『砂漠の肉屋』テーマ:砂漠 肉屋 看板 800文字以内 掌編


「……熱い、喉が渇いた……」


 厚い外套を羽織りながら、俺は広大な砂漠を歩いていた。

 砂漠にいる赤き竜を倒す。そう意気込んだものの、環境という敵に一刻一刻と命を削られ死に掛けていた。


「ん……あれは……」


 歩いていると、視界の先に小さな小屋が見えた。

 近付いてみると、掲げられた看板には『肉屋』とある。


「肉……屋?」


 不思議に思ったが、人がいるのであれば、水を譲ってもらえるかもしれない。

 俺は半ば倒れるように扉を開ける。


「おや、いらっしゃい。お客様とは珍しいじゃぁあないか!」


 店の中には、笑顔を浮かべた身綺麗な女性が立っていた。赤毛の美しい女性だ。


「す、すまない……み、水をくれないか? もう、限界なんだ……」

「おやおやこれは大変だ。少し待っていてくれたまえ!」


 ドタバタと奥へ引っ込んでいくと、直ぐに戻ってきた女性は自身よりも大きな樽一杯に入れた水を持ってきてくれる。


「さあ! 好きなだけ飲みたまえ!」

「あ、ああ……ありがとうっ!!」


 一瞬、呆気に取られたが、直ぐに疑問など忘れ体ごと樽の中へ突っ込むように水を貪り飲む。


「うっ……んぐっ…………えっほえほっ!?」

「ゆっくり飲みたまえー。焦らずとも水はなくなったりはしないさー」


 腹を満たすほどに水を飲み、人心地付いた俺は、助けてくれた女性に頭を下げる。


「ありがとう。助かった。お礼をしたいが、金で良かったか?」

「いーやいや。なぁにを言っているんだい? ここが何屋だか君は知っていた入ってきたのだろう?」

「ああ、肉屋だったな。丁度良い、それなら肉を買おう」

「んふふー。君はおかしなことを言うねー。ここは肉屋」


 瞳が金色に輝き黒目が細く伸びる。身体中にびっしりと赤い鱗が生え、涎を垂らした口には剣山を思わせる歯が並んでいた。


「――お代は君の肉に決まっているだろう?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ななよめぐる短編集 ななよ廻る@ダウナー系美少女書籍発売中! @nanayoMeguru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ