第5話 終章


 シーモアのことがあってから、妻との関係が少し変わったように思えた。

 何かが劇的に変化したわけではないが、俺には、彼女から発せられる空気が、俺達の間を流れる空気が、どこか柔らかいものに変わったように感じられた。

 その後、職務を果たしただけとはいえ、俺達夫婦の関係を気にした近衛騎兵のエドワードが、律儀に近況を聞いてきて、

「歴史バカも役に立つもんだな」

 と笑っていたが、俺には、何のことやら、さっぱり分からなかった。

 長兄リチャードは、シーモアとイリーナの件を利用して、王家とも姻戚関係を結べるメンデル家とのパイプを太くしておきたかっただけだろうし、メンデル家の方も、悪い噂を立てられて、すっかり厄介者になってしまったイリーナを、嫁に出しても恥ずかしくない家へ嫁がせてしまいたかっただけなのだろう。

 親の命令に従ったイリーナは、俺に対して、シーモアとの件を後ろめたく思っていたが、俺が何とも思っていないことを知って、ようやくホッとしたということだろうか?

 愛のない結婚をした俺達の間にあるのは、お互い、家の都合に従ったということだけで、何もない。

 何もないはずだった。


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兄に命令されて結婚したら、妻はニコリともしない女だった。 狩野すみか @antenna80-80

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