月ウサギの大冒険

@takagi1950

月ウサギの大冒険

                            

ここは南(みなみ)の海(うみ)にある奄(あま)美(み)大島(おおしま)です。夏(なつ)の夜(よる)、たくさんの星(ほし)、満月(まんげつ)の月明(つきあ)かりに照(て)らされた木(き)の下(した)で、オジイ(おじいさん)と孫(まご)が話(はなし)をしていました。

「むかし、昔(むかし)、奄(あま)美(み)の森(もり)でケガをしている白(しろ)いウサギのルナを、おじいさんが見(み)つけました」

「オジイ、それでその白(しろ)いウサギさんはどうなったの」

「おじいさんの手当(てあて)で、元気(げんき)を回復(かいふく)したんだよ」

「良(よ)かった。それからどうなったの」

 孫が続(つづ)けて聞(き)きました。

「おじいさんは、奄(あま)美(み)の森(もり)に昔(むかし)から住(す)んでいるアマミノクロウサギの加那(かな)に、この白(しろ)いウサギのルナの世話(せわ)を任(まか)せたんだよ」

それからもオジイと孫(まご)の話(はなし)は続(つづ)きました。


 アマミノクロウサギの加那(かな)は、この白(しろ)いウサギのルナに森(もり)での暮(く)らし方(かた)を教(おし)えました。2カ月(かげつ)もするとルナは、森(もり)の生活(せいかつ)にすっかり慣(な)れ、ルナと加那(かな)は仲(なか)の良(よ)い姉妹(しまい)の様(よう)になりました。

最近(さいきん)、ルナに元気(げんき)がありません。加那が「ルナ、元気(げんき)ないけどどうしたの」と聞いても最初(さいしょ)、ルナは答(こた)えませんでした。

「ルナ、心配事(しんぱいごと)があるなら教(おし)えて」

ルナの目(め)を見(み)ると涙(なみだ)を流(なが)していました。

「加那(かな)、実(じつ)は私(わたし)は月(つき)から来(き)たウサギです」

決意(けつい)を込(こ)めて言(い)いました。最初(さいしょ)、加那(かな)はルナの言(い)っている意味(いみ)が分(わ)かりませんでした。

 ルナが言(い)うには、月(つき)から見(み)えるきれいな青(あお)い星(ほし)(地球(ちきゅう))を近(ちか)くで見(み)たくて、羽衣(はごろも)(空(そら)を飛(と)ぶことが出来(でき)る特別(とくべつ)な織物(おりもの))に乗(の)って見学(けんがく)に来(き)ましたが、台風(たいふう)に巻(ま)き込(こ)まれて、羽衣(はごろも)が破(やぶ)れ森(もり)に落(お)ちた。とのことでした。

「嵐(あらし)で羽衣(はごろも)がこんなに破(やぶ)れて」

ルナは涙声(なみだごえ)で話(はな)しながら、加那(かな)に破(やぶ)れた羽衣(はごろも)を見(み)せました。

「それで森(もり)で怪我(けが)していたのですね」

「そうです。怖(こわ)くて寒(さむ)くて。おじいさんに逢(あ)えた時(とき)は地獄(じごく)に仏(ほとけ)(困難(こんなん)を救(すく)ってもらうこと)でした。動物(どうぶつ)の鳴(な)き声(こえ)が怖(こわ)くて、怖(こわ)くて」

二人(ふたり)は手(て)を取(と)り合(あ)って泣(な)きました。


そして、泣(な)き終(おわ)るとルナが思(おも)いつめたように話(はな)しました。

「最近(さいきん)、月(つき)にいるお父(とう)さんが歳(とし)を取(と)って力(ちから)が無(な)くなって、月(つき)の回転(かいてん)速度(そくど)が段々(だんだん)遅(おそ)くなってきているの。早(はや)く私(わたし)が帰(かえ)ってお父(とう)さんに代(か)わって、回転(かいてん)速度(そくど)を正常(せいじょう)に戻(もど)さなくてはいけないの」

「遅(おそ)くなるとどうなるの」

加那(かな)が心配(しんぱい)そうに聞(き)きました。

「一日(いちにち)が長(なが)くなって、こよみがくるいます。そして、潮(しお)の満(み)ち引(ひき)きにも影響(えいきょう)します」

「それは大変(たいへん)だ。漁師(りょうし)さんが困(こま)るね」

「だから早(はや)く月(つき)に帰(かえ)りたいのです。でも方法(ほうほう)が分(わ)からないの」

ルナは、加那(かな)の手(て)を取(と)り、目(め)を見(み)て、訴(うった)えました。そこで、加那(かな)は森(もり)の管理人(かんりにん)ケンムンを呼(よ)んで相談(そうだん)することにしました。


 加那(かな)からこの話(はなし)を聞(き)いたケンムンは、ルナを一日(いちにち)も早(はや)く月(つき)に帰(かえ)すことにしました。早速(さっそく)、ルナを助(たす)けてくれたおじいさんと相談(そうだん)して、羽衣(はごろも)を大島(おおしま)紬(つむぎ)(奄(あま)美(み)大島(おおしま)の名産品(めいさんひん))の機織(はたお)りの名人(めいじん)に直(なお)してもらうことにしました。

また、ルナのことが役人(やくにん)に知(し)られると、お金儲(かねもう)けや見世物(みせもの)に利用(りよう)されると思(おも)い、秘密(ひみつ)にすることにしました。こんな事情(じじょう)もあり、役人(やくにん)に知(し)られないように夜中(よなか)に、村人(むらびと)全員(ぜんいん)で大(おお)きなタコ(風(かぜ)で空中(くうちゅう)に飛(とば)す物(もの))を作(つく)り、それに羽衣(はごろも)を持(も)たせたルナを乗(の)せて空(そら)高(たか)く上(あ)げ、そこから風(かぜ)に乗(の)って羽衣(はごろも)を飛(と)ばして、月(つき)に帰(かえ)すことにしました。

 1カ月(かげつ)後(ご)、羽衣(はごろも)はきれいに直(なお)り、タコも完成(かんせい)しました。


 そして待(ま)ちに待(ま)った満月(まんげつ)の日(にち)。明々(あかあか)と月明(つきあ)かりに照(て)らされた森(もり)の広場(ひろば)で、タコに羽衣(はごろも)を持(も)ったルナを乗(の)せ、空(そら)高(たか)くあげようとしましたが、風(かぜ)が途中(とちゅう)で止(と)まって2度(ど)失敗(しっぱい)してしまいました。朝日(あさひ)が昇(のぼ)る時間(じかん)が、だんだんと近(ちか)づいていました。この出来事(できごと)が役人(やくにん)に知(し)られると大変(たいへん)なことになります。


 急(いそ)いで力持(ちからも)ちで森(もり)の暴(あば)れ者(もの)“ヤチャ坊(ぼう)”も呼(よ)び寄(よ)せ、村人(むらびと)と力(ちから)を合(あ)わせて綱(つな)を引(ひ)き、8羽(わ)のルリカケスも、タコの隅(すみ)に付(つ)けられた紐(ひも)をくちばしで咥(くわ)えて、飛(とび)び上(あ)がりました。

今度(こんど)は運(うん)よく風(かぜ)にも乗(の)り、見事(みごと)成功(せいこう)です。またたく間(ま)に空(そら)高(たか)く上(あ)がり、村人(むらびと)が綱(つな)を放(はな)すとタコが更(さら)に舞(ま)い上(あ)がり、タコからルナが羽衣(はごろも)に乗(の)り、手(て)を振(ふ)りながら月(つき)に向(む)かって、飛(と)んで行(い)く姿(すがた)が見(み)えました。ルナの姿(すがた)は、だんだんと小(ちい)さくなり、やがて月(つき)に吸(す)い込(こ)まれる様(よう)に、姿(すがた)を消(け)しました。


 この出来事(できごと)から1カ月(かげつ)が過(す)ぎた満月(まんげつ)の日(ひ)、月(づき)では白(しろ)いウサギがお餅(もち)をついている姿(すがた)が見(み)られました。これを見(み)て、加那(かな)はルナが月(つき)に帰(かえ)ったことを確信(かくしん)しました。翌日(よくじつ)、村(むら)には空(そら)からたくさんのお餅(もち)が降(ふ)って来(き)て、中(なか)にはお金(かね)とサトウキビの苗(なえ)が入(はい)っていました。

これを見(み)た加那(かな)は「ルナ、沢山(たくさん)の贈(おく)り物(もの)ありがとう」と空(そら)に向(む)かって叫(さけ)びました。すると「加那(かな)、また一緒(いっしょ)に遊(あそ)ぼうね」と、そんな声(こえ)が空(そら)から聞(き)こえたように思(おも)いました。


 そして村人(むらびと)は、このお金(かね)でルナに感謝(かんしゃ)する神社(じんじゃ)を立(た)て、畑(はたけ)にサトウキビの苗(なえ)を植(う)えました。またサトウキビから黒糖(こくとう)焼酎(しょうちゅう)(奄(あま)美(み)大島(おおしま)でしか作(つく)れない酒(さけ))を作(つく)って、島人(しまんちゅ)の長(なが)生(い)きの薬(くすり)としました。

よって、いまでも奄(あま)美(み)の人々(ひとびと)は、長生(ながい)きとのことです。

   完(かん)

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