親友探し 6

 さらに数ヵ所の奴隷市場を回ってみたが、ラドミラの居場所につながるような手掛かりは見つからなかった。

 おそらく、あの広場周辺にはいないんじゃないか、というのが2人と話し合った結論だ。



 なのでいまは他の奴隷市場があるという、街の西門付近へ向けて移動している。

 移動中なんだけど……もしかしたら、僕達は尾行されているのかもしれない。


 広場から離れるのを待っていたかのように、いくつかの生命反応が後をつけて来てるんだよね。


 うーん、たまたま行き先が被ってるだけとか?

 勘違いだったら恥ずかしいだけだし、スルーしてもいいんだけど……。


 まぁ、確かめるぐらいは一応しておくか。



「……次の脇道、曲がってくれる? あそこ抜けた方が近道なんだ」


「そうなの? 分かったわ。そちらに行きましょうか」



 彼女達は何の疑問も持たず、僕の誘導に従ってくれるみたいだ。


 この道……見るからに怪しげな雰囲気が漂ってるなぁ。

 自分で誘導しておいてなんだけど、こんなところで何が起こったとしても文句言えないよ?




 ***




「よう、嬢ちゃん達。この辺は危険だぜ? 何なら俺達が守ってやろうか」



 ギリギリ2人、3人が並んで歩けるくらいの脇道を進んでいくと、男が道を塞ぐように立っていた。

 見たところ20代前半くらいで、髪を胸くらいまで伸ばしている。顔は……たぶん整っている方なのかな?


 少し気になったのは黒髪黒目というところだ。

 転生してまだ数日なのに、日本人的な特徴を見ると懐かしい気分になってくる。


 とはいえ、目鼻立ちは完全に西洋系って感じだから、それ以外の共通点は何もないんだけどね。



 全体的に軽薄そうな人物で、彼だけだったら如何にもナンパしに来ました。という雰囲気がある。

 しかし、その後ろにはチンピラ風の男が2人、下卑た笑みを浮かべて立っていて、それだけでは済まなそうな感じだ。



「な、なに? あたし達、ここを通りたいだけなのだけど! そ、そこを退いてくれるっ!?」


「だから言ってるだろ? この辺は危ないから、俺たちが嬢ちゃん達を守ってやるって、言ってんだよ」


「ふざけたことを言ってないで……」


「ふ、ふたりとも!? 後ろにも誰か来てるよっ!?」



 後ろを振り返ると、こちらにも男が4人、ボクたちが逃げられないように道を塞いでいる。

 こちらも見るからにチンピラという感じの男達だ。


 これで、ついて来ていた全員が揃ったみたいだ。

 ふぅ、よかった……僕の勘違いということはなくなったね。



「あの広場からずっとついて来てましたよね。ボク達に何か用ですか?」


「あ? ……気付いてやがったか。だが、それなら話が早い。

 大人しく俺達の言う通りにしてもらおうか? そうすりゃ、怪我しないからよ」


「えっ、なに言って……待って、アイリスは気づいていた……? そう、この道へ入るように言ったのもアイリスで……。

 まさかあなたっ、あたし達を裏切ったの!?」



 おっと、彼女達に相談もなく進めたから誤解されそうだね。

 まぁ、誤解されるだけならいいけど、2人に変な行動される前に終わらせないといけないかな。



「ボク達をどうするつもりなのか、まずはそれを教えてくれますか?」


「それは秘密だ。知らない方が楽しめることもあるんだぜ?

 おい、お前らこのお嬢さん達を、丁重にエスコートしてやれ」


「へい、アニキ。でも少しくらいなら、俺らも楽しんでいいんですよね?」


「いいわけねぇだろ。……はぁ、旦那にバレない程度にしておけよ?」


「へへっ、さすが兄貴っ! それじゃあ俺は、そこのピンク髪を――」


「――あ、あんた達っ!! なに好き勝手言ってんのよっ!!

 ほ、ほら、アンジェも戦うわよっ!」


「う、うんっ!!」



 2人共震えてはいるが、それでも戦うつもりらしい。

 これ以上は危ないかな? うーんと、じゃあそろそろ始めるか……。



「<パラライズ>」


「なっ、何だっ!? おいっ、お前ら起きろ!!」



 リーダー格と思われる黒髪ロン毛以外の男達が、どさりと倒れる。

 全員口からは涎を垂らして、痙攣している。これは、ちゃんと麻痺になってくれたのかな?


 状態異常魔法は初めて使うから成功したのかが分かり辛い……。

 でも、これなら破裂することはないだろう。


 対人戦闘とかで相手を無力化するだけなら、都合が良さそうだね。



「魔術師がいるなんて聞いてねえぞっ!? ……ちっ、ここは撤退だ!!」


「<バインド>。あなたには聞きたいことがあるので、逃げられると困るんですよね」


「なんだこれっ!? か、体が、動かねえ……っ」



 麻痺だと会話もできそうにないから、彼は体の自由を奪うだけの魔法にしておいた。

 これで、ゆっくりと話が聞けるだろう。



「それじゃあ質問に答えて……」


「あ、あんたっ!! さっき言ってた"旦那"って誰のことよ!?

 正直に言わないと、ヒドイことになるわよっ」



 どうやら、尋問はカルラがやってくれるみたいだ。

 ……さっきまで震えていたのに、有利な状況になった途端に強気だねぇ。


 とはいっても、僕は尋問なんてやったことないから、彼女がやってくれるならありがたいんだけどね。



「はっ! お前みたいなガキの脅し程度でペラペラしゃべると思って――う゛っ!? っっっ、お゛お゛ぅ……っ、…………っ」



 大きく足を振り上げることで勢いをのせたカルラの蹴りが、黒髪ロン毛の股間にめり込んだ。

 おぉ、なんて的確な急所狙い。 ……見てただけなのに、お腹の下あたりがふわってなったよ。



「ぅぉぉ……っ、て、てめぇ……、……っ、おれがうごけねぇからって、いい気になるな――」


「――うりゃっ! ど、どう? 少しは話す気になったかしら?

 ……あなたが知ってることを話せば、やめてあげてもいいわよ?」


「ぉぉぉぅ…………、う゛ぅ゛ぅ゛……、ぐっ、クソっ、……誰が話すか――ま、待てっ!!

 わ、分かった……話す! 全部話すからっ! これ以上は勘弁してくれっ!!

 旦那のことが知りたいんだよな!? それなら居場所は……」



 3発目の蹴りのモーションに入ったところで、黒髪ロン毛は白状する気になったようだ。


 あ、あはは……カルラは尋問が上手だね……。エルフの森では、拷問でもしてたのかな?



「……そう。あなたに命令した人間は普段、その場所にいるのね。

 ……嘘だったら、承知しないわよ?」


「あ、ああ、嘘なんか言ってねぇよ……そこに行ってみれば分かるさ。

 なぁ、俺が知ってる事はこれで全部なんだ。この魔法を解いてくれよ? いいだろ?」


「ええ、そうね。……話してくれて、ありがと、ねっ!!」


「う゛お゛お゛おぅぅぅぅ……話が、ちげぇ……っ、…………」



 最後の一発は、ゴスッという感じの一際鈍い音がした。

 ……本当に容赦がない。


 彼は3発目でやっと意識を手放せたようだ。

 いい夢は……きっと見られないと思うけど、気絶できたのは幸せだろう。



「ふぅ、この男が話してた"旦那"? とかいうヤツの居場所に行ってみない?

 あたしの勘では、そいつが一番怪しいのよね。

 ……どうしたのアイリス? そんなところ抑えて……、もしかして具合が悪いの?」


「え? ……う、ううん、何でもないよ? ええっと、気にしないで……。

 そ、そうだっ。カルラさんの言う通り、その旦那って人のところに行ってみようかっ?」



 き、気付かなかった。無意識のうちに股間を抑えていたなんて……変に思われたかな?


 うーん、でもまあ、いいか。

 ……勘ぐられたとしても、それはもう僕にはないモノのこと、なんだからさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る