第2話 声のする方へ

「ファッ!」

随分長く眠ってしまったらしい。周りを見渡すと、一本の道と、その奥に螺旋階段が見えた。この一本の道の脇には、草が生い茂っていて、桜の木が所々に植えられている。空から降ってくる太陽の日差しが心地よい。雰囲気は中庭に近いイメージである。が、どこかに一種の静けさ、儚さを帯びている。

「ここ、どこ????」

たしか、私は、13段目の階段に触れてしまって、《こっちにおいで》と_____

そのあとの記憶がない。その時、マリが言ってたことが脳内を駆け巡る。




『放課後の13階段を踏むと…冥界に連れていかれるんだって!』




「ここが、冥界………なの………?」

[冥界]へのパブリックイメージと今私のいる[庭園]のイメージに大きな懸隔があり、私の不安を煽る。


《こっちにおいでよ》


また声が聞こえてきた。だが今度は声の方向が分かる。螺旋階段の方だ。

私は居ても立っても居られなくなり、気づいたころには一本道を進み始めていた。

私が見たことがないような種類の植物、美しい蝶々や小鳥は、私の好奇心も同時に掻き立てていった。しかし、それと同時に、ここが本当に冥界なのかという疑念もより一層強くなっていった。短いのにとてつもなく長く感じた13階段とは裏腹に、この道は長いのにあっという間に通り過ぎてしまったように感じた。


螺旋階段についた。見上げると、頂上の見えない螺旋階段が上に連なっている。


《上っておいで》


真上から聞こえた。私は上るか躊躇った。単に果てしない階段を上ることに対して面倒くさく思う気持ちが5割、残りの5割は、もしここが本当に冥界だったとして、死神が私の魂を刈ろうとおびきよせているのではないかという心配である。だが、この螺旋階段の渦巻きに意識が吸い込まれていくうちに、上には何があるのだろうという興味が、心配をかき消してしまっていた。

面倒くさいのはどうにもならないが___

私は最初の一歩を踏み出した。


一時間ほどたっただろうか。この世界に時計はないようで、正確なことはわからない。実はもう何十時間も経っているかもしれないし、あるいは、まだほんの数分しか経っていないかもしれない。

「うう、疲れた…こんなことならもう少し痩せておけばよかったわ。」

ようやく、頂上が見えてきた。螺旋階段の先には、円状のフィールド(?)だろうか。下から見るとまだ、ただの石の円盤にしか見えない。円盤の上がどうなっているのかは実際に行ってみないとわからないようだ。私は少し階段に腰かけて休んでから、上る足を速めた。


そして遂に………

私は螺旋階段を上り切った。

「はぁ、はぁ、はぁ」

私は疲れ切って息を荒くし、その場に崩れた。

息が整って、自分がいる天空の土地を見渡す。あたり一面芝生で、川が流れている(天空なのにどこに行きつくのだろう?)。

その川を目線で追っていくと、水車の付いた民家と机椅子があった。そして、このフィールドを囲う柵越しに見える下の景色は、地上からの景色より、より静けさが増している。私は風景に圧倒され、ここに来た目的を忘れかけていたが、自分が上っていた螺旋階段が視界に移り、ようやく我に返る。

「あの声はどこ?」




「後ろだよ。」

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想い巡らす後悔者《リグレッタ》 りぐくん @Ginger-kun

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