小休止 2

 強引な理由ではあったけど、とりあえずフローラから魔性の毛玉を引き離すことには成功だ。

 でも、「次は二コラの番」と言ってしまった手前、彼女に渡さないとだよね。



「い、いや。あたしは別にいらないし……」


「まぁまぁ、触り心地は悪くないから持ってみなよ~。あくまで触り心地は、だけど。

 綿わたなんてその辺で買えるだろうし、温もりなら人肌のがいいんじゃないかなーって、ボクは思うけどね。

 でもま、嫌な感じはしないというか? 触っても損はないくらいの気持ちで受け取ってよ」


「メェ? メェメェ!」



 よく意味の分からない事を早口に捲し立てながら、毛玉を半ば強引に幼女の腕の中へ移動させる。

 拒否の言葉を呟いていた彼女にしてはあっさりと、手渡されたそれを大人しく撫で始めた。



「ふーん……。ま、悪くはないな。――ん? どうかしたか?」


「ねえ、フローラ? コレってさ……」


「うん、だよねだよねっ! ニコちゃん! すっごくかわいい~!!」



 この光景を目にした隣の美少女も同じ感想を抱いたようで、テンション高く素直な感想を伝えている。

 つまり、モフモフを抱いた幼女は最強ってこと。


 ニコラにはヨシヨシ(以下略)されるよりも、したい欲の方が勝るから毛玉にそこを譲ってやってもいいかな。

 ……いいんだろうか本当に? 僕も幼女に愛される小動物ポジを狙っていくべきなんじゃないだろうか?



「は、はあ!? こ、子供扱いすんなっつってんだろうがっ!!」


「あはは、そうだったね。ごめんごめん。

 でも、似合ってるって思った事をそのまま言っただけなんだから、素直なボク達を許してよ~」



 という感じで、コレのおかげで二人共いつもの調子を取り戻したみたいだ。良かった良かった~。

 思いがけず出会ったこの小動物には、感謝しなくちゃだね。


 ――そういうことなんで、そろそろ処分しようかな。

 これ以上たわむれてると、愛着が湧いてペットにしたいとか言い出すかもしれないし。



「さーてと。じゃあ、もういいかな」


「お、おい!? なんでダガー抜いてんだ!?」


「んん? だってこれ、モンスターなんでしょ? なら討伐しないと」


「メェッ!?! メメェ?! メェッッ!!」



 ダガーを片手に一歩近付くと、タンブルシープを抱えたニコラがそれを守るようにして一歩後退あとずさる。


 ……まるで僕が悪いモンスターかのような反応だよ。まぁ逃がすって事ならそれでもいいか。

 とはいえ、このままだと後で拾ってくることも考えられるし、これだけはやっておこう――。



「ア、アーちゃん、じょうだんだよね……?

 このコ、すごくおびえてるし、悪いコじゃないと思うのっ。逃がしてあげよう?」


「……うん、分かった。逃がそっか」


「ホントにわかったのか? なら、なんでそいつをしまわな――っ!?」


「メェェェッッ!?」「アーちゃん!?」



 騒ぐ彼女達を無視して、毛玉にダガーを突き刺した。

 しかし肉を抉る感触はしない。当然、失敗したわけではなく、別に目的があってのことだ。



「ちゃんと固定しててね? 変に動くと刺さっちゃうかもしれないからさ」


「お、おまっ!? 逃がすんじゃなかったのかよ!?」


「落ち着いてよく見てよ。……ね? 殺そうとしてないって分かるでしょ?

 これはただ毛を刈ってるだけ。あ、もちろん後で売るためね?

 今はフローラのお父さんのために、少しでもお金を稼がないといけないもんねー」



 テキトーに考えた言い訳をしてるうちに、フワフワの毛は刈り終わった。


 ただ、綺麗に刈れたのかと聞かれれば微妙なとこだね。

 地肌が見えてるところもあれば、毛が残っちゃったところもあるし。


 いや、結果的にはこれで良かったのかも?

 こっちの方が可愛さ減だし、もうコレに二人の心が奪われる心配はないってね~。



「よし、こんなものかな。確か群れで行動するタイプだったよね?

 さあ、行っていいよ。もうはぐれないようにね~」


「かわいそう…………」



 地面に降ろしてあげると、一度はコテンと倒れてしまったものの、やがて短い四本の足で立ち上がり、林の奥へと消えて行く。


 ふーん、毛がなくなると歩くのね。多分、転がれないからかな。

 あまりにも小さな足だったからコブか何かと勘違いしてたけど、一緒に刈り取らなくて正解だったね。



「メメェェェ……」



 ま、ヨロヨロで今にも転びそうな覚束おぼつかない足取りだし、すぐに他のモンスターのえさになったりしてね。

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