小休止 1

「「はぁぁぁ…………」」



 ニコラとフローラ、それに僕の三人で昨日と同じ山に来てるわけだけど、何故か二人が暗い。

 タイミングを合わせたみたいに溜息が二重になってるし。


 あ、先に言っておくと、リーゼ達との騒動で遅刻したことは原因じゃないからね?

 ちゃんと謝罪したもの。



 ただ、ちょーっとだけ軽かったかもだけど。

 だって、ちょっと遅れちゃっただけなんだから、「待たせちゃってゴメンね~」くらいでも許されるでしょ?


 ……ダメですか、そうですか。



「ふ、二人とも今日はどうしちゃったのかな? もしかして……ボクのせいだったりします?」


「え? ううん、アーちゃんはなにも悪くない。

 その……わたし、ワイバーンさんになにもできなかったなって……」


「……あたしも似たようなもんだ。

 クソっ、分かってはいたがあそこまでなんてっ……!」



 なーんだ、そんなことか。まあそうだよね~。

 遅刻くらいでネチネチと責めるような達じゃないんだって、僕は初めから分かってたよ~。



「そっかそっか、ワイバーンのことね。けど、あれって強いモンスターなんでしょ?

 ボク達みたいな新人冒険者がどうにか出来る相手じゃなかったんだよ。気にしても仕方ないって~」


「うん……」「ああ……」



 うわ、空気重っ。

 静かなのは嫌いじゃないけど、重苦しいのはちょっとなぁ。



「え、えっとー。で、でもさぁ、そのつよーいワイバーンを撃退したんだよ? これって十分凄いんじゃないかなー。

 それに報酬だってもらえるんでしょ? これでフローラのお父さんも助かるよね!」


「……そうだな。数日もすれば認定されるって話だから、そうすれば……っ」



 この認定っていうのは、撃退報告したモンスターが数日間周辺で目撃されなかった場合に依頼の成功が認められるって話だね。

 逆に言えば、付近に留まったままだったり、すぐに戻って来たりしたら報酬なしってわけだけど。


 こんな条件があったなんて、昨日ギルドで聞かされるまで知らなかったよ。

 何か後出しジャンケンっぽいけど、ニコラも普通に受け入れてるわけだから一般的なルールっぽいね。



 もしかしたら、依頼を受注してたら説明されてたのかも?

 ま、受注の手続きもしてなかったのに成功扱いしてくれるって言うんだし、悪い事ばかりじゃないか。



「でも、足りないと思う……もっともっと必要なの」


「え、そうなの? だ、大丈夫だよ。そのために今日も山登りしてるんだからさ!

 ね? 二コラ、そうだよね?」


「あたしの考えが当たればな。うまくいけば大金が稼げるはずだ」



 今日もここに来ているのは、当初の予定であったニコラの案を実行するためだった。

 彼女にどんな名案があるのかは知らないけど、何かしてれば気は紛れるよね。



 うーん。という感じで不慣れな話題振りを担当してみたわけだけど……僕の貧相な会話デッキは早くもネタ切れだよ!


 こうなったら最終奥義である天気の話をするしか……ん?

 今、視界の端で変なものが動いたような?



「…………」


「おーい、どこ行くんだよアイリス? フラフラしてるとはぐれんぞ――って、なに拾ってんだよ」


「なにって……何だろうコレ? んーと、毛玉?

 今さっきまで動いてたから、たぶん生物いきものだとは思うんだけど」



 コロコロと転がって来た、白い毛の塊のような物体を拾い上げてみた。

 ふむ。大きさは人の頭くらい、とはいえ人の毛というよりはもっと動物的な毛……。


 あーそうだ、羊に似てるかもね。モフモフだし。



「そいつは、タンブルシープじゃないか?」


「たんぶる、シープ? じゃあ羊ってとこは合ってるのか。

 ――お、ここが顔っぽいかな。確かに羊みたいだ。

 土で汚れてるから、とりあえず<クリア>でキレイにしとくね」


「……メェ?」



 回転させながら観察してみれば、毛が生えていない部分があり、そこに顔らしきものと小さな巻き角らしきものを発見した。



「普通、こいつらは集団で行動するはずなんだが……はぐれたっぽいな。

 収穫間近の麦なんかを食い荒らすっていうで、たしか討伐依頼も貼り出されてたし、逃げてきたのかもな」



 このどう見ても無害そうなモフモフをマジマジと見つめる。


 冒険者に討伐依頼って、これもモンスターなの?

 作物を荒らすだけなら、害獣って感じだけどね。


 というか、よく考えればモンスターって何なんだろう? どこからモンスターになるのかな?



「……アーちゃん、さわってみてもいい?」


「えっ!!? うっ、うん!! もちろん、どこでも触ってくれていいよっ」



 フローラの大胆なお願いに、僕の脳は大きな衝撃を受けフリーズしかける――が、しかし!

 すぐさま冷静さを取り戻して、いつでもどこでも全く問題ないことを一歩近寄ってアピールした。


 いったい僕の、どこを、どんな感じで、触ってくれるんだろうっ?? ドキドキが止まらないよ!!



「? ……わあぁぁぁっ、すごいモコモコでふわふわ……っ! やわらかーいぃ……」


「ぁ、触りたいってこ、こっち……? あー………うん、分かってた。も、もちろん分かってたょ…………」


「なんで動揺してんだ?」



 選ばれたのは毛玉の方でした、と。

 うぐぅ、フローラにもてあそばれたぁぁ。


 当たり障りのないところから敏感なところまで、僕はどこでもウェルカムだったのにっ。

 ニコラに構ってあげられないくらいには、大ダメージを受けたよぉ。



「メエェェッ! メメェッ、メメェェェ…………」


「あなた、どこからきたの? ふふっ、かわいい~」



 そのうえ気に食わないのは、こいつも彼女に撫でられて普通によろこんでるところだよ。

 このままだとマズイ? 毛玉にフローラの心が盗まれちゃうんじゃあ……。



「――はい、ストップ。そこまでねー」


「えぇぇぇ、もうちょっとモフモフしたーい。ア~ちゃん、いいでしょぉ?」


「可愛くおねだりしてもダメです。……ええっと、なぜなら次は二コラの番だからね」



 くっ。可愛いフローラに言われたら、返さないといけない気持ちになってくる……けど!

 そこは僕の堅牢けんろうな精神力でブロックだ……っ!


 彼女にヨシヨシされて、モフモフされて、グチャグチャにされるのは僕なんだからっ。

 その立場を確立するまでは近付けるべきじゃなかったよ、この毛玉め。

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