輝く花 7
「ねえ君、アイリスちゃんだよね?」
「ぇ……?」
――翌日。
今日も待ち合わせ場所であるギルドにやって来た僕だったが、その入口手前で若い男に話しかけられた。
「ぁ、はい、そうですけど……ボクに何か用ですか?」
「誰だったかな?」ってちょっと考えちゃったけど、まずもって男の知り合いがいないから考えるだけ無駄だったね。
まあ、ここ最近の経験からしてナンパの
ギルドに着いたからって無警戒に隠密スキルを解除したら、その途端にコレだよ……。
「悪いが、ついて来てくれないか? 君に大事な話があるんだ。
……リーゼちゃんにはまだ聞かれたくなくてね」
そう言うと男は、こちらの返事も聞かずにギルドの裏手の方へと歩いていく。
えぇぇー。長話するつもりもないし、ここでよくない?
放置するのが正解だと思うんだけど……、あの人"リーゼちゃん"って言ってたよね?
うーん、何で彼女の名前が出てきたんだろ――あ、そうか。
確か彼女と同じパーティにいた男の一人だよ、彼。
ってことは、彼女に関係する話なのかも……ふむ。
待ち合わせ時間まではまだちょっとあるし、話を聞くくらいはいいかな。
***
ということでね。
あ、もう一度言うけど"渋々"ね。ココ、重要だから。
「あのー、それでボクにどんな話でしょうか?」
「実は――パーティを抜けようと思ってるんだ。
それで、叶うならば君のところに入れてほしいんだよ」
「え゛っ?? ダメですね、お断りします」
「っ!?」
僕があまりにもきっぱりと断ったからだろうか、男はボケっとした顔で固まってしまった。
いやいや、せっかく美少女構成パーティになってるんだよ?
なのになんでキミを入れないといけないのさ。
「も、もうちょっと考えてみてくれないかな?
これでも剣の腕には自信があってね。何があっても君を必ず守ってみせるよ」
「はぁ、そうですか……。
……あの、リーゼさんのところを抜けるって、彼女のことはいいんですか?」
つまらない話だったので帰ろうかとも考えたが、彼女のパーティの様子を思い出して一つ聞いておきたくなった。
あそこって、リーゼに気がある人達の集まりだと思ってたんだけど違ったかな?
……もしかして彼女も一緒とか? それだったら考えてみてもいいなぁ。
「あぁ、やっぱり彼女とのことが気になるよね。
大丈夫。リーゼちゃんとの間には何もないよ、誓ってもいい」
「何もない? そうですか……」
なるほどね。セットということもなく、これ単品ってわけだ。
よし、話は終わりだね。時間もそろそろいい頃合いだから帰ろー。
「そうなんだよ。……というより、彼女は俺達のことを盾くらいにしか考えてないんだ。
昨日のワイバーンの時だってそう……っ。だから、俺はパーティを抜けようと――」
「大変なんですね。すみませんが、ボクは約束があるのでこれで。
パーティ探し頑張ってくださいねー」
「へっ? ま、待ってくれっ!」
回れ右して戻ろうとしたら、手を掴まれて引き止められてしまった。
……しつこい人だったみたいだ。
やっぱり話なんて聞かずに無視するべきだったよ。
さて、どうしようかなぁ。
透明化とか隠密スキル辺りを使えば撒けるとは思うけど、結局待ち合わせ場所はギルド内だから探しに来たら見つかっちゃうし。
とりあえず、手を掴まれてるのは不快だから、この男の手を切り落とそうかな――
「こんなぁ人気のないところでぇ、何をしてるんですかぁ?」
「っ!! リーゼちゃん……」
腰のダガーに手を伸ばしたところで甘い声が響いてきた。
少し横にずれて男の背後を見れば、まるで甘い香り漂うお菓子のような少女が、小首を傾げて僕達を見つめていた。
「み、見ての通りだよ。彼女――アイリスちゃんのパーティに移ろうと思ってね。
アイリスちゃんも、俺みたいな『頼りになる戦士の方が仲間になってくれるなんて嬉しいです!』って、乗り気なんだ。
邪魔しないでくれよ」
「ぃや、ぇっ!? い、言ってませんけど?? というか断りましたよね?」
うーわ、この人いきなり嘘つきだしたよっ。
しかも、本人の目の前でとか……メンタル強者過ぎない?
「な、なぜですかぁ……っ? パーティを抜けるなんてぇ、ひどいですぅ……。
リーゼを守ってくれるって約束は、嘘だったんですかぁ?」
「……本気だったさ。けど君は、あの"カミルさん"に守ってもらうんだろっ?
だったら、俺は必要ないじゃないかっ!」
「………………」
僕が否定した事は無視して進行するし……。
要するに、もっと頼りになる人が見つかったから、この人は捨てられたって話っぽいね。
ところで、カミルって誰だろう? ……ま、誰でもいいか。僕には関係ないし。
あーあ、これ以上付き合ってても良い事なさそうだし、行ってもいいかなぁ。
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