夜這い 1

「ふぁぁ……、明日も街中を探し回ることになるでしょうし、もう寝ましょうか?」



 明日のことについて2人と軽く話し終えると、カルラは早々に眠そうな表情をしていた。

 夜だし、もちろん寝るのは構わないんだけど……そこには1つ問題がある。



「そ、そうだね。でも、ベッドが1つしかないけど……どうする?」



 泊まる人数が増えても宿泊料金が変わらないように、ベッドの数も当然変わっていない。

 このままだと同じベッドで寝ることになっちゃうんだけど……いいんですか?



「う~ん? 詰めれば、3人一緒でも大丈夫よぉ。

 あたしが真ん中になってぇ、くっついてきても気にしないから……。

 きょうはあつくもないし、きっとねぐるしくないわぁ……」



 よし。本人の承諾も得たな。

 これはもう美少女と一緒に寝ても、何の問題もないよね。



「ええとじゃあ、ボクは左側をもらうね」



 このベッド、ダブルサイズくらいありそうだが、やはり3人で寝るとなると少し狭い。

 普通に横になると肩が隣のカルラと接してしまっている。



「ふぁぁ…………もう、げん、かい……。ふたりとも、おや……すみ…………」


「う、うん。おやすみ……っ」「……おやすみなさい」



 カルラからは直ぐにすうすうと安らかな寝息が聞こえてくる。……眠るの早いなぁ。

 まあ、彼女達には色々と大変な1日だったのだろうし、かなり疲れていたんだろうね。


 それに対して、僕は全然眠気を感じていない。

 隣からは甘いようないい香りもするし……これは、うん。


 今日は、徹夜も覚悟しないといけないかもね。




 ***




「…………?」



 頭が少しぼーっとして、うとうとし始めた頃。ぎしぎしとベッドが軋む音が聞こえてきた。

 う~ん? トイレにでも行くのかなぁ。 ……あれ、違う? 扉はあっちだよね……?


 物音の主は部屋の入口ではなく、あきらかに僕の方に近づいてくる。

 いや、待て待て、なんでこっちに? まさかこれって…………夜這よばい?



「…………ぇっ?」



 目を開けると、濃い夜空を思わせるタンザナイトのような瞳が僕を覗いていた。


 加えて、窓からは月明かりがその端正な顔を照らしている。

 エルフという神秘的な存在も相まって幻想的とすら思える光景だ。



「アンジェ、さん……? 何をして――」


「しーー、ですよ? アイリスさん。

 あまり大きな声を出すと、カルラちゃんが起きちゃいますから」



 可愛いらしい声とともに、白くて細い指が僕の唇に重ねられてしまった。

 なぜだろう? 目の前のアンジェには、有無を言わせないような雰囲気がある。



「やっぱり、眠れないですよね? カルラちゃん、こういうところは本当に鈍いんです。

 だから、わたしがお相手をしますよ」



 彼女はそういうと妖艶な笑みを浮かべる。

 よく見れば、その白い頬は上気しており、昼間見た時よりも赤みが増している。


 ええっ、本当に夜這いなの? ……いやいや、展開おかしいって! どういう流れだとこうなるの?

 童貞にも分かるような説明がほしいよっ!?



「ちょっ、ちょっと待って……っ!」


「――ん…………。大丈夫です。ちゃんとわかってますから、わたしに全部任せてください」



 アンジェの顔が近づいて来たかと思うと、唇に柔らかい感触が触れる。

 しかも、それと同時に柑橘系のさわやかな芳香も漂ってきて、頭がふわふわする。


 さっきの指も十分に柔らかかったが、今回のはそれ以上だ。

 つまり、これは……キス、されちゃった?


 えーと、前世は当然だとして、この体でもファーストキスになるのかな? なんて……ね。



 何もかもが疑問だらけで、頭がいっぱいだ。

 今日一日の記憶が頭の中を巡っているが、どうしてこうなったのかなんて全く分からない。



「どう……して……?」


「? ……もしかして、わたしだと経験が無さそうで心配ですか? 

 それについては大丈夫ですよ。 安心してください。

 だって、わたしもアイリスさんと同じなんですから」



 僕と同じとはどういう意味なのだろう?

 同じ……こんな場面で言うんだから何か特別な……。


 それってまさか、アンジェも転生者……?



「同じ……それって、もしかして……」


「はい、そうですよ。

 わたしもアイリスさんと同じで、



 マジか……まさかアンジェも前世が男の転生者だったのか……。

 それで、ええと? 何でこういう状況になるの?



「なので、男の方を気持ちよくする方法は心得ています。安心して体を預けてください。

 ふふっ、仕方ないですよね? なんですから、体が勝手に疼いてしまいますよ」



 ああ、なるほどね。

 同じ元男として美少女と一緒に寝る苦労が分かるから、僕のことを慰めてくれようとしてるってことか。


 いや、待てよ。

 アンジェが言っていることに、違和感が……心が女で体が男って、それは逆じゃないかな?



「体が男って、あの間違いじゃあ……?」


「……信じられませんか? でも、そう言ってもらえるのは嬉しいです。

 わたしのこと女の子にしか思えない、ってことですよね?

 それでは……こうしたら、信じられると思います」



 彼女は僕の手を掴むと、その手を自身の股へと誘導していく。

 やがて、その手は彼女の大事な部分へと吸い込まれていき――むにっとした柔らかくありながらも、まるで芯があるような……そんなモノの感触を伝えてくる。


 そうそう、この感触だ。まだ僅か数日しか経ってないのに、なぜか懐かしいような――って、この感触はまさか……本当にアンジェは男……っ!!


 確かめるためにしっかりとそれをまさぐってみるが、これは完全にアレだ。

 大きさはお子様サイズだけど、ちゃんと棒も玉もついている。



「んっ、だめ……ですよぅ。そんなにいじったらわたしが先に気持ちよくなっちゃいますからぁ……。

 まずは、わたしがアイリスさんにしてあげますからね?」



 彼女が先程言っていたことは間違いではなかったようだ。いや、彼女じゃなくて彼か?

 って、そうな呑気なことを考えている場合じゃなくて!?



「えっ、いやあの、そうじゃなくて……っ」


「さすがに、これで信じてくれましたよね。

 うふふ、混乱しているんですか? 本当にかわいい……。

 でも、これ以上はわたしの方が我慢できないので、続き始めますね?」



 アンジェの可愛らしい手が僕の太腿をのぼってくる。


 まるで滑らかな絹のような感触だ。

 くすぐったくもあるけど、そのまま撫でていてほしいような……絶妙な心地よさがある。



「肌のキメ、すごい細かいですね……ずっと触っていたくなります。

 だけど、これだけだと切なくなっちゃいますから、すぐにこっちもよくしてあげますね?」



 ……なんだか、ここで止めてしまうのは勿体ないと思えてきた。

 もう少しくらいなら、続けてもらってもいいかなぁ。



「下着も女性物なんですね。うんうん、分かります。わたしもそうなんですよ。

 やっぱり、こういうところから女の子でいないと……あれ、膨らみが全くない?

 すごいですね。これどうやってるんですか?」



 羞恥を覚えながらも勇気を出して購入した女物の下着は、いとも簡単にずり下げられてしまう。

 女の子な部分が完全に露出してしまい、これはもう僕の防御力は0も同然だ。



「えっ? な、い?? そんな……ここにはアレがあるはずで、それがないってことは、どういうこと???

 ……もしかして、アレって隠すことができるんですか? なんて、あはは……はは……。

 ということは……アイリスサンハオンナノコ? いえ、そんなことはないはずっ! アレはっ、アレはどこにあるですか!?」


「んぅ……、っっ……、そ、そこはっ、乱暴に触ったら……」



 アンジェは慌てているせいか、敏感な場所を手荒く弄り回してくる。

 痛くは……ないが、自分でも不慣れな場所を見られて、しかも好きなように弄られるのはすごく恥ずかしい……。


 とはいえ、羞恥心は刺激されても、男にこんな行為をされているという不快感みたいなものは一切感じない。

 あるいは、このまま最後までいってしまったとしても、後悔はないかもしれないとすら思えてくる。



 ……そうか、アンジェはどう見ても美少女。つまり彼女は、実質女の子ということだ。

 そして、今の僕だって見た目は美少女の実質女の子だ。


 実質女の子同士ならナニをしちゃったとしてもセーフだよね?



「そんなっ、なんで!? 本当に、ないの……?

 じゃ、じゃあこっちは!! 胸は……や、柔らかい……? 詰め物でもないの?

 それは……こっちもほ、ホンモノってこと? つまり、アイリスさんは本物の女の子、なんですか……?」


「はぁ、はぁ……全部、確認してくれたのなら、もう分かってくれたよね?

 そ、それじゃあ、アンジェさん……。ボクも初めてだから、その…………や、優しくおねがい、ね?」



 強引に上の服まで脱がされたあげく、胸も直接揉まれてしまった。

 これはもういくところまでいかないと、僕も満足できそうにない。


 童貞は捨てられなかったけど、思ったよりも早く処女は失いそうだ。



「うみゅぅ……。一体なによ、人が寝てる横でうるさ……い、わね……?」


「あっ」「……えっ?」



 そういえば、隣ではカルラが寝てたんだった。……完全に忘れてたよ。


 ということで残念ではあるが、突然の夜這い騒動は強制終了となってしまった。

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