輝く花 6
「いつつ……っ。ぉ、おーいフローラっ! 生きてるかぁーっ? ……あ、あとアイリスも」
うん。見た感じ少し汚れてはいても、大きな怪我はしてなさそうだね。
「二コラも無事っぽいね。こっちも全然大丈夫だから、心配いらないよ~。
あーでも、一応<ヒール>と<クリア>を使って……はい、綺麗にしておくね」
「そうか……よかったぁ。――で、そっちのは?」
彼女は、僕達の無事を確認すると張りつめていた緊張が解けたようで、緩んだ顔を一瞬見せた。
が、そうかと思えば後ろのハンナ達に気づいてちょっと警戒してるよ。
「ドワーフの君も、彼女達の仲間なのかな?
僕達はBランクパーティ『希望の剣』。そのリーダーを務めてるカミルだ」
そうそう、そんな名前の人達だった気がするよ。
確か、この前のワイバーン襲撃イベント以来になるのかな?
彼らは副店長と積み荷の護衛を優先したから無事だったらしいね。
まさか、ワイバーンと一緒のところで再開するなんて……変な縁だよ。
「そう警戒しないでくれよ。
僕達は戦闘中の君達を見かけて駆けつけただけなんだから……君達も、仲間に説明してくれないかな?」
「え? ……あーはい。
まぁ、なんて言うか? そういう感じでね? ……うん。
よ、要するに。この人達が助けてくれて、ワイバーン撃退成功! ってことになったんだよ」
「いや、まったく説明になってないが……とりあえず、恩人ってことだけは分かったわ」
僕の
……いきなり説明役なんて重大な役目を振らないでほしいよ……。
ま、まぁ、これでワイバーンとメインで戦ったのは主人公くん達にできるし、僕達が目立つことはないでしょ。
「悪い、失礼な態度を取ったことは謝る。それと、二人を助けてくれてありがとう」
「気にしないでくれよ。同じ冒険者として、可能な限り助け合っていこうじゃないか」
気にしないでいいってさ。
彼自身が言ってるんだから、僕は一ミリも気にしないことにするよ~。
「ぅぅぅ、アーちゃん…………」
「へ? やわらか――じゃなくて。ど、どうしたのフローラ?」
「お、おい!? フローラも無事じゃなかったのかっ!?」
ここまでやけに静かだったフローラが、可細い声で僕の名前を
顔色がちょっと悪いかも? 回復魔法を使えば治るかな……。
と思ったけど、モンスターに攻撃されたわけじゃないし、軽いし柔らないしその上いい匂いまでするから、僕が家まで運ぶのがいい気がしてきたよ。
たぶんこれは疲れちゃっただけだね。だから、すぐに何かしないといけないって事はないかな~。
「その子、魔力切れじゃないのかい?」
「へ? 魔力切れですか? ……ぁ、あー、なるほどー? そうかもですね」
彼女の様子を観察したハンナが、ぶっきら棒な言い方ではありながらも助言をくれた。
思い返してみれば、前にユリアが魔力をくれた時も同じく倒れそうになっていた。
あれは単に眠かったからだと思ってたけど、そうじゃないっぽいね。
「てか、アイリスも魔術師なんだろ? なら、あんたの方が詳しいんじゃないのかい?」
「えっとーボクはその……。自分の魔力量を考えて、限界を超えないよう抑えているのでっ。
なので魔力がなくなったりした経験がなくてですね……あはは」
「へえ、そのなのかい。思いのほか堅実にやってるんだね」
まさか、僕の話になるとは思ってなくて油断してたよね……。
それにしても"魔力切れ"かぁ。
普通はこうなるって、覚えておこっと。
「ハンナ、その口振りだと彼女――アイリスさんとは知り合いだったのかい?
なら、僕達のこともキミから紹介してくれてもいいのに……」
「はあ?? なに寝ぼけたこといってんだい?
前の依頼でアンタも会ってんでしょ。……もう忘れたのかい?」
主人公くんは、どうやら僕の事を覚えてないみたいだね。
まあ、彼とはあんまり関わった覚えもないから忘れられてても仕方ないよ。
というか、どっちでもいいし。
「前の依頼……? からかわないでくれよハンナ。彼女とは初対め……うん? アイリスって名前には聞き覚えが……っ!!
キ、キミっは、あのアイリスなのかいっ!?」
「へ? あ、は、はぃ……。『あの』というのがどれを指してるのか分かりませんが……えっと、改めましてアイリスです。
キャラバンの依頼ではお世話になりました。皆さんも無事だとは聞いてましたが、元気な姿を見れて安心しました」
何故か知らないけど、僕の事を思い出して本気で驚いている主人公くん。
リアクションが大きすぎてこっちがびっくりしたよ……びっくりし過ぎて、自己紹介始めちゃったじゃん。
「……女の子だったのか……。"ぼく"といっていたから、てっきり……」
なるほど、また男だと思われてたパターンってことなのね。
だから目の前の女の子を僕と認識出来なかった、と。
その他の三人も「お前、気づいてたか?」「いんや、全く……」「俺も……けど、よく見れば可愛いな」とか言ってて、気持ちの悪い視線を感じるから、こっちの認識が多数派みたいだ。
基本的にフードで顔を、外套でボディラインを分からないようにして、パッと見では性別を分からないようにしてるんだから、ずっとそう思っててくれていいのにね。
……うん? じゃあなんで今は女だと分かって――ぉぅ、フード脱げてるじゃん……あ、そっか。
何度かワイバーンが強風おこしてたから、その時に脱げたのかぁ。
最近、街にいる時は隠密スキルを使ってることもあって、この辺テキトーになってたよ。
「アンタねぇ…………。
この馬鹿はほっといていいから、あんた達は街に戻りな。そっちの子、もう限界みたいだしね」
「……わいばーん、ほうしゅう……うぷっ。……やまわけぇ」
「報酬? あぁ、あの依頼のね。私達はそれで構わないから、早く行きな」
こんな状態でも報酬の事を忘れてないなんて、すごいよフローラ。
しかも、取り分の交渉も済ませちゃったし!
「そうですか? はい、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、ボク達はこれで……」
「待ってくれないかっ。失礼な勘違いをしてしまったお詫びをしたいんだ、だから――」
「あのぉっ! 助けていただきありがとうございましたぁ~!」
――と、
その声の主は、とてとてと小走りで近づいて来ると、僕達の間に立って……彼の方へ向き直った。
「えっ、僕に用かい? というかキミは……」
「わたしはぁ、リーゼっていいますぅ。おおきなモンスターにおそわれてぇ、すごぉく怖かったですぅ」
ピンク色のツインテールを揺らながら、小さく一礼。
そして、対面する主人公くんを見上げると、潤んだ瞳で話し出した。
彼女、ワイバーンの注意が逸れたらすぐに逃げると思ってたんだけど、逃げずに木の影からずっと見守ってくれてたんだよね。
何してるのと思ったら、お礼を言うために残ってたなんて以外と律儀な
「悪いけど、僕はアイリスと話があるんだ。その後でいいかな?」
「っ!? え、えぇっとぉ、彼女たちお帰りみたいですしぃ、リーゼのお話をぉ……」
うわぁ、主人公くんなんかメンドーなこと言い出してるし……、ナイスガードだよリーゼ。
この隙に早く帰らないとね。
あっでも、フローラが寄りかかったままだとちょっと歩きにくいから、体勢を変えようかな。
まずはしゃがんでと……
「はいフローラ、ボクの背中に乗ってね……っ! う、うんっ、いい感じだよ~。
じゃあ二コラ、帰ろっか~」
「え? あぁいや、こっちは? 行っていいのか……?」
「うーん、ま、いいんじゃないかな? ハンナさんもいいって言ってたし。
……それに、アレを見せるのは、ちょっとコクだしさ」
「アレ? ……っ!!」
チラリと、少し離れたとある一点を見ながらそう言ってみる。
その意味あり気な視線に気付いてくれた彼女もチラ見すると、そこには真赤に染まった物体が二つ転がっている。
「だ、だな! は、早く帰るぞっ!」
おそらくはリーゼの仲間だったものだろうね。
これを弱った状態のフローラに見せるわけにはいかないって、ニコラも分かってくれて良かったよ。
それにしても、リーゼのあの上目遣いはいいね!
彼女の方が頭一つ分小さいから、自然とああなるのかな? どうにかして、僕にもやってくれないかな~。
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