手っ取り早く、大金を稼ぐ手段とは!?

なめなめ

第1話 手っ取り早く大金を稼ぐ手段とは!?

「手っ取り早く大金を稼ぐならどうする?」


 ンなこと、オレは知らねぇ。でも、必要なもんはわかる……それは運だ!


 例えばギャンブルなんかがそうだろう。あれは運さえあれば、比較的簡単に金が手に入れられる。


 もちろん。いい仕事に就いて懸命に働くという選択肢もある。

 しかし、そんないい仕事に就くにも、運は絶対に必要だ。運が悪ければブラック企業で使い捨てにされるのが関の山だからだ。


 つまり、金を稼ぐということは運が全ての要素を決める言っても過言ではない!


 よって、『運がない者』は、絶対に金を……大金を稼ぐことは出来ないのがオレの持論だ。


 一部の手段を除いて……そして、オレはその手段を知っている。しかも二つも!


 一つ目の手段は『才能』だ。飛び抜けた才能というものは、あらゆる困難を真っ当に一段二段飛ばしで超越ちょうえつできるものだ。


 ちなみに……ここで敢えて『真っ当』と言ったのは理由がある。なぜなら、二つ目の手段は決して、ではないからだ。


 二つ目の手段。それは……


「――――た、助けてくれ……」


 今のはオレの足元で這いつくばってるジジイが言った言葉だ。


 時間にしてちょうど夜中の二時を回った頃か? 現在、オレはとある山奥にある豪華な屋敷にお邪魔している。


 まぁ、こんな時間にこんな場所……勿論お呼ばれされてる訳ではない。ここに来たのはいわば偶然の産物……乱暴な言い方をすれば“強盗”と言ってもいい。


「いいから金のありかを教えなよ。爺さん? 早くしねぇと、寿命よりも先に御迎えが来ちまうぜ?」


 オレは愛用のナイフで彼の顔面をもてあそびながら悪びれることもなく、足元に這いつくばる爺さんに話す。


「だ、だから金はないんだ。あ、あるなら、とうに渡してる……」

「またそれかぁ、爺さん?」


 ザス!! 勢いよく振り下ろしたナイフは、爺さんの右手の甲を貫き、そのままフローリングの床へと突き刺さった!


「ぎゃあああああああああーーー!!」


 両足をバタつかせて足掻く爺さん。転げ回りたいくらいの痛さのはずだが、右手を固定されてるので残念ながらそれできない。


「ほ、本当にないんだぁ! う、嘘じゃないぃ!」

「爺さん……あんた相当に強情だねぇ」


 こうも何も吐かないとはな……少し揺さぶってみるか?


「なぁ、爺さん? オレも鬼じゃないんだ。金さえ手に入れば、直ぐにでもこの屋敷からオサラバするって約束するぜ?」


 こんな言い方をしてるが、ことが終わったら本当にこの屋敷からは出ていくつもりだ。

 別に爺さんの養子になる予定もないしな。


 もっとも、もうすぐ殺される人間が養子を持ちたいとも思えないが……?


「屋敷? い、今、屋敷と言いましたか?」

「うん? ああ、金さえ手に入ったらさっさと出ていってやるぜ」

「い、いえ……あ、あなたは、ここがに見えたのかを訊いたのです」


 何だ、この爺さん……? 血を流し過ぎたせいか、おかしなことを言い出したぞ?


「き、聞こえて……ないのですか? あなたには

「はぁ? オレにここが屋敷に見えるのかだって?」


 おかしな質問に思わず頭を捻る。


「どうなのです? あなたには本当にここが……」

「うっせぇーーーー!!」


 ザジュ!!


 オレは突き刺したナイフを更に踏みつけて、より深く突き刺す!!


「爺さん……まさか、おかしなことを言って、オレをたぶらかそうとしてんのかぁ!? ああ!!」


 腹いせに突き刺したナイフを、足でグリグリと踏みつける。そのことで発生するあまりの激痛に、爺さんはうめき声さえ発せない。


「ハハハ、痛てぇのか爺さん? 痛てえなら、いい加減に金のありかを……ありかを……爺さん?」


 平然としている? 爺さんは何も言わずにただ平然とこちらを見ている……強がりのつもりか?


「じ、爺さん……?」

「あ、ああ……これは失礼。少し考えごとをしておりました」

「か、考えごとだと? ず、ずいぶんと余裕じゃないか?」

「はい。余裕です」

「なっ!?」


 笑顔でそう告げる爺さんに、オレは何か妙な違和感を感じた。


 やせ我慢……いや、それはない! 訓練された屈強な者ならいざ知らず、一介の年寄りがここまでされて何も取り乱さない訳がない!


 なのにこの爺さんからは、どこか余裕があるようにも感じる。


 それにだ! わからねぇが、さっきから逆にオレの方が追い詰められているかの様な感覚さえある。

 まるで、蜘蛛の巣にひっかかった羽虫の如くに……


「どうやら、捕まえた様ですね」

「え?」


 ふと、爺さんがこんなセリフを口にした。捕まえた? どういう意味だ?


 それに気のせいか、どうもさっきから嫌な汗か止まらない!


「おや、あなた? お顔が真っ青ですが、大丈夫ですか?」


 表情の変化が目についたか、爺さんはオレの顔に触れようと手を伸ばす。


「触るな!」


 我ながらヒステリック気味に、その手を振り払った。


 くっ、何かが変だ。ここにいたら、何かマズイ気がする……こうなったら一旦退散するか?


「わ、わかったよ、爺さん……オ、オレの負けだ。このままおいとまさせてもらうわ……」


 とにかく、少しでも早くこの場を離れた方がいい! オレは急いでその場から移動しようとするが……


「ぐあっ!?」


 右手にいきなり激痛が走った! 見ると手に見覚えのある何かが生えている……いや違う! これは生えてるんじゃない! 突き刺さっているんだ! 目を凝らしてよく見てみると、それはオレの愛用するナイフだった!!


「ぎゃあああああああああーーー!!」


 最初に爺さんが上げた悲鳴と同じ悲鳴モノを、今度はオレの方が繰り返す!


 ど、どういうことだ!? どうして、オレのナイフがオレの手に刺さって……ハッ!


 何だ!? 何なんだこれは!? 気づけば、オレと爺さんの体勢がいつの間にか入れ替わっているだと!!


「バ、バカな!?」


 ついさっきまでオレが立って、爺さんがその足元に這いつくばっていた!

 なのに今は、逆に爺さんが立って、オレが足元で這いつくばっている!


 しかも、右手はご丁寧に深々と突き刺さった愛用のナイフによって床に固定されていた!


 これって……完全に立場が逆転している!?


「フフフ……ようやくお気づきになりましたか? そう、本当はあなたが私に捕まっていたのですよ♪」

「なに!?」


 爺さんは勝ち誇ったかの様に笑いながら……


「周りをよく御覧なさい」

「周り……なっ、これは!?」


 言われた通りに辺りを見回すと、オレが今居たはずの屋敷は消え、ただの山奥の森へと変わっていた。


「ば、馬鹿な……たしかに今の今まで……」


 だが、現実にオレは森の中にいる。触れている地面の感覚と貫かれた手の痛みが、嫌でもそのことを証明している!


「じつはですね、私……『妖怪』なんですよ♪」

「よ、妖怪? えっ?」


 オレは喋り出した爺さんの顔を見上げた。


 妖怪……と言ったが、その顔は明らかに人間のものに見える。まさか、狐や狸みたいに化けてるとでも言いたいのか?


「おや? もしかしてこの顔ことを気になさっておいでですか? なぁに、これは私が食い殺した人間の顔を拝借してるだけですのでどうかお気になさらずに♪」


 丁寧な口調の割に、話している内容はなかなかにエグい!


「そうそう、あなたはが先程まで見ていた屋敷。アレは私が幻術げんじゅつで生み出したものですよ♪」

「げ、幻術?」


 思わず聞き返してしまった。


「そうです。この術は私のお相手となる方に理想の幻覚を見せ、この場所へ誘き寄せるためのもの……」

「あ、相手の理想……そうか! あの時、オレに『ここが屋敷に見えるのか?』と聞いたのは……」

「はい♪ あなたがちゃんと術にかかったのかを確認をするための質問だったのです」


 そうなるとオレは、屋敷を発見した地点で既に術中にハマっていたということになるのか……


 なるほどな。よくよく考えてみると、こんな山奥に金持ちの屋敷があるのも不自然な話だ。


「因みにですが、この顔の方は亡くなったお孫さんの幻覚が見えていた様ですね。いきなり泣きながら抱きついて来たので、思わず喉笛に噛りついちゃいましたよ♪」


 目の前で惨劇の様子を嬉々しながら話すクソ野郎の顔を睨んで、オレは……


「……げ、外道め!」

「外道? これは異なことを言いますね?」

「なに!?」


 爺さん顔の妖怪は、不思議そうにオレを見る。


「たしかに私は、お世辞にも褒められた性格ではありません。でもそれは、あなたも一緒ですよね?」

「い、一緒だと?」


 妖怪は溜め息をつくと、億劫おっくうそうにオレへ語りかける。


「少しは考えてみてください? あなたは私の術にかかっていたとはいえ、そこで何をしました?」

「な、何って……」

「金目当てに屋敷に押し入り、いたいけな老人を刃物でおどす! 挙げ句には目的を済ませば、殺人をも犯すつもりだったのでは?」

「そ、それは……」


 オレは心を見透かされた様な気持ちになり、目を逸らす。


「つまり……あなたも私と同じ“外道”ということですよ♪」


 言ってるヤツは最低だが、言ってる内容が的を射てるだけに憎らしい!


「さて、そろそろお話は終わりにしましょうか? 少々名残惜しいですが、お別れの……いえ、ですので……」


 そうな言いながら、妖怪は爺さんの顔を邪悪に歪めていく。


「あ、そうそう。逃げたいのでしたら、別に構いませんよ?  まぁ、あなたの手に深々と突き刺さったそのナイフは絶対に抜けませんがね♪」


 妖怪の言う通りだ。じつは何度か隙を見てナイフを抜こうとしているが、抜けるどころかビクともしない!


「く、く、抜けない……」


「ほぉら♪ 早くから逃げないと、食べちゃいますよ~♪」


 徐々に口が裂けてみにくく変わる爺さんの顔は、もはや原型を留めてはいなかった!


「ま、待ってくれ! し、死にたくない……」


 無駄だとはわかっていても、命ごいをして見せるのは人のさがなのだろうか?


「いいえ~、待ちませ~ん♪」


 視界一杯に広がったおぞましいものを見て、もはや恐怖や絶望といった感情はない……


 もしあるとすれば、それは……


「ま、待って、これならどうだ!?」

「はぁ?」


 あるとすれは、それは『生』への執着しゅうちゃくだけだ!!


 オレは無事な左手を使って、懐から数枚のを取り出して見せる!


 しかし、その行動に妖怪は……


「ブァハハハーーー!! 本当に面白い方ですねぇ、あなたぁ!? この私にそんな紙キレのお金が通用すると本気でお考えで?」


 馬鹿したようにののしられるが、これは


「ああ、間違いなく通用するさ!」

「え?」


 一瞬、オレは妖怪にできた隙を見逃さなかった!


 カチッ!

 ナイフで刺し貫かれた右手を素早く距離を取る!


「なっ!?」

「悪いな。このはいつでも取り外しが可能なのさ。それに……」


 妖怪にはオレの行動が完全に予想外だったらしく、明らかに混乱の色がうかがえた。


「それに、コイツは金ではない!」


 そう言ってオレは、左手に持っていた数枚のおふだを間髪を入れずに目の前の妖怪へ向けて飛ばす!!


「うおっ! 何だ、これは!?」


 全てのお札がペタペタと妖怪の身体に貼り付くと、一瞬にして蒼い炎となって燃え上がった!!


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!! わわわわわ!!!」


 夜空がつんざくばかりの悲鳴を上げる妖怪!

 その悲鳴の大きさの比例するかのように、炎もまた激しさを増していく!!


「があああああああ!! なぜだぁぁぁぁー! なぜ私がぁぁぁぁぁぁこんな目にぃぃぃぃ!?」


 炎に包まれて絶望すら妖怪に対し、オレは出来る限りの皮肉を込めて言ってやる。


「なぜって? 金の為だよ」

「………………………………」


 オレの言葉が聞こえたのかは不明だが、妖怪から返事が戻って来ることはなかった。



 ――――この山では、昔から何人もの神隠しに会っていた。


 ある時、愛する孫が神隠しに会ったという祖父が孫を探しにこの山へやって来た。


 しかしその後、孫はおろか、その祖父さえも戻って来ることはなかった……


 よって事態を重く見た当局は、これを解決するために凄腕の陰陽師を大金で雇うことになる。


「ふぁ~! こんな夜更けまで働くとさすがに疲れて……ってぇ! もう夜明けじゃねぇかよ!」


 山向こうの空を見ると、既に白々と明るくなっているのが確認できた。


「……もう、帰るか」


 オレは吐き出すようにそう呟くと、疲れた足を引きずりながらその場をあとにした。


 ――――そういえば昔、どこかの誰かが言ってたな?


『運』がない者が手っ取り早く大金を稼ぐ手段は二つあると……


 一つ目は才能。飛び抜けた才能というものは、あらゆる困難を真っ当な手段で超越できる。


 そして二つ目……オレが言うのも難だが、それは決して真っ当な手段ではない。


 なぜならそれは、間違いなく直接的な危険をともなう手段だからだ!


 でもな、オレみたいな人間が手っ取り早く大金を稼げるとしたらその危険な二つ目の手段しかないのが現状なんだよなぁ。


「陰陽師……大金は稼げるけど、やっぱりキツイぜ!」


 誰が聞いてる訳だもないそんな愚痴を溢しつつ、オレは帰りの帰路につくのであった。

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