輝く花 5
「は、走れっ! あと木をうまく使うんだっ! 木で視線を切れば……に、逃げられるはずだ!」
ということで戦闘開始――かと思ったら逃げろと言われてしまったね。
何だかここ数日はよく逃げてる気がするよ。
たぶん二コラのログウィンドウには、「<逃走>スキルのレベルが上がりました!」とか、出てるはずだよ。
……そんなスキルがあるのかは知らないけど。
「嫌! ワイバーンさんやっつけて、報酬もらうんだもん!」
それに対して、返ってきたのは拒否の言葉だ。
体は恐怖で震えていても、父親のため「何としてもお金を集めないと!」という意志だけで戦意を
かっこかわいいから文句はないんだけど、「戦えるのか?」って問題は残るね。
「やっつけるつっても、あたしたちが敵う相手じゃないんだってっ!?
金稼ぎなんて他にもやり様はあるんだから、ここは逃げる――」
「GAAAAWOOOOOOOOOOOOOッ!!」
「お、すごい」「なんでっ!?」「ひぅっ!?」
フローラの説得という高難度ミッションを二コラが始めたところで、大きな物体が突風とともに真横を通った。
そこまで密集してるわけじゃないけど、それでも木を避けながらの低空飛行だなんて高度な事が出来るとはね。ちょっと驚いたよ。
そのまま僕達の背後まで飛んでフワりと降り立つと、広げていた両翼を折り畳むワイバーン。
まあ何にしても、あっちの方から選択肢を絞ってくれたわけだね。
「どうやら戦うしかないみたいだよ」
「あぁ、そうだな……こうなることくらい想像してたっての、はは……。
――あたしがひきつけるから、魔法で援護頼むっ! お、おおぉぉぉぉおおおっ!!」
「ふぇ? ……う、うん! よーし、次こそは当てちゃうんだからっ!」
簡潔に指示を出すと、ハンマーをぎゅっと握って突撃していく二コラ。
さっきまで戦う気なかったとは思えないね。……大声にやけくそ感があるけど。
「GAWOO!」
「おおぉ――うおっ、あぶなっ!? こ、こんなん当たるかっての!!」
まずはワイバーンの攻撃。
一直線に向かってくるドワーフ娘を鋭い爪で切り裂こうとしたけど、小柄な彼女は間一髪で回避に成功だね。
だがしかし、動きが止まったところを狙って、もう一方の爪が迫っている。
しかも彼女は気付いていないようで、調子に乗った煽りの一言付きだ。
「……<ウォーターボール>! ニコちゃんだけじゃないんだからっ!」
「GAUUU……」
その危機的状況で、フローラが水の弾を発射して見事ワイバーンの頭に命中させた。
うーん。けど命中というか、避ける気すらなかったような?
さっき避けた時に、当たっても問題ないって見抜いたっぽいね。
目を細めて気持ち良さそうにしちゃって、まるで水浴びを楽しんでるみたいだよ。
そのおかげか、また攻撃を止められたみたいだけど。
「あ、もしかして次はボクの番?
えっと、じゃあ気に入ったみたいだから同じのでいこうかな。はい、<ウォーターボール>」
「GABOOOO!?」
先に弱い魔法を見たことで油断を誘えていたのだろう。
今度も回避するつもりがなかったようだが、余裕で受けた水の弾の圧に負けて長い首を仰け反らせている。
「余裕こいてるからだってのっ! <フルスイ――うおっ!? うわあああぁぁぁぁぁっ…………」
「んぅっ!! すごい風……っ! って、ニコちゃん!?」
何とか懐へ飛び込みハンマーを振り回した二コラだったが、大きく広げられた翼によって即座に強風を起こされてコロコロと吹き飛ばされてしまった。
そうなると、次の標的は残った僕達になるわけで――
「GAAAWOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!」
「っ!? どうしよっ、ニコちゃんどこかに飛ばされちゃったよ?!
でもでも、ワイバーンさんがいるから助けに行けないし……どうしたらいいのっ、アーちゃん??」
「そうだねー……。とりあえず、目の前のワイバーンに集中する方針で。
ってことで、フローラは魔法を撃ち続けてくれる?」
慌てるフローラと話ながら、僕はワイバーンに使った魔法の事を考えていた。
ふぅ、あれで死ななくて良かった~。
この前なんて、ハーピーの討伐報告をしただけで僕達みたいな低ランクパーティが倒せるモンスターじゃないって、騒ぎになりかけたからね。
もしワイバーンなんて倒しちゃったら、悪目立ちするに決まってるよ……。
たしか、撃退だっけ? 追い払うだけでも報酬はもらえるらしいし、このまま威力を抑えた魔法で少しずつ消耗させればいけるよね。
「う、うんっ、了解! どんどんいっちゃうよーっ!」
「GAUGUUU……」
なんて感じでのんびり話してたら、ワイバーンが小さく唸るみたいな声を出してるよ。
しかも、口の端からチョロチョロ火が漏れ出ていて……ブレスの兆候ってやつかな?
フローラは魔法の発動までに時間がかかるし、僕が攻撃を止めさせるしかないかぁ。
「うんうん、その意気だよ! ――でも、準備出来ちゃったから先に攻撃しとくね。<アイスショット>」
指先程の氷の
それらは陽の光をキラキラと反射しながら、標的の無駄に大きな頭部や胴体へ一直線に飛んでいく。
「GAAWOOOOOッッ!? GAWOOッッ?!? ――GAUUッ!!」
「きれい…………」
魔法が命中したワイバーンが苦痛の咆哮を上げている。
ん? やけに
一発一発の大きさをかなり抑えて、威力を下げたはずなのに……おかしいような?
ま、ちょっと反応が大袈裟なくらいは別にいっか。
フローラも気に入ってくれたみたいだしね~。
――と、そんなことを考えていたら思いがけない人達が登場することになった。
「はああぁぁぁぁっ! <スラッシュ>っ!!」
「GAWOOOOOOOOOOOッ!?」
スキルによって威力が増した斬撃を胴体に受けたワイバーンが、再度苦痛の咆哮を上げている。
その反応を見届けて満足したのか、その人物がこちらへ声をかけてきた。
「キミたち、大丈夫かい? ……うん、ワイバーン相手によく持ちこたえたね。
――ここからは僕らが加勢するよ!」
そう言ったのは、ロングソードを装備した青年だ。容姿にはそれ以外の特筆すべき特徴は見当たらず、一見して凡庸な人物に見える。
しかし、そんなプラスもないがマイナスも見当たらないところが、逆に「主人公っぽいなぁ」と思わせる人物で……んん? こんな感じの人、前にどっかで会ったよね?
というか、よく見たら手足とかプルプルしてるよ。
飛び込んでみたはいいけど、内心では一杯いっぱいっぽいね。
「『ダブルスタブ』っ!! ――くっ、硬いわね……っ!
で、あんたはなにカッコつけてんだいっ! 私らだって、こんなの相手じゃ
次に現れたのは二本の細剣を装備した黒髪の女で、さっきの主人公くんへ意識が向いた隙を付いて翼を二回突き刺していた。
それと、彼女達が来た方向から槍と盾と弓を持った人達も遅れて近づいて来てるね。
「なっ?! へ、変なこと言わないでくれよハンナっ。
かっこつけてるんじゃなくて、彼女たちを安心させようとしたんじゃないか」
「はいはい、言い訳なら後で――来るよっ!」
「GAWOOッ!!」
彼女の忠告通り、ワイバーンは少し姿勢を低くして何らかの攻撃を仕掛けようとしている。
どんな攻撃をするのか見ていると、体を捻ってお尻の方をこっちに向けて……え、終わり?
「GAWOッ!? GUUUWWOOOOッッ!!」
今のは何がしたかったのかな? 攻撃か、それともダンスだったりして……?
いや、今の動き見覚えが――あ、そうか。尻尾攻撃だ。
たぶん尻尾があったら、それを振り回して近くにいる二人を吹き飛ばしていたんだろうね。
「う~~~んっ、わたしもアーちゃんみたいに……<ウォーターボール>っ!」
「おぉおおりゃああぁあっ<投擲>!!」
何故か慌てた様子で色々と空回っているワイバーンに向けて、フローラが水魔法を飛ばした。
さっきからどう見てもおかしいけど、どうしたんだろうね?
もしかして、自分の尻尾がないことを忘れてたのかなぁ……って、あり得ないかー。
あ、それと槍の人が槍を投げたね。スキルで強化しての攻撃みたいだけど、大したダメージにはならないでしょ。
「GAUUッッ!?! GUWAッ、GUUWAAAAAAAAAAAAAA……ッ!!」
「へ、マジ……? 俺の槍が決め手になった!?」
水の弾……と、ついでに槍が当たると、
槍の人、自分でも信じられないって反応してるよ。
確かにね。あんな貧相な攻撃が決め手になるなんて信じられない……うん? 何かがパラパラと……って、氷?
ワイバーンが飛び去った空から氷の欠片が落ちてきた。
たぶん……というか確実に、僕が使ったアイスショットの一部だね。
しかも氷だけじゃなくて、中に何かキラキラしたものが……えと、これってワイバーンの鱗かな?
凍ったことで全身を覆っている鱗の一部が剥がれ落ちたみたいだ。
ってことは、鱗がなくなったところは防御力が下がってたのかもね。
まぁそうだよねー。
ノラ達の攻撃が全く通じてなかったのに、彼らの攻撃が効くなんて変だと思ったよ。
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