親友探し 7

 結論から言ってしまうと、あの黒髪ロン毛の男の話しは嘘だったようだ。



 僕達を襲うように命令した"旦那"という人物がいると教えられた場所へ行ってみると、そこはチンピラ達の溜まり場だった。

 とりあえずはさっきと同じように全員を魔法で動けなくして尋問、そしてまた聞き出した場所へ移動、という行動を繰り返している。


 そんな感じで、今は4回目の尋問フェーズだ。



「あんたが旦那とか呼ばれてるんでしょっ! なんであたし達を襲わせたのっ! 

 ほらっ、全部白状しちゃいなさいっ!!」


「だ、だから何のことだよっ!? そんなヤツは知らねぇってぇ……ああもうっ、分かったよ!? 話すっ!! 何でも話すからっ、これ以上は勘弁してくれ!!」



 またチンピラ風の男から、"旦那"と呼ばれる人物の居場所を聞き出す。


 こんなやり取りを何度もしているというのに未だに目当ての人物には出会えないので、僕たちはあの男がその場しのぎの嘘をついたと結論付けた感じだ。



「アイリスさん、今回の話は本当だと思いますか?

 ……わたしはまた嘘をつかれているように思うんです。

 根拠は……わたしの勘なんですけど……」



 カルラがチンピラから話を聞き出しているためなのか、アンジェはその情報を整理する頭脳担当になっている。

 とはいえ、元々の手掛かり自体不足してるから、聞き出した情報の真偽も現状では分からない。


 彼女の言うように、結局は勘で決めるしかないんだよね。



「うーん、どうかな……。 嘘かもしれないし、今回の話は本当ってこともあるかも?

 やっぱり、言われた場所に行ってみないと分からない、かな」


「そう、ですよね。でも、これじゃあ当てずっぽうと変わらない……。

 ううん、まだ候補があるだけマシなの? けど、このまま同じやり方を続けても……」



 やっぱり、暴力で脅して無理やり聞き出しても、正しい情報は得られないかぁ。

 たぶんチャームなんかの精神系魔法を使えば解決する問題なんだろうけど……。


 ふふふ、あくまで今回の主役は彼女達だからね。僕の担当は敵を動けなくするところまで、ということで。



 そうして、アンジェが次の行動について長考に入ろうとしたところで、ぐぅ~と誰かのお腹の音が聞こえてきた。



「あ、あたしじゃないわよ……っ。

 たぶん、こいつらよっ。 ま、まったく、チンピラのくせに空腹だなんて生意気よね!」



 照れ隠しなのかカルラが横暴なことを言い出したが、たしかにもう夕食にはいい感じの時間だ。

 というか、今日は朝食しか食べてなかった。色々なことがあり過ぎて食事のことなんか忘れてたよ。



「あーえっと、でもボクもお腹が空いたかな。 そろそろご飯にしない?」



 朝食といえば、彼女達はいつ食事をしたのかな?

 僕と出会う前はたしか……襲われそうになって森に逃げ込んだ、という話だったと思うけど、朝食くらいは食べたのだろうか?




 ***




 今日のところは捜索を終わりにして目に付いた飲食店へ入ることにした。



「んむっ……、はぐはぐ……」「ごくごく、もぐ……もぐ……んっ」



 僕の疑問も見当外れではなかったようで、彼女達は一心不乱に夕食を食べている。


 これはかなり空腹だったんじゃないかな。

 何というかラドミラを探すことに意識が向き過ぎて、食事のことなんか忘れてたって感じだ。



「……? んくっ、どうしました? じっと、わたしのこと見てました……よね?」


「えっ? ううん、何でもないよ?」



 結局、ラドミラ捜索の収穫はないも同然だったから、もしかすると今日一番の収穫はアンジェと仲良くなれたことかもしれない。


 初めはなんとなくカルラの陰に隠れているような、ちょっとした距離感を感じてたんだよね。

 それが、尋問でカルラが手一杯になったくらいから、アンジェの方から話しかけてくれることが多くなった気がする。


 大したことはしてない気がするけど、一緒に捜索活動したから仲間だと認められたってことかな?

 うーん……、まぁいいか。何にしてもぼっちだった僕が美少女と仲良くなれるなんて、女の子に転生するのもいいもんだね。



「えっと、そうだ。これからのことなんだけど、2人が泊まる宿を探さないといけないよね?

 ボクは数日前から泊ってるとこがあるんだ」


「そのことなのだけど……、アイリスの部屋に泊めてくれない?

 ほ、ほら、3人一緒にいた方がなにかと便利だと思うのよねっ。

 ねっ、アンジェもそう思うでしょ?」


「……その方がいいと思う。けど、もちろんアイリスさんが許可してくれたらだよ?

 ということなんですけど、わたし達も一緒の部屋に泊めてもらえますか?」


「う、うん、ボクは問題ないかな。でも1人用の部屋だから狭いよ?」


「ええ、そんなこともちろん承知してるわよ

(……よかった。これで宿代が浮くわね)」


「(もう、そんなこと言って……。アイリスさんに聞こえたらどうするの?)」



 バッチリ聞こえてるよ。

 まあ、そんなことだろうとは思ったけどね。


 とはいえ、美少女エルフ2人とのお泊りがあっさりと決まってしまった。

 何かあったらどうしよう。って、女の子同士で何かあるわけないか。




 ***




 僕が泊っている宿まで帰ってきた。


 まずはカウンターで、3人であの部屋に泊まることを伝えたが特に何も言われなかった。

 しかも宿泊料金は部屋単位で決まっているらしく、人数が増えても料金は加算されないそうだ。


 なるほどね。そういうことなら一緒に泊まった方がお得だ。



 残念だったのは、2人を部屋に案内した後「一緒に風呂屋に行かない?」と、平常心を装って誘ったのに断られてしまったことだ。


 折角の女の子同士という状況を活かしたファインプレーだったのに、何がいけなかったんだか……。

 仕方ないからクリアの魔法で清潔状態にしてあげたら2人とも喜んでたし、お風呂だって嫌いじゃないと思うんだけど……。



 ちなみに、風呂屋には昨日1人で行ってみた。

 前に少し考えた混浴説が正解だったみたいで、男湯・女湯の区切りは見当たらなかった。


 混浴とはいっても男女が真っ裸で入っているわけじゃなく、大抵の人がタオルか湯着で体を隠してたんだけどね。

 まぁ、今の体だと視姦される側になると思うから半分残念、半分安心といったところかな。


 ……カルラとアンジェが一緒だったら視線も分散するだろうし、何より美少女と一緒のお風呂なんてすごく魅力的なのになぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る