切なさの尺度 ver.m (短文詩作)

春嵐

切なさの尺度 male.

 彼女の存在そのものが、とても不安定だった。存在として希薄。覚えていて、忘れないようにしていないと、消えてしまう。

 ひとなのに、どこか、幻想の匂いがする。抱き合って眠ると、どこまでも深く眠れた。それを伝えると、彼女は、少し笑った。空っぽだから、あなたの心の穴を広げてるのかもね。そう言っていたか。

 彼女を存在させる方法も。彼女を覚えていられる方法も。すべて、分からないままだった。そういう類いに詳しい同僚によると、存在そのものを左右させる薬は存在するらしい。存在させるための薬の存在。ばかみたいな話だが、彼女は、事実、自分の記憶のなかにいる。

 仕事の都合で、逢えない。忘れてしまわないか。彼女が消えてしまわないか。そういう漠然とした索漠さで、心がおしつぶされそうになる。


「薬、もらっておけばよかったな」


 今度、頼んでみよう。

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切なさの尺度 ver.m (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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