芽の豆板醬炒めを作ることにした。
その前にツナ缶を開け、マグロ大王だったを味見してみる。確かに旨味が凝縮されていて美味しかった。
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