Lv1.対トロール戦
エタルは確率の精霊である仔猫のシュレディを肩に乗せたまま、オワリーの町中で棍棒を振るうトロールと打ち合っている。
トロールの特徴である緑色の肌。毛髪の無い禿げあがった頭。三階建ての建物に匹敵する巨体と血管が浮き出る全身の筋肉。手に持つ棍棒は大人三人分の太さはあり、身なりは腰巻だけという
戦士系とはいえ、曲がりなりにも
エタルは、雲泥の差があるトロールの身体能力や体格の違いを自身の魔法で補っている。何も無い空間から魔力を生み出し発生させるエタルだけの力。トロールが加速すれば魔法陣で組み込んだ魔法で加速し、トロールが攻撃すれば自転する魔法陣を刀身に串団子のように串刺しにして展開させた鉄の剣で打ち払う。
この世界では力と質量は等価であり、どちらかが不足していればどちらかを増やして補えばよかった。エタルはこの法則に則り、魔法を付帯させた剣でトロールの棍棒を何度も打ち弾いていく。
トロールとの戦闘は至って単純だ。
打撃系の攻撃を受け止めるか回避しつつこちらの攻撃を当てて
にも関わらずエタルが選び取った手段は接近戦である。トロールと同程度の力を宿した剣で攻撃を打ち払う近接戦闘。トロールの棍棒が巻き込んだ風圧は、同じ強さの風を魔法で発生させて相殺し。トロールの体重と筋力が加わった棍棒の一撃は、同じ重さと速度を加えた鉄の剣で弾き飛ばす。同じ力を発揮できればトロールといえどもおそるるには足らない。
肉弾戦を得意とするトロールに、ほぼ無防備な布の服装で接近戦を挑む行為は愚の骨頂といえたが、恐れ知らずなことにエタルは攻撃も防御も自らの装備ではなく己の魔法で行うことを信条としている。重い防具が高い防御力を備えている理由は、防具の材質が硬い強度を持つか強い
もっとも。エタルのこのような魔法の使い方は例外中の例外であり。一般的に魔法を得意とする魔術師や魔法使いは、敵対象から遠く離れた地点から攻撃を加える長距離射撃を最も好む。トロールの攻撃に耐えうる強固な装備に身を包んだ騎士か戦士で前線を維持し、後方で待機する弓兵や魔法使いが前衛で足止めされているトロールに矢と魔法で狙い撃ちにする戦術。要するにこの地域で推奨されるトロールとの戦闘方法とは、基本的に
結果的に
エタルが集団行動を不得手としている理由は様々にあるが、それを今ここで語ることはない。喫緊の課題は目の前のトロールであり、エタルは戦闘中だった。
剣を握るエタルはトロールが振り回す棍棒による攻撃を何度も弾く。トロールが武器を振るう軌道は読みやすい。力と速度は対抗できる。あとは如何にしてトロールとの戦闘に決着をつけるかという懸案を残すのみ。
この世界の戦闘は基本的に四則戦闘と呼ばれており、敵と敵が出会った瞬間から能力や状況によって先攻と後攻に優劣が分かれることを発端とする。先攻に回った側は即座に「攻撃」「移動」「待機」「逃走」の四つの選択肢から一つを選び行動しなければならず、後攻の側も必然的に「防御」「移動」「反撃」「追走」の手段を選ぶことによって
これを現在のエタルとトロールの戦闘状況に当てはめると、先攻は常にトロールが握っており、エタルは後攻に回り込んで防御に徹している状態だった。
トロールの棍棒による攻撃をエタルが鉄の剣で打ち払うことによって防御する。戦闘開始から今まで。この状態を続けている理由は、一重に防御後にエタルが攻撃に転じていないからに他ならない。
四則戦闘における「攻撃」と「防御」とは、形さえ整っていればその手段は問われない。例えるなら、剣や斧などの物理武器で敵を攻撃しようと魔法で攻撃しようと四則戦闘では全て同じ「攻撃」と見なされる。これは「防御」についても同様であり盾で敵の攻撃を防ごうと、剣で攻撃を凌ごうとも全て「防御」という行為で解釈された。また、これは余談になるが先攻が「攻撃」を選択し、後攻が「移動」を選択した場合。それは「回避」という扱いとなり防御とは厳密に区別される。加えて四則戦闘が用意する四つの選択肢の中には「移動」と「逃走(追走)」という似通った移動系の要素が別々に存在するが、「逃走」とは戦闘から撤退するためだけに集中して行われる敗走を意味する。
現在のエタルの戦闘状況で解説すると、剣を構えたままトロールの周囲で移動するのは四則戦闘の「移動」に該当し、剣を捨てて戦闘状況そのものから離脱する行為は「逃走」と判断された。
常に後攻に甘んじるエタルはいつでも「追走」を「逃走」に変えて選び取ることができたが、あいにくトロールは危険度を示す等級で
異世界ランキングの極意《書き損じ石版》 挫刹 @wie
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