親友探し 5

「えっと、ここに奴隷市場があるのかな?」



 教えてもらった通りに進むと確かに広場のような場所についた。

 でも、どう見ても普通の広場だ。奴隷という言葉からイメージする退廃的な雰囲気は感じられない。


 一体どこで奴隷なんて売られているんだろう?



「たぶん、あの建物がそうじゃないかしら?

 ほら、いま小太りの男が入っていった建物……」


「あれがそうなの? 見た目は普通のお店なんだね」


「そうですね。でも看板に首輪のマークが描かれてますから、間違いないと思います。

 それにあっちにある、少し大きな建物もそうですね」


「こっちにあるのも……って、多いわね……これ何件あるの?」



 どうやら、この広場を囲うように奴隷を扱う店が集まっているみたいだ。

 フランツが店自体ではなく、広場を教えてくれた意味がわかった。



「とりあえず、目に付いたあの店に入ってみましょう?

 こういうのは一か所ずつ調べていくしかないのよ」


「……そ、そうだよね。って、ひとりで行かないでよっ! カルラちゃんっ!?」



 僕も2人に置いて行かれないよう急いで店に入ることにした。


 奴隷か……初めて目にするな。当然だけど前世では見たことなんてないし、どんな感じなんだろうね。

 ああ、会社の奴隷なら自分も含めていっぱい見たことあったか。いや、アレは家畜だっけ?




 ***




 店の中には檻のようなものが複数並んでおり、その中には薄い服を着た人達が入れられている。

 さすがに男女は分けられているようだが、周りからは見られ放題だ。


 こんなところで見世物にされるのは、遠慮したいね。



「聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」


「らっしゃい。……お客さん、ここは初めてですかい?

 お目当ての奴隷の特徴を言ってくれれば案内しますんで、何でもいってくだせい」



 カルラは店に入ると、店員らしき男に迷いなく話かけに行った。


 よくこんな場所で普通にしていられるね。僕なんて初めての光景に驚いてしまって、動けなかったよ。

 あれ、アンジェもそんなに怯えていない?


 ……ああ、そういえば彼女達はラドミラを追って色んな都市に立ち寄ってたんだった。

 きっと、人間が売られている光景も見慣れちゃったのかな。



「……そうね。特徴は……ダークエルフの女の子よ」


「ダークエルフ、ですかい?

 ……お客さん、冗談言わないでくだせえよ。そんなもんあるわけが……」



 ん? ダークエルフ? エルフじゃなかったの?

 そういえば、彼女達も探しているのがエルフだとは言っていなかった気がする。


 まあ、大した違いじゃないか。



「冗談じゃなく本気よ。それにあたし達、客でもないの。ほら、これを見て」



 彼女は、またフードを脱いでその長い耳を見せている。

 やっぱり長い耳はエルフの証なんだね。それだけで種族が分かるなんて便利かも。



「エルフ……っ。ああ、そういうことか。

 悪いがねぇもんはねぇんだ。客でもないなら帰ってくれ」


「ちょっと待って! 本当に知らないの? ……それなら、ここじゃなくてもいいわ。

 どこかの店で、ダークエルフが売られてるとか、そういう話は聞いたことがないかしら?」


「知らねぇよ。これ以上は商売の邪魔だ。……出て行かないなら、力づくで――」


「――あっ、あの! これをどうぞっ」



 アンジェはそう言うと何かを店員に渡した。チラリと見えた感じだと銀貨? かな……。

 賄賂ね。どこの世界もこういうところは変わらないようだ。


 もしかして今の場面って、用心棒として前に出るところだったのかな?

 …………。ああ、えっと、お金で解決できるならそれがいいよね! 


 うんうん、そうだそれが一番だ!



「……。まあ、そういうことなら少しくらいはいいがな。

 だが、ダークエルフなんて本当に知らねえぞ。

 そんな上物が入ったらすぐに噂にもなるからなぁ、この辺にはいないんじゃねぇか?」


「そう……、わかったわ。次の店に行きましょう」


「あ、はい」



 カルラは意外と簡単に引き下がった。

 こうやって、聞き込みをしても空振りだったのって、何回目なんだろう?


 彼女達の苦労がしのばれるなぁ。




 ***




 彼女達の後について何件か同じような店を回ったが、どこにもラドミラらしき奴隷はいなかった。


 とはいっても、基本は店員に尋ねただけだから、本当にいないのかは分からないけどね。

 フランツの話だと、バレたら死罪に相当するらしいし、尋ねただけで素直に教えてくれるのかな?



「……聞かないのね?」


「え? 聞くって、何を?」



 次の店に行く途中、歩いていたらカルラから突然の質問が飛んできた。

 何か彼女に聞かないといけないことがあったかな?



「あたし達が探しているのが、"ダークエルフ"ということについてよ。

 あなたには黙っていたでしょう? なぜ、黙っていたのか、アイリスは聞かないの?」


「うん? ああ、そうだね。たしかに2人と同じエルフを探してるものだと思ってたよ。

 でも、ダークエルフだと何か問題があるの? エルフとダークエルフって、そんなに違うもの……なのかな?」


「…………そうね。そうよね。ふふふっ、あなたの言う通りだったわ。

 ダークエルフもエルフも、大した違いはないわねっ」



 率直に質問をしただけなのに、なぜか優しく微笑まれてしまった。


 あのー、エルフとダークエルフの違いについて、できれば教えて欲しいんだけど……これはもう聞ける雰囲気じゃないな。

 ダークエルフ……か、どんな事情があるんだろうね?

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